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LAポルノ業界の実情を描いた「Pleasure」影響を受けた作品&過激シーンの裏側とは? 監督&主演が明かす【NY発コラム】

2022年5月29日 20:00

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A24が全米配給権を獲得した話題作「Pleasure(原題)」
A24が全米配給権を獲得した話題作「Pleasure(原題)」
(C)Plattform-Produktion_1_Courtesy_of_NEON

ニューヨークで注目されている映画・ドラマとは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、日本未公開作品や良質な独立系映画を紹介していきます。


ムーンライト」「レディ・バード」「ミッドサマー」――数々の個性的な秀作を世に送り届けてきた映画会社「A24」。同社が全米配給権を獲得した話題作が「Pleasure(原題)」だ。

同作の題材は「ロサンゼルスのポルノ業界」。主人公は、スウェーデンの田舎町から「世界一のポルノ女優になる」という決意を持って、ロサンゼルスのポルノ業界に飛び込んだベラ・チェリー。ポルノ女優として働く仲間と暮らし、過酷な業態の実態に直面しながら、彼女は業界を牛耳る男マーク・スピーグラーにアプローチをかけていく。

2020年のカンヌ国際映画祭で初監督部門に選出され、2021年のサンダンス映画祭ワールド・シネマ部門で上映された「Pleasure(原題)」。今回は、メガホンをとったスウェーデンの女性監督ニンジャ・サイバーグ、ベラ・チェリーを演じたソフィア・カペルの話を聞くことができた。

画像2(C)Plattform-Produktion_1_Courtesy_of_NEON

サイバーグ監督は、10代の頃、ポルノ業界に対して反対運動を行っていたそうだ。

サイバーグ監督「16歳の頃、初めてボーイフレンドができました。その恋人の影響でポルノを鑑賞した時、女性の性に関して、ポジティブなイメージが欠落していたように思えたんです。そこから数年間、ポルノ業界に対する反対運動を行っていたことがありました。そして、徐々にポルノ業界を知り、業界がもたらす影響を考えるようになりました。そのことから、フェミニストな視点でとらえたポルノ映画に興味を持つようになり、そんな映画を作ってみたいと思うようになったんです。ポルノ業界への理解が深まっていくうちに、主流の作品に出演する女性たちが“業界の犠牲者”として見られていることに納得していないことがわかりました」

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「そこからフィルムスクールに通いながら、ポルノ業界についてのエッセイを書いたり、ジェンダーに関して学びました。それらの学んだことを生かす形で、短編の『Pleasure』を製作したんです。でも、その時点では、ポルノ業界の人々に会ったことがありませんでした。なぜなら、スウェーデンにはポルノ業界がないからです。その短編で、サンダンス映画祭、カンヌ映画祭に行った時、自分自身がポルノ業界のコミュニティに関わり、長編映画を作る必要があると感じました」

サイバーグ監督は、2014~18年の間、ストックホルムとロサンゼルスを行き来しながら“LAのポルノ業界”をリサーチ。主人公のベラ・チェリー役を選ぶために、2000人もの女優へのオーディションを行った。抜てきされたのは、当時演技未経験だったカペル。彼女は、スウェーデンのアカデミー賞と称されるゴールデン・ビートル賞の主演女優賞を受賞するほどの演技を披露している。

「約1年半の間『きっと、どこかにベラ役がいる』と信じながら探していて、その女優が今作を成立させてくれるとわかっていました。だから、その女優を探し出すまでは、絶対に諦めないと思っていたんですが……しばらくして、周囲の人々から『自分の中で描いた、存在しない人物を発見するということは、まるで亡霊を追いかけているようなものだ』『あなたにとっては、誰であっても主役としては充分ではない』『何百人もの若手女優を見たうえで、誰も役に適していないなんてことはあり得ない』と言われたこともありました。ところがある日、オーディションのドアを開けて入ると、ソフィアが立っていました。その時のソフィアは、偽の毛皮(ヒョウ柄)を着て、タバコを吸いながら佇んでいました。この光景を、スローモーションのように覚えています。その時の彼女の姿に『おぉ!』と思ったんですが、彼女は演技の経験がなく、オーディションも受けたことがない“完全なアマチュア”でした。『もし、演技ができなかったらどうしよう?』と考えてしまいましたね」

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では、サイバーグ監督とカペルは、どのようにして「ベラ・チェリー」というキャラクターを創造していったのだろう。「まずは、(ポルノ女優として)実在するようなキャラクターに仕上げる必要がありました。そのため、ソフィアがベラ役にキャスティングされてから撮影開始までの約9カ月間、2人で役の構築に時間を費やしました。2人でキャラクターを構築していくなかで、私は何度も脚本を書き直しました」と語るサイバーグ監督。自身とカペルの意見を半々で取り入れながら、脚本を構築していったそうだ。

