【「FLEE フリー」評論】オスカー3部門ノミネート。受賞は逃したが、歴史を変えた1本
2022年6月5日 19:30

アカデミー賞で受賞はできなかったけれど、ノミネートの時点で歴史的快挙を成し遂げたのが、本作「FLEE フリー」です。2022年のアカデミー賞で、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門でノミネートされました。
これを疑問に思う方も多いでしょう。「ドキュメンタリーなのに、アニメ?」「アニメなのに、ドキュメンタリー?」私も最初はそう感じました。しかし、過去に思い当たる映画も何本かあったので、ある仮説をもって本編を鑑賞することにしました。
アフガニスタンで、父親をタリバンに連行された青年アミンは、残された家族全員で国を脱出します。一家はまず観光ビザでロシアに入国しますが、やがてビザは失効し、西側の国を目指して何度もロシア出国を試みるという難民案件です。この家族は大変な苦労の末に、どうにか脱出に成功します。しかし主人公のアミンは、自身の経験や経歴について、他人(=この映画の監督)に語れるようになるまで、かなりの年数を要しました。
「戦場でワルツを」という映画がありました。イスラエルのレバノン侵攻と、それによるPTSDについて描いた名作ですが、主人公の経験をアニメで表現するという斬新な手法で、アカデミー賞候補(外国語映画賞)になりました。これはドキュメンタリー映画ではありませんでしたが、ほぼ全編ノンフィクションです。「FLEE フリー」の監督も、同作の影響を受けたと語っています。「馬三家からの手紙」というドキュメンタリー映画では、主人公が強制収容所で使役労働に服していた様子をアニメで再現していました。映像が残っていない出来事は、当事者のインタビュー映像などで構成するのが定番ですが、アニメーションを制作することによって、より表現力が高まります。「ヴィム・ヴェンダース プロデュース ブルーノート・ストーリー」というドキュメンタリーでも、同様の演出が多用されていました。
「映像が残っていない」「当事者が故人である」といった事例について、アニメを活用してドキュメンタリー作品に組み込むという手法が、最近明らかに増えています。そして、アニメを使う効用は、登場人物が特定されることを防ぐという意味合いもあります。登場人物の経験した出来事を、アニメで再現する。本人ではなく、声優がアフレコする。これによって、タリバンから追われる主人公の身バレを防ぐことができます。私の立てた仮説は、まさにこの「身バレを防ぐために敢えてアニメにした」というものでした。映画の冒頭で「これは実話である 登場する人々の安全のため名前と場所を一部変更した」と出ますので、ほぼ正解でしょう。
もちろん、アニメは本質的にはフィクションですから、アニメ部分が大半を占める「FLEE フリー」が映画賞のドキュメンタリー部門でノミネートを受けることには違和感も残ります。しかし、一方で映画製作に関する自由な発想や表現力の追求について考えると、「アニメ」とか「実写」とか「ドキュメンタリー」といったジャンル分けそのものが無意味であるとも感じます。色んなことに気づかされる映画です。
(C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved
関連ニュース





映画.com注目特集をチェック

入国審査
【これめっちゃ面白かった】この2人、空港の入国審査で何時間も尋問される…一体なぜ? 衝撃の結末へ
提供:松竹

またピクサーが大傑作つくったんですか…
【大人がボロボロ泣く感動超大作】両親を失った主人公の再生。そのままの君が好きだよ。
提供:ディズニー

映画界を変える“究極の推し活”がある。
【革命的すぎてヤバい】大好きな俳優と映画を、まさかの方法でとことん応援できる!!
提供:フィリップ証券

ジュラシック・ワールド 復活の大地
【超絶パワーアップ】マジ最高だった!! 究極のスリル、圧倒的な感動、限界突破の興奮!!!
提供:東宝東和

何だこのむちゃくちゃ“刺さる”映画は!?
【尋常でなく期待してる】“命より大事な誰か”のためなら、自分の限界を超えられる。
提供:ディズニー