実際にあった名画盗難事件の真相を描く「ゴヤの名画と優しい泥棒」 自ら映画化に動いた“犯人”の孫に聞く
2022年2月25日 13:00
ロンドンのナショナル・ギャラリーで起きた絵画盗難事件の知られざる真相を描く「ゴヤの名画と優しい泥棒」が、本日2月25日から公開された。数億円の国宝を盗んだ犯人は、年金暮らしの男だった――この驚くべき実話の映画化は、事件の“犯人”であるケンプトン・バントンの孫であるクリストファー・バントン氏が、プロデューサーにメールを送ったところから始まっている。映画化までの道のり、実際の家族の様子などを聞いた。
舞台は1961年のイギリス。世界屈指の美術館ロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた。犯人はごく普通のタクシー運転手である60歳のケンプトン・バントン。長年連れ添った妻とやさしい息子と小さなアパートで年金暮らしをするケンプトンは、テレビで孤独を紛らしている高齢者たちの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。しかし、事件にはもうひとつのある真相が隠されていた。
ケンプトンをジム・ブロードベント、ケンプトンの妻ドロシーをヘレン・ミレンが演じているほか、2人の息子役でフィオン・ホワイトヘッドが出演。「ノッティングヒルの恋人」などで知られ、本作が長編遺作となったロジャー・ミッシェルが監督を務めた。
僕は映画関係の仕事をしているわけではないですが、この作品のアイデアはずっと温めていました。祖父(ケンプトン)が脚本を書いていたこともあって、僕自身も脚本を書いてみたんです。2年くらいかけてこのアイデアを脚本にしたのですが、ほぼ初めての挑戦でした。
できあがった脚本をいろんな製作会社に送ったのですが、イギリスで起こった事件なので、イギリスの製作会社で作ってほしいと思っていたところ、運よく複数の会社から返答があり、そのなかにニッキーもいました。彼女が本物の脚本家、そして素晴らしいキャストを集めてくれて本格的に動き出して、僕が描きたかったメインのテーマや家族の関係性も忠実に描いてくれたので、思った通りの映画になりました。
事件から50周年が経った2011年に、いろんな記事が世の中に出ました。事実に基づいているものもあるし、なかには祖父に対してフェアじゃないものもありました。僕は家族なので最も事件のことを知っていたし、詳しく調べていくうちに事実を伝えるべきだと思いました。
祖父の書いた戯曲や家族の話を聞いていると、世に出ている話より面白いんじゃないかと思うようにもなりました。祖父はアマチュアの戯曲家でたくさん執筆していましたが、それを戯曲にすることはできなかったので、僕がそれを引き継ぎたいという思いもありました。
実は、祖父には会ったことがありません。僕が1976年12月生まれなのですが、祖父はその年の夏に亡くなっています。あまり彼のことは知らなかったですし、父も自分の家族を語ることがありませんでした。祖母も僕が生まれる前に亡くなっています。それなので、祖父の回顧録を読んで彼の人柄や生い立ち、背景を知っていきました。この映画作りはただの映画作りだけじゃなく、僕自身が家族を知る旅でもあります。書かれたものを通してしか祖父を知らないですが、この映画は祖父を表していると感じています。
事件のことを知ったのは14歳のときでした。ノルウェイに向かうフェリーに乗ったのですが、やることがないので父とバーで話していました。もちろん僕は未成年なのでソーダを飲みましたが、父はビールを飲んでいて、事件のことを話し始めました。あまりにも非現実的だったので、父は酔いすぎているんだと思いました。そのときはあまり深く掘り下げて話してくれず、僕もこのストーリーの大きさをあまり理解してなかったんです。
それが30年くらい前のことです。それ以来家族のなかではあまり話題にしてきませんでした。それで、事件から50周年が経ったときにもう一度興味を持って調査を始めました。
ニッキーと2人で会って、全体のストーリーを彼女に感じ取ってもらいました。そのほか、祖父の書いた戯曲、祖父が自分で書いていた回顧録を提供したり、私の父もプロデューサーとのミーティングに参加したりして、深く関わっていきました。
実際に完成作を数回見てから、やっと家族の話が映画になったんだと実感しました。父は今81歳ですが、完成作を見て衝撃を受けたそうです。僕みたいに数回見ないと、家族の話が映画になったことは実感しないんじゃないかと思います。
映画には、実際にあった小さな出来事も描かれています。例えばパン工場のシーンで、パキスタン人の同僚が差別されてしまい、ケンプトンが上司に立ち向かってクビになるシーンは実際に起きたことです。ガンジーの言葉を引用しているのはフィクションですが、それ以外は事実です。
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