ミュージカル界のプリンス・井上芳雄が名作「ガイズ&ドールズ」の二枚目ギャンブラー役で大勝負に出る!【若林ゆり 舞台.com】
2022年6月9日 14:00
映画ファンには「野郎どもと女たち」(1956)と言った方が馴染み深いかもしれない。デイモン・ラニヨンの短編小説を原作に、マーロン・ブランド、フランク・シナトラが共演したこのミュージカル映画(現在ハリウッドでのリメイク企画も進行中)は、実はブロードウェイの舞台版が先。1936年のニューヨーク・ブロードウェイ界隈で、クラップ・ゲーム(サイコロ賭博)に明け暮れるギャンブラーたちと女たちの恋模様を描いた、軽妙洒脱なロマンティックコメディだ。日本では84年に宝塚歌劇団が大地真央&黒木瞳のゴールデンコンビで大評判をとった初演以来、3度にわたって上演。東宝ミュージカルや来日公演も行われた人気演目である。この作品が、久しぶりに東宝ミュージカルとしてリボーンする。しかも、日本ミュージカル界が誇る超豪華キャストの競演で!
誰もが一目置く、負け知らずの二枚目ギャンブラー・スカイ役に挑むのは、“日本ミュージカル界のプリンス”こと井上芳雄。彼は賭場を仕切っているネイサン(浦井健治)にそそのかされ、救世軍のお堅い美女・サラ(明日海りお)をキューバまでデートに連れ出せるか、という賭けをする。度胸があって余裕があって、大人の色気とカッコよさの塊みたいな二枚目役は、井上にとっても新鮮な挑戦となりそう。
「本当に二枚目中の二枚目キャラクターなので、逆に『難しそうだな』と思いました。実際にやると決まったときは『どんなやりようがあるだろう?』と頭を悩ませましたね。いままで演じてきた役では『グレート・ギャツビー』のギャツビーとか、『ダディ・ロング・レッグズ』の足ながおじさん(ジャーヴィス・ペンドルトン)役などが、余裕のある大人の男という感じで近いのかもしれませんけど、そういう人たちって、実は一皮むいてみたら全然余裕がない(笑)。スカイもそういう一面はあるので、やってみると『この人もやっぱり人間だな』と思うし、『いろんな面があって面白いな』と感じながら役をつくっています。それに、これは人生を変える出会いの物語でもあるから、最初と最後でスカイの人生はガラリと変わっているんですよ。ある意味、ひとりの女性との出会いに救われたというか。そこも共感できるし、面白いと思えるところです」
映画では若かりし日のブランドが、強烈なセックス・アピールで演じていた。
「映画は昔見ているんですけど、忘れかけているからもう一度見直そうと思っています。マーロン・ブランドの『Luck Be a Lady』はやっぱり印象的ですね。とてもセクシーで。真似をしたってしょうがないから見直すのがいいのかどうか迷ってもいたんですけど、ちょっと粋な感じの仕草とか、帽子の使い方とか。そういうのは、僕たちは普段あまりすることがないので、参考にできればと思います」
今回、相手役サラを務める明日海と、ネイサンと長いあいだ婚約中のショーガール・アデレイドを演じる望海風斗は、「カッコいい」を極めた元宝塚のトップスター。ふたりから「こうすればカッコよく見える」などとアドバイスが飛んだりすることはあるのだろうか。
「まったくないですねえ(笑)。僕も『アドバイスされたりするのかな?』とか思っていたんですけど。まあ僕の方が年上なので、遠慮されているところはあると思います。それにご自分たちはいま女優としてやっていらっしゃいますから、それどころじゃないのかも。自分たちが宝塚のトップスターだったことを忘れちゃったんじゃないかっていうくらい、女優として一生懸命役と向き合っているという感じなんです、ふたりとも。それが新鮮というか。いままで知っている宝塚の方ともまた『全然違うなぁ』と思っています」
相手役として、女優としての明日海は?
「望海さんもそうなんですけど、明日海さんは宝塚時代に妹(元宝塚の初輝よしや)と同期だったので、前から知っているんです。だから『こんなに立派になられて』という気持ちもあります。でも、すごく人となりを知っていたわけではなかったので、『ああ、こういう人なんだ』という発見も日々あって。女性を演じるという意味では経験が浅いということもあってか、とても謙虚でいらっしゃいますけど、奥に秘めた芯の強さを感じますね。役としてのしっかりとした核であり、ご本人の核でもある、そういった強さが垣間見られて『ああ、素敵だな』と思います。明日海さんはもう自然に女優さんとして演じていらっしゃいますし、ストイックなところもサラにピッタリ。そのなかに、『こうありたい』という思いは強く持っていらっしゃると感じます」
実は井上がこの作品に出合ったのは、本場のニューヨーク。一家でアメリカに住んでいた中学生のとき、両親にせがんで連れて行ってもらったブロードウェイで観劇したミュージカルのひとつが、この作品だった。ピーター・ギャラガーがスカイ役、ネイサン・レインがネイサン役を務めて大ヒットしたリバイバル版だ。
「あのときのバージョンはとにかくポップなんですよ、セットも衣裳も。内容は、すべてはわからなかったんですけど、みんな爆笑しているし(笑)。カッコいいギャングのおじさんたちと華やかな女性たちのショー場面が満載で、『ああ、これが本場のミュージカルコメディなんだ』という強烈な印象を受けましたね。その後で宝塚バージョンも見たんですけど、だいぶ印象が違っていました。宝塚ではトップスターが演じるスカイが絶対的な主役なんですが、ブロードウェイではネイサン役のレインとアデレイド役のフェイス・プリンスが、トニー賞の主演男優賞と主演女優賞をダブル受賞しているんですよ。どちらかというとスカイとサラより、そっちのカップルがドッカンドッカン大爆笑をさらっていて、印象が強かったですね」
今回は、「ノートルダムの鐘」のカジモド役で高い評価を得たミュージカル俳優であり、「春のめざめ」と「アイランド」の演出でトニー賞にノミネートされた(35歳以下で2度の候補入りは史上初!)若手演出家、マイケル・アーデンの演出でどう生まれ変わるのか。
「いままでの『ガイズ&ドールズ』は、場面場面でセットが入れ替わっていたと思うんですけど、僕たちが上演する帝劇にはひとつ大きなセリがドーンとあって、そこにほとんど全部が入っているんです。地下が救世軍で、その上が(ナイトクラブの)ホットボックスで。チーズケーキのおいしいレストランがあったり、花屋さんがあったり。狭いなかに救世軍とナイトクラブがある、その対比も面白いし、それが上がったり下がったり、グルグル回りながら展開していく。ワクワクしますよ!」
演出家としてのアーデンは、井上の目にどう映る?
