【「前科者」評論】有村架純が寄り添い続けることで体得した「観の目」の威力
2022年1月30日 19:00

保護司という仕事について、大多数の人が正確に理解できていない社会で生きる我々は、有村架純が息吹を注ぐ保護司・阿川佳代の慎ましい生活を見守りながら、この仕事が犯罪者の更生を助ける非常勤の国家公務員であることを知っていく。だが、ボランティアのために報酬が一切ないためコンビニ店員との掛け持ち生活という現実を目の当たりにし、はたと疑問を抱くはずだ。
「なぜ、こんなに大変な仕事を対価も得られぬまま、使命感を燃やして取り組めるのだろうか?」
その理由は物語の中で明かされていくが、「前科者」というタイトルが暗示しているように必ずしも淡々としたタッチの作品ではない。社会的なテーマの作品をいかに多くの人に届けられるか、純正サスペンスの色も加味した製作陣の腐心がうかがえる。そして、観る者の心を釘付けにするという意味で、十二分に成功したといえる。
成功の要因は、座長・有村に尽きる。自らの佳代という役どころはもちろんのこと、作品そのものに並走し、共演者たちに寄り添い続けた。それは今作が特別なのではなく、有村にとっては“通常運転”といえるほどに当たり前の行為だったのではないだろうか。
宮本武蔵の「五輪書」に「観の目つよく 見の目よはく 遠きところを近く見 近きところを遠く見る事 兵法の専なり」と綴られている箇所がある。「観(かん)の目」は全体を俯瞰して見る力のことで、いわば心の目。一方の「見(けん)の目」は目で追ってものを見ることで、すなわち普段見ている視点を指している。
デビューからの10余年、この「観の目」を無意識のうちに鍛え上げてきたことが芝居で見せる表情のひとつひとつに現れている。有村にとって、寄り添うという行為が「観の目」と密接に絡まり合っていた証左といえよう。
そして、「観の目」を体得していた人物がもうひとり。有村扮する佳代が対峙することになる工藤誠役の森田剛の凄味を、紛れもなく“目撃”することになる。生きていれば、振り上げた拳の落としどころが見当たらなくなる出来事もあるだろう。人間は等しく失敗を繰り返し成長していく生き物で、極端な話ではあるが誰もが被害者にも加害者にもなりえるのが世の中だ。有村と森田による、セリフ以上に雄弁に交わされる「観の目」の応酬は、なんとか踏みとどまって引き返したっていいじゃないか……と、ある種の道筋を示してくれる良作である。
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