石川慶監督「ある男」ベネチアでお披露目 妻夫木聡、窪田正孝らにスタンディングオベーション
2022年9月3日 11:30

第79回ベネチア国際映画祭、開催2日目の9月1日(現地時間)、オリゾンティ部門に選出された石川慶監督の「ある男」がプレミア上映され、石川監督とともに妻夫木聡、窪田正孝が登壇した。約1000人の観客で埋まった会場で、上映終了後、スタンディングオベーションで迎えられた彼らは、それぞれに感動した面持ちでQ&Aに臨んだ。
この日を待ち望んでいたという妻夫木が、「今日は起こし頂きありがとうございました。ここに来られて本当に嬉しいです」と英語で挨拶すると、場内に温かい拍手が沸き起こった。
平野啓一郎による同名のベストセラー小説を映画化した本作は、事故死をした夫(窪田正孝)がじつは他人になりすましていたということを妻(安藤サクラ)が知ることから、弁護士(妻夫木聡)によって、夫と思っていた人間の正体が明かされていくというヒューマンミステリーだ。
アイデンティティに関する物語を描こうと思った理由を尋ねられた石川監督は、「もともとアイデンティティに関するテーマは、僕が映画を作るときにいつも考えていることではあるのですが、今回は、誰かを愛するときにその人の良い部分も悪い部分も過去も、全部をひっくるめて愛せるのか、ということをちゃんと扱ってみたいと思ったのがきっかけです」と語った。

妻夫木は、「謎の男を追求していく弁護士の役を演じるなかで、自分自身は何かということを考えさせられました。もちろん、弁護士にお会いしたり裁判を見たりして準備をしましたが、とくに子どもとの時間を大事にしました。子どもの存在を通して自分の生きている意味や仕事について鏡のように考えることができました。この映画は僕にとってどこか、自分を許してあげられる映画になったと思います。だからみなさんにとってもこの映画が、人生の道しるべのような映画になってくれたら嬉しいです」と語り、再び拍手を浴びた。
続いて窪田は、「本日はありがとうございました。(重層的な役を演じたことに対して)役に意味を持たせ過ぎると観てくださる方の余白がなくなるので、そうならないように、情報を与え過ぎないように演じました。自分の人生は自分だけのものですし、この映画は悔いのない人生を送ることができるように、背中を教えてくれる作品だと思います」と述べた。
3人は終了後、会場を後にするなかでも地元の映画ファンに囲まれ、感想を述べられるなど、作品が海外の観客に届いている様子が伺えた。

さらに日本のマスコミ向けの取材に応じた3人は、それぞれの率直な感想を語った。「愚行録」に続き今回が2度目のオリゾンティ部門参加となった石川監督は、観客のスタンディングオベーションの反応について、「温かく迎えられたのでほっとしています。また日本のリアリティが感じられるように作ったつもりなので、日本社会に関する質問なども頂き嬉しかったです」と手応えを感じた様子。
妻夫木が、「海外の映画祭に来ると、映画って自由なんだなと本当に感じます。映画に国境はないし、映画で色々な人のことを知ることができ、自分たちも学べる。そして映画がどんどん豊かになっていく。こんなに素晴らしい世界があるのだということを思い知らされる映画祭でした」と語ると窪田は、「映画祭は映画が大好きな人たちが集結するイベントで、この仕事がまた好きになれるきっかけになれたので、ベネチアに来られたことに感謝しています」と笑顔を向けた。
さらにベネチアという地の印象を尋ねられると妻夫木は、「じつはここに来るときにロストバゲージをしたんですが、衣装を探すだけでも本当に色々な方が助けてくださって。倍どころか倍以上のお返しで、価値のつけられないものを受け取った気がしています。それもまた映画で(人々が)繋がれた、ということなんだと思います」と、貴重な体験の感想を述べてくれた。(佐藤久理子)
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