一方、カペルは「(サイバーグ監督から)『おそらくベラはそんなことをしない』『こうすると思う』と意見されることで、私自身もベラという役柄を知ることになりました。その過程を通して、ソフィアを信頼することができたんです」と振り返ってくれた。

さらに、サイバーグ監督は、ベラと一緒に暮らすポルノ女優・ジョイ役を演じたレビカ・アン・ロイスル(IMDBでは「ゼルダ・モリソン」表記となっている)とカペルの相性から生まれたセリフが劇中に含まれている点に加え「いかにパンチライン(ジョークなどの聞かせ所)を作り上げるかも重要だった」と明かしてくれた。

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続いて、本作を手掛けるうえで「影響を受けた映画」についてたずねてみた。

サイバーグ監督「若い頃に『ショートバス』(ジョン・キャメロン・ミッチェル監督)を見たことを覚えています。私にとっては、映画館で露骨なセックスシーンを見るのが初めてのことでした。あの映画には影響を受けましたし、素晴らしい作品でした。スウェーデンには『リリア 4-ever』(ルーカス・ムーディソン監督)という作品があります。その映画では、人身売買で売春を強要された若い女性が描かれていました。その若い女性がある場所へ行くと、たくさんの男たちがいて、彼らにレイプされるというシーンがあるんです。さまざまな男たちが、若い女性と性交をしている――その全てが、女性の視点として撮影されていました。男たちがカメラの前に立って、まるで観客と性交しているかのよう……見たことのない撮影手法に驚かされたんです。これまでの多くのセックスシーン、レイプシーンは、男性の観点で撮られたものばかりで、女性は物のように扱われていました。自分が、自身の人生を通して、ひとつの視点でしか見ていなかった。そのことを他の視点で描かれたものを見るまでは気づきませんでした。あれは、とても影響を受けたシーンですね。だからこそ、今作でもベラがセックスを始めた瞬間から、彼女の視点でとらえられています」

本作には、実際のポルノ女優エイダン・スターが登場している。スターは、劇中では監督役。ベラのSMシーンを撮影しているのだ。

「ベラを演じたソフィア以外、今作に出演している俳優は、全員ポルノ業界の人たちなんです。エイダンやプロデューサーのマーク・スピーグラーのように、ポルノ業界から実名で出演している人もいますが、彼らは自分自身をそのまま演じてはいません。劇中で悪役みたいにとらえられているポルノ業界の人々は、実際には良い人ばかり。実は、エイデンとは長い付き合いなんです。エイデンの仕事ぶりも事前に理解していましたし、私自身も以前ポルノのセットで照明として関わっていました。エイダンが登場するシーンに関しては、同じ内容に近いものを以前撮影したことがありました。そのポルノ映画と同じクルーと一緒に、あのシーンは撮影したんです。あとは、それをいかにリアルに描けるかということだけでした。唯一の違いは、私たちの映画では、実際のセックスシーンを撮ってはいないということ。現場では、カットをかけつつ、ソフィアへ配慮しながら、4時間も撮影していました。映画に参加したポルノ業界の人たちは、彼らが常日頃からやっていることを行っていただけ。私たちは、それを撮影しているだけでした」

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過激な撮影に挑んだカペルは「このシーンの撮影を楽しみにしていました。こんなことをポルノ業界の人たちは普段からやっているということに驚かされました。一般の人にはある意味奇妙なことかもしれないけど、エイデンと撮影ができたことで素晴らしいシーンになったと思います。それと、クルーのおかげで、撮影中はしっかり面倒を見てもらえているという感覚でいられました」と感謝を述べた。

製作資金については「スウェーデンの映画協会から、定期的に援助を受けていました。だから、製作資金集めに関しては問題なかったんです。彼ら(=映画協会)は『女性監督が自分たちのストーリーを世に送り出すことは重要。もちろん、あなたがこの映画を通してアート作品を作るという点を信用しています。だから、製作資金を受け取りなさい』と言ってくれたんです」と明かしたサイバーグ監督。最後に、作品に込めた思いを打ち明けた。

サイバーグ監督「さまざまな種類のディスカッションを見つけられる“プラットフォーム”を構築したかったんです。例えば映画館を出てきた時、一緒に鑑賞した人とは全く異なる意見になったり、私の意図した事とは反対の考えを持つことになっても良いと思っています。良いアート作品とは、そういうものです」


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