「クレヨンしんちゃん」30周年映画で考える「コナン」「ドラえもん」長寿アニメ映画の秘訣と寿命【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年4月22日 10:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末4月22日(金)から「映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」が公開されます。本作で最初に驚いたのは、冒頭で出てくる30周年記念のマーク!
「継続は力なり」とは言いますが、「映画クレヨンしんちゃん」については、文字通り1年も欠かさず、1993年の1作目から毎年公開し続けているのです。
新型コロナの影響で2020年は急きょ「公開延期」となりましたが、恒例のゴールデンウィークが関係する春公開から、異例の9月11日という閑散期での公開を決行しました。
2021年では少し調整が入り7月30日という夏休み期間での公開。そして、今年は通常運転のゴールデンウィークが関係する春公開に戻ったのです。
「30年」と言えば、5歳児が見始めて35歳になる期間です。
つまり、現実の世界では「35歳になった親が、5歳になる子供を映画に連れていく状況」が生まれるのですが、映画の中では「永遠の5歳児の主人公」がいるわけです。
このように「長寿アニメーション映画は、ファミリー層に浸透しやすい」というメリットが生じやすくなるわけですが、長く続けば続くだけ難しい課題も出てきます。
大きなところでは「時代設定」問題があります。
これは、基本的に「今の子供が見て違和感のない設定」というのがベースになっている場合が多いと感じます。
例えば本作では、しんちゃんが「母親のスマートフォン」を持っていますし、ゲストで芸人・ハライチの2人が本人役で登場したりと、「登場人物の年齢は不変」で、時代設定を「現代」に変える手法を駆使しています。
とは言え、このアニメーション映画ならではの「登場人物の年齢は不変」というのは、作り手や視聴者を混乱させる要因にもなります。
この「登場人物の年齢は不変」設定は、「名探偵コナン」では主人公コナンが「永遠の小学1年生」で、「ドラえもん」では主人公のび太が「小学5年生」(原作マンガでは基本、小学4年生)という状態になっています。
例えば、「名探偵コナン」の劇場版25作目「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」では、松田刑事という登場人物が回想シーンで登場します。テレビ版の時はガラケー、今回の映画版ではスマートフォンと、同じシーンでも表現が変わっていたりします。
このように、時代と共に変化を加えて長寿アニメーション映画として成功している代表作に「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「名探偵コナン」があるのですが、この3作品には大きな違いもあります。
それは、「ドラえもん」と「クレヨンしんちゃん」については、「登場人物の年齢は不変」設定のように、基本的には物語を「毎年、初期化できる」ので、「連続性」を考えずに済む面があります。
その一方で、「名探偵コナン」では「連続性」を維持しているので、物語の作り方が変わってきます。
そのため、冷静に考えると、コナンは(原作マンガ、テレビ版、劇場版で)小学1年生の間に、365日以上、大事件に巻き込まれるような状況になったりもしていくわけです。
ただ、これらの長寿アニメーション映画に求められているのは「昔からある美味しい食べ物」のような存在であって、見ている方も作品に合わせて「時間を止めている」ので、そこまで論理的に考える必要性もないのでしょう。
さて、私は「映画クレヨンしんちゃん」は、2010年辺りに「そろそろ終わるのではないか?」と思った時がありました。
それは、良くない面でマンネリ化が進んでいて飽きを感じていたタイミングでした。
20作目の2012年には興行収入も10億円を割ることが出たり、原作者の臼井儀人さんが2009年に亡くなったことも、それを連想させました。
ところが、原作マンガは「新クレヨンしんちゃん」として今なお続いていますし、映画の制作体制も21年目から大きな変化が起こりました。
それは、映画を作る際に「一人の監督が連続して担当する形式」から「交代制」にしたのです。
21作目の「バカうまっ!B級グルメサバイバル」は橋本昌和監督がメガホンをとり、翌年の22作目の「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」では高橋渉監督がメガホンをとり、基本、この2人が交互に担当する形になったのです。
そこから作品のクオリティーは上がり、評価も上がり、それが興行収入にも反映される正常な形になってきています。
