紛争で敵対する若者たちがオーケストラを結成――「クレッシェンド」監督が語る“紛争と希望”
2022年1月28日 11:00
指揮者ダニエル・バレンボイム率いる楽団をモデルに描いた「クレッシェンド 音楽の架け橋」が、本日1月28日から公開された。長く紛争の続くイスラエルとパレスチナから集った若者たちがオーケストラを結成するという実話を基にした本作について、メガホンをとったドロール・ザハビ監督が語った。
1959年イスラエル・テルアビブ生まれのザハビ監督は、テルアビブ南部の貧しい地域で育ち、1982年に奨学金を受けて旧東ドイツのバーベルスベルクにある大学で演出を学ぶ。ベルリンの壁崩壊直前の1989年の秋にベルリンに渡り、1991年から永住。テレビ番組の製作に勤しむ傍ら、イスラエルとパレスチナの政治的対立をテーマとして扱った長編映画「For My Father」(英題)を監督し、モスクワ国際映画祭の観客賞、ブルガリアのソフィア国際映画祭のグランプリをはじめ、多くの賞に輝いている。
製作のきっかけについて、イスラエル生まれのザハビ監督は「物心がついた時から、イスラエルとパレスチナの対立に大きな関心を持ち続けています。2008年に製作した映画『For My Father』で既にこの問題を扱っていますが、本作でその続きを描けると思いました」と語る。
さらに、音楽が物語の大きな鍵となる物語について「長年、心と心をつなぐ偉大な力がある音楽が重要な役割を果たす映画を作りたいと考えていたので、本作はそれらの願いを叶える理想的な機会でした」と振り返る。
世界の映画祭で観客賞を受賞しており、「世界中で観客の反応は素晴らしかったです」と語るも、「個人的にはとても悲しいことですが、残念ながら本作はイスラエルとパレスチナの両国ではまだ上映はかなっていません。本作は希望と平和、そして寛容と尊敬をテーマとしているのにも関わらず上映されていない。その事実が、イスラエルとパレスチナの荒廃した状況を表しており、非常に悲しく思います」と、厳しい実情を明かす。
スタッフとキャストはイスラエルとパレスチナから参加しており、「彼らを一つにまとめるには、リハーサルとディスカッションが幾度も必要でした。初めは出演者の間では、あまり政治について深く話し合うことはなく他人行儀でしたが、ロケ地の南チロルとドイツのホテルで長い時間を一緒に過ごすにつれて、絆を深め友情が芽生えました。彼らが今も連絡を取り合っているかは分かりませんが、一緒に過ごした時間を生涯忘れることはないでしょう。彼らはこの経験と共に生きていくのです」と、撮影でもまさに映画さながらの過程を経たことを明かした。
両国から楽団員を募り、和平コンサートを行うというアイデアの現実性については「現状では夢物語と言わざるを得ないでしょう。映画の中でも登場人物の一人に、『これはSFだ』というセリフがあります。しかし重要なのは、なぜこのコンサートが現実ではなくSFなのか、そのことを話し合うきっかけに本作がなるという事です。そしてこの映画は明確なメッセージを伝えています。我々はありのままの現実をただ映しだすのではなく、前進するためには何が出来たのか?そのことを映画を通して問いかけているのです」と思いを伝えた。
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