【「山歌」評論】山と共生する生命が伝える、大切なこと。
2022年4月17日 18:00

笹谷遼平監督の「山歌」を観て、マーティン・スコセッシ監督の「ジョージ・ハリスン リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド」(2011)が思い浮かんだ。1974年に発表された同名アルバムのタイトル曲で、ジョージ・ハリスンは「物質社会で迷子にならないように、心に回帰しよう」と歌っていた。
舞台は1965年、山奥の田舎である。戦後から高度成長へ、誰もが豊かさの象徴たる“モノ”を求めてがむしゃらに働いた時代。東京五輪から大阪万博に突き進んだ日本にはビルが建ち並び、道路や鉄道が整備され、至る所にモノが溢れた。
東京オリンピックの翌年、進学を控える中学生の則夫(杉田雷麟)は東京を離れ祖母の家で受験勉強することになる。じっとしていても汗ばむ夏。勉強に集中できない則夫は芋泥棒に出くわす。「ちょっと待て!」と追いかけると、山道を悠々と歩く男に出会う。男が「返せ」と告げると少女は「腹が減った」と口を尖らせる。ふたりは父と娘だった。
ある日、山で道に迷った則夫は、その男、省三(渋川清彦)に導かれて、娘のハナ(小向なる)とタエばあ(蘭妖子)が暮らす、雨よけだけの簡素な住まいを訪れる。彼らは山に生きる人だ。“山窩(サンカ)”と呼ばれ、渡りを続ける鳥のように季節に応じて山から山へと移動していたとされる。
漂泊の民、日本のジプシーともいえる人々が存在していたことを僕は知らなかった。自然の営みに寄り添って生きる人=山窩を撮りたいと考えた笹谷監督は、改稿を重ねて「黄金」と題された脚本を仕上げ、伊参スタジオ映画祭で【シナリオ大賞】を受賞する。
歌うことは訴えること。伝えたいという監督の願いで「山歌」と名づけられた初長編は、ひと夏の特別な出会いを通して少年が人生の選択をする物語だ。日本人の価値観がモノに向かった時代、地域開発が豊かさをもたらすと信じる父(飯田基祐)は、学歴こそが人生を開くのだと息子に勉強を強要し、学もなく、経済にも頓着しない山窩を蔑み「もう会うな」と命じる。
何かが違う。これまで「正しい」と教えられてきたことに大きな疑問を抱いた主人公は、ある決意を胸に秘めて背筋を伸ばす。
朝の靄に浮かび上がる緑の山並み、渓流を泳ぐ魚たち、陽光に向かって木々が背伸びし、蜘蛛の巣で蜻蛉がもがいている。獣たちの道を歩いた先で大樹を抱きしめると、山の恵みが優しく全身を包み込む。僅か二週間、荒天下で撮影された自然、山と共生する生命たちは、何か大切なことを伝えようとしている。考えるのではなく感じるのだ。モノだけでなく情報が溢れる今だからこそ、心を穏やかにして向き合いたい作品だ。
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