【「ライダーズ・オブ・ジャスティス」評論】シリアスなストーリーなのにほっこり。おかしな理系オタクたちが作品の鍵
2022年1月16日 09:00

こんな傑作が母国のアカデミー賞(ロバート賞)でノミネート止まりだと言うからデンマーク映画のレベルはすごいなと思って調べてみたら、受賞したのは「アナザーラウンド」だったというので驚きつつ深く頷きました。マッツ・ミケルセン無双。
物語は、コワモテの軍人が妻と娘の巻き込まれた列車事故にある陰謀が絡んでいたのではないかと疑うところから始まります。その疑念を植え付けたのは、事件とはまるで無関係な理系オタクの数学者たち。彼らの理論によれば、犯罪集団「ライダーズ・オブ・ジャスティス」の仕業であることは間違いないというのです。
という導入から暴力の連鎖が始まるのですが、この作品がユニークなのは、負の側面が大きい話にも関わらず全体がほっこりとした空気で包まれていること。これは多分に数学者たちのでこぼこトリオぶりによるところが大きく、彼らの一挙手一投足を見ているだけで楽しい気分になってきます。理系オタクたちとミケルセン演じる粗野な軍人との対比が自然な笑いを生み出す構成で、特に軍人の怒りを買った数学者のひとりレナート(演じるラーシュ・ブリグマンは本作でロバート賞の助演男優賞を受賞)がとる、とある回避行動には大声で笑ってしまいました。
もちろん、ただ楽しいだけではなく、作品を通底するテーマには深く考えさせられます。本筋の物語を挟むように挿入される冒頭とエンディングのエピソードを見れば、誰もが自身の人生でおきている“偶然”について想像を巡らせることでしょう。集合体のなかで暮らす我々人間は、誰かのふとした行動によって何らかの影響を受けたり与えたりする可能性のもとに生きています。そう書くと他人が煩わしくも思えてきますが、この作品は集合体で生きることの素晴らしさも同時に描いています。個性あふれるおかしな数学者たちの存在が、まさにこの作品の鍵になっているのです。
鑑賞後は「ライダーズ・オブ・ジャスティス」というタイトルが作品にそぐわないという気もしてきます。ただ、物語自体が予想もつかない展開を見せ、作品全体の雰囲気もプロットからはありえないようなユーモアで包まれているなど、このちぐはぐさは全て計算づくなのかもしれません。もっとも、この世界は計算では成り立たないよ、というのが作品のメッセージではあるのですが。
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