このように、基本的に長寿アニメーション映画の場合は何度かは「存続の危機」のようなものがありながらも、数々のテコ入れが功を奏し、長年にわたり続いている面があるのです。
本作「映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」では30作目を記念して、生まれたての0歳児の「しんのすけ」が登場したり、その名前になった経緯などが出てきます。
この作品は、脚本も作画も良い線をいっていると思います。
特にギャグシーンのセンスは、試写室内でも笑いが多く聞こえるなど、上がってきているように思えました。
ちなみに、豪華声優や豪華俳優がゲスト声優で参加していますが、豪華声優の方は終盤でやっと「アレ?」と気付いたくらいでしたし、豪華俳優の方は全く気付かなかったので、正直「意味がないのではないか」とさえ感じました。
まぁこういう贅沢な無駄(?)こそ「映画クレヨンしんちゃん」らしくて面白く、良いのかもしれないですね。
最後に肝心な興行収入について。
まず、作品の出来に関しては問題ないどころか、むしろ良いので、昨年のコロナ禍での公開となった29作目の「謎メキ!花の天カス学園」の興行収入17.7億円くらいは狙いたいところです。
ただ、2つの懸念材料があります。
1つ目は、今年の3月4日から公開されている41作目「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」の状況です。
「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」の完成度はトップクラスで良かったにもかかわらず、興行収入では歴代最高の50億円台を記録するどころか、半分程度の25億円くらいしかポテンシャルを発揮できていません。
これは、「映画ドラえもん」特有の「リメイク作品」という面も関係しているのでしょう。
そして、それ以上に新型コロナの影響が大きいと考えられます。
「映画ドラえもん」のコア・ターゲットとなる「未就学児・小学生を中心としたファミリー」は、残念ながら、現在のオミクロン株に変異してからは新型コロナの影響が極めて大きく出ている面があります。
具体的には、公開直前の厚生労働省のデータ(HER-SYSデータ)では、2月27日~3月5日の全国の人口10万人当たり7日間の累計新規感染者数で、「全年齢層で最も割合が多いのは5歳~9歳」の918.0人となっていました。
次に多いのが10歳~14歳の672.9人となっていて、「5歳~14歳の感染リスクが最も高かった時期」で、保育園や小学校の休園・休校などで注意喚起が頻繁になされていたタイミングでした。
つまり、「未就学児・小学生を中心としたファミリー」がコア層となる映画には不利な環境になっていた面があるのです。
このコア層の多くが「自粛」に転じたのは、かなり大きなインパクトになったと言えると思います。
そして、この傾向は、コア層が「映画ドラえもん」と似ている「映画クレヨンしんちゃん」にも言える面があるのです。
ただ、感染状況は徐々に落ち着く動きも出ていて、直近のデータ(HER-SYSデータ)では、4月3日~9日の全国の人口10万人当たり7日間の累計新規感染者数は、全年齢層で最も割合が多いのは5歳~9歳のままですが、541.9人と大きく減っています。
そして、10歳~14歳についても404.0人と減っているのです。
ワクチン接種の影響もあり依然として若い世代における感染率が高い面はありますが、「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」の時よりは改善されている現実があるのです。
このような現状の下、果たしてファミリー層がどのように動くのかは、それぞれの家庭の判断に委ねられるため、結果から判断するしかなさそうです。
2つ目は、昨年の「謎メキ!花の天カス学園」との公開時期の違いです。
昨年は7月30日公開で、まさに夏休み期間という「子供は毎日がお休み期間」だったので、興行収入は伸びやすい環境にあったと言えます。
その一方で、今年は、ようやく平常通りの日程とは言え、ゴールデンウィークは夏休み期間よりも短い点は不利に働く面があります。
とは言え、ゴールデンウィークは「親もお休み期間」となるため、有利な面もあります。しかも、今年のゴールデンウィークは日にちの並びも良いので映画業界全体にはプラスな面が大きそうです。
以上のような懸念材料などを考えると、30周年となる「映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝」は、興行収入15億円を超えることができれば十分な結果と言えるでしょう。
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