映画館ルックの隠れ家的なシェア型書店「猫の本棚」、本の街・神保町に誕生! 店主に聞く
2022年1月20日 09:00
世界最大級の本の街といわれる東京・神保町に、クラシックな映画館のようなルックの隠れ家的なシェア型書店「猫の本棚」が本日1月20日に開業する。本好き、映画好き、猫好きのオーナー・水野久美氏が、こだわり抜いてディレクションした居心地の良い店内で取材に応じた。(取材・文・写真/大塚史貴)
出版社や大学が多く存在する神保町には約130の専門書店や古書店が集まり、現在も軒を連ねている。実に100年以上の歴史を刻んできた街にまたひとつ、こだわりの書店が誕生した。シェア型書店である同店には、約30×35センチのスタイリッシュな書棚が170棚用意されており、棚主がひと棚ごとの“店長”となり、思い思いの「書店」を“店主”として体験することができるもので、本のセレクトから値付けに至るまで棚主次第。棚主の募集は既に公式サイト(https://nekohon.tokyo/)で始まっており、申し込みも増えているという。
トートバッグやハガキ、ステッカーなどのオリジナルグッズ、オーナーによる特選古書の販売もしており、これらの売り上げの1~3%相当を猫の保護活動に寄付する。さらに店内にはポップアップテーブルが鎮座し、棚主の企画する特集展示用に提供するそうで、2月には第1弾として猫好きで知られる犬童一心監督によるおすすめ本フェアの開催も予定している。
また、配信番組の収録や雑誌の取材・撮影の場として活用することができる、レンタルスペースのスペックもある。既に開店前からBSテレビ東京「シネマ・アディクト」、レプロエンタテインメントのYouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」といった映画番組の収録場所として利用されている。
同店を開業しようとした経緯について、水野氏は「私もネットで本を買うことはありますが、狙った本などを買っておしまいということが多いじゃないですか。でも、本屋さんへ行くと目当ての本の周囲もなんとなく目に入って、自分が買う気じゃなかった本を買い求めてしまうことってあると思うんです。私は偶然性というものがとても大事だと思っていて、そういう出会いと出合いがある場所を作りたかったのです」と明かす。さらに、「映画館という場所が好きで、名画座で3本立てをよく見ていました。3本あると、目当ては1本だけのことが多いけど、もったいないから聞いたこともない併映のB級作品も観てみたら、それが面白かったりする。自分の興味のないものに出合ってしまう場所を作りたかったんです」と朗らかに語る。
水野氏は、神保町という場所に対する強いこだわりもあったそうで、「この街がすごく好きなんです。喫茶店に入ると、いまだに8割くらいのお客さんが紙の本を読んでいる。他の街では考えられませんよね。居酒屋へ行っても、サラリーマンたちの会話が北朝鮮の映画やオリンピックの歴史についてだとか、会話の節々から文化の香りがする。この街にいる人たちが素敵ですよね」と微笑む。
「敢えてシェア型にしたのは、きっと面白い人たちが棚主さんとして来てくれるんじゃないかと思って。そんな方々と私も出会いたいし、棚主さん同士が互いにリスペクトし合って、普段出会うことのない業種の人たちが、この書店を介して刺激し合うという化学反応が起こることも期待しているんです」
店舗デザインは、アンティークなデザインを得意とする「たまむし一級建築事務所」の押木秀雄氏が手がけた。「洋風と和風のアンティークを激突させる…がコンセプト」と水野氏が説明する通り、アンティークのシャンデリアと趣のある欄間が混在する空間は、訪問者に不思議な安寧をもたらす。
「映画館が日常のわずらわしさを忘れさせてくれるサンクチュアリみたいに感じることを、この店でも再現したいんです。この欄間、廃寺院にあったもので、約150年前のものなんです。ウサギの顔をアップで見ると怖いんですけど(笑)、とても可愛いですよね」
神保町といえば、老舗ミニシアターの岩波ホールが、7月29日で閉館することが発表されたばかり。「猫の本棚」を共同でプロデュースする、水野氏の夫で映画評論家・映画監督の樋口尚文氏は、「岩波ホールの閉館は本当に残念でなりません。棚主として申し込んでくださる方には、申請フォームに申し込み理由を記入していただくのですが、『岩波ホールがなくなってすごく悲しい気持ちになっていたのに、そんなタイミングでこういうお店が出来て本当に嬉しい』と書いてくださった方がおられまして、これは本当に嬉しかったですね。だからこそ、小さな文化のハブになってくれればと考えています」と話す。
前述の通り同店は既に配信番組の収録に使われているが、それだけに留まるつもりはないようで、水野氏は「このお店独自の番組も作って、配信しようと思っているんです。映画関係者のトークショーはもちろん、映画の教養番組を作りたいんです。若い人たちに古典的な名作の魅力を伝えたくて……」と言葉に力を込める。
水野氏がそんな思いにかられたのは、大学生になる長男の友人が遊びに来たときの反応を目にしたからだという。
「彼らが遊びに来たときに、興味を持ちそうな作品の原点ともいえる『ブレードランナー』(1982)、『マトリックス』(99)、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(95)を紹介して見せてみたら、みんなビックリするんですね。『めちゃめちゃ格好いい!』って。『ブレードランナー』すら知らない。それは、接点がなくなっちゃっているからなんです。教えてあげると興味を持ってくれるし、すごく感動してくれる。やはり、YouTubeの番組とはクオリティが違うわけですから」
店名からも分かるように猫好きな水野氏は、店の売り上げの一部を保護猫団体に寄付することを決めている。
「猫を飼う方が増えていますよね。世の中に猫グッズが溢れていますが、猫にだって肖像権があると思っているんです。猫グッズで稼ぐのであれば、猫たちに還元すべきではないかと。日本国内の保護猫はもちろんですが、アフリカ在住の日本人ですごく誠実に豹の保護をしている方もいらっしゃるんです。そういう海外の大型猫の保護活動にも何か貢献できたらと思っているんです。SNSの“狙った場所にしか辿り着かない”という弊害で、自分と似た人たちが周囲に集まりやすい傾向があるじゃないですか。ただ、よく周囲を見渡してみるとペット産業が残酷であることを知らない方って意外と多いんです。おこがましいのですが、地道に啓蒙活動もしていけたらと思っています」(水野氏)
「保護猫の活動に賛同して、棚主に応募してくれる方もいらっしゃるんですよ。ありたがいですよね」(樋口氏)
神保町で産声を上げたばかりのシェア型書店では、熱い思いを抱いたオーナー夫妻がホッと和むような笑顔で出迎えてくれるはず。それに呼応するように多様な業種で活躍する棚主の思いが共鳴するようになったとき、街に笑顔が溢れる奇跡が起こりそうな予感がする。そんな思いのこもった“小宇宙”空間に身を浸してみれば、豊かなひと時を過ごすことができるはずだ。
フォトギャラリー
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。