「もともと俳優さんだからか、ニュートラルというのかな。稽古はいつも『やあ、最近何か面白いことはあった?』みたいなところから始まって、『じゃあやってみよう。こうかな、ああかな?』と、本当にちょっとずつ積み重ねていく。いままで一緒に仕事をした誰よりも『決めつけない』演出家ですね。僕らと同じ目線でいてくれます。たぶん、マイケルも日本で初めて演出をするから、適度に緊張していると思うんですよ。普通、そういうのって隠そうとするじゃないですか。自分なんかは『緊張しているのがバレないようにしなきゃ』と取り繕って、いいところを見せたがっちゃうんですけど(笑)、マイケルは過剰な自負や見栄みたいなものが全然ないから、親しみやすく、とてもやりやすいんです」
それでいて、セット以外でも演出は非常に独創的で、細部にまで愉快なアイデアがいっぱいだという。
「僕が面白いなと思うのは、例えばオープニングでいろんなキャラクターが出てきて、街の活気を表しているシーン。そこでひとりひとりにちゃんとストーリーを与えているんです。実は、スカイはサラとそこですれ違っていたりするんですよ。サラは救世軍のビラを配っていて、僕はそれをもらって『これどうしようかな』と思っていると、女の子たちが『ハ~イ』って寄ってくる。その後、ビラを僕から受け取った女の子は地下鉄に乗って、そのビラの住所を探して伝道所を見つけて、ひとりで迷子になっちゃうんだけど、探しに来た仲間たちが見つけてくれて『よかったー』という、その流れをずーっと後ろでやっているんですよ。だから舞台上で、どの登場人物も生きている。全部のシーンでこうなっていったら、どんなに生き生きした『ガイズ&ドールズ』になるんだろうと思うと、すごく楽しみですね」
東京藝術大学の音楽学部声楽科に在籍中、「エリザベート」のルドルフ皇太子役でデビューして以来、一貫して日本ミュージカル界のトップを走り続けてきた井上。最近ではバラエティ番組のMCとしても引っ張りだこだが、常に心にあるのは「日本のミュージカルがもっと観客を増やし、世界でも通用するようになってほしい」という思いだという。スカイは人生を賭けた、イチかバチかの大勝負に出るが、井上自身は人生の大勝負に出たことはあるのだろうか?
「毎回出ていますね、仕事では、大勝負に。この作品だって大きな意味ではそうですし、新しい仕事をやるとき、別のジャンルに挑戦するときなんかは、勝算がないことがほとんどですから。実際のギャンブルは、僕はまったくやらないんですけど、仕事上では賭けまくり、かなりの勝負師です(笑)。賭けみたいに勝った、負けたの結果がはっきり出ないから、良いのか悪いのか難しいところはありますけど、だからこそやり続けられるというところもあるのかもしれない。『あの人から見たら負けかもしれないけど、俺は勝っているからな』って思えますからね」
スカイとのいちばんの共通点は、運命の女神さまにめちゃめちゃ愛されている、というところかも。
「ラッキーな人間だと思います、僕は。これまでやってこられたいちばんの理由は、幸運だと思います。幸運と出会いと、いろんな人たちの親切や助けがあったからこそ。自分も頑張っていないわけじゃないけど、それ以上にいろんなものをもらっている気がするので。だから、何とかして恩を返さなきゃ、残りの人生で。それか後の世代に託さなきゃ、と思います。日本のミュージカルを世界に、という夢は僕の代で結実するかはわからない。でも、『千と千尋の神隠し』はミュージカルではないけど、日本にあるコンテンツを使って舞台化するということで大きな成果を得たと思います。そういう意味では、また新たな水脈が見つかったような気がするんですよね。そこに自分たちが培ってきたミュージカルのノウハウを積み込めると思いますし、次の代かそのまた次の代くらいで形になればいいなぁと思います」
そろそろ井上を“ミュージカル界のプリンス”ではなく“キング”と呼ばなくてはならなくなる日が来ているのではないか。
「いやいや(笑)。僕はいつまでもプリンスっぽい感じで行ったほうがいいんじゃないかな。僕の性には合っているというか。ネタとしてもその方がおいしいし(笑)。キングって言うとネタにしづらいじゃないですか(笑)。だからツッコまれながら、プリンスとしていろんなことをする方がいいなと思っています」
ミュージカル「ガイズ&ドールズ」は6月9日~7月9日に東京・帝国劇場で、7月16日~29日に福岡・博多座で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/guys_and_dolls/)で確認できる。
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