横浜DeNAベイスターズ三浦大輔監督がリピートして見る、思い出の映画は?
2021年12月25日 11:00
プロ野球・横浜DeNAベイスターズの公式ドキュメンタリー作品「BBB(BAY BLUE BLUES)2021」(辻本和夫監督)が、神奈川6館を含む全国で公開中だ。同球団にとって、「ダグアウトの向こう」「FOR REAL」に続く新たなドキュメンタリーシリーズ。2019年シーズン以来2年ぶりの製作となるシリーズ第8弾の内容に触れながら、今年から監督に就任した三浦大輔氏に激動の1年を振り返ってもらった。(取材・文・写真/大塚史貴)
三浦監督は、ベイスターズの前身である横浜大洋ホエールズに1991年のドラフト会議で6位指名され入団。以後、横浜ベイスターズ、横浜DeNAベイスターズとチーム名が変わるなか25年間にわたり横浜でプレイし続けてきた、生え抜きのスターだ。16年に引退するまでに通算535試合登板、172勝184敗という成績を残している。その後もスペシャルアドバイザー、1軍投手コーチ、2軍監督としてチームに関わり続けてきた、いわばレジェンド中のレジェンドといえる。
辻本監督が手がけた本編で、15年以来6年ぶりに最下位に終わったチームは苦しみ続けている。キャプテンを務める佐野恵太の葛藤、長年にわたり腕を振り続けてきた三嶋一輝、山崎康晃の苦悩に迫る一方で、怪我に苦しんだエース・今永昇太、田中健二朗、東克樹の復活の瞬間もとらえている。試行錯誤を繰り返しながら、なんとかチームを立て直そうと奮闘する選手たちの眼差しからは諦念が感じられない。
三浦監督は今作を鑑賞し、「シーズン中の悔しい気持ちがふつふつと沸き上がってきた」という。「開幕後も連敗が続いて苦しかったけれど、チームの皆が前を向いて、なんとか現状を打開しないといけないと思いながら戦っている姿が印象的でしたね。当時の心境をなぞりながら、『あのとき自分はあんなことを考えていたなあ』とか、そういう気持ちでずっと見ていましたね」。
スポーツ用語で、長期にわたり同一チームの第一線で活躍し続ける選手を「フランチャイズ・プレイヤー」というが、三浦監督ほどこの言葉がピタリと当てはまる人物はいないだろう。選手生活を25年もおくったプロ野球選手は数えるほどしか存在せず、ほとんどの選手が引き際を自らの意志で決められない。そんななかで、三浦監督はこの球団にとって前人未踏の領域にただひとり、足を踏み入れたからこそ、誰も味わったことのない“孤独”を感じることもあるはずだ。三浦監督を突き動かす原動力は何なのだろうか。
「それはやっぱり、ファンの存在ですね。プロに入ってからずっと応援してくれる人がいるっていうのは有難いし、勇気づけられます。今年、開幕当初は球場にファンが入れない時期がありましたけど、終盤に満員ではないにせよ、ファンがたくさんいてくれる光景を目にしたときに『やっぱりプロ野球はこれだよな!』と気持ちが奮い立ちました。監督になるとき、南場智子オーナーから『トップって孤独よ』と言われたんですが、実際にシーズンを戦っていくうちに、確かにひとりで考える時間というものが増えていきましたね。孤独という気持ちになったのも確かですが、それ以上に、こんなに応援してくれる人がいる、こんなに一緒に悔しがってくれる人がいる、こんなに一緒に喜んでくれる人がいるんだ……というのが励みになりますし、原動力にもなります」
今作ではもちろんだが、普段目にする新聞報道などでも、三浦監督が何かに対して、誰かに対して不満を口にしていることを筆者は見たことがない。根底にあるのは「文句を言ってもしょうがない」という漢気だと解釈しているが、三浦監督にとって譲れない信念、監督就任時から決めていることがどのようなことなのか、知りたくなった。
「選手がポジティブに、いかに力を発揮できるか。相手チームと戦っているわけですから、自軍のベンチと戦うことがないように。ベンチを気にしてプレイすることがないように、というのは意識しましたね。そりゃあ、ミスって必ず起こるものです。でも、それが怠慢によるものなのか、一生懸命やったうえでのミスなのか。懸命にやったうえでだったら、誰にでも起こり得ること。とにかく全員で試合終了まで諦めずに戦おうと話しましたし、そこは常に意識しています」
チームスポーツである以上、負けが続けば必然的に雰囲気は悪くなる。そんな状況下にあっても、カメラは果敢にチームの深部へと潜行していく。サヨナラ負けを屈してロッカールームに引き上げる三嶋の背中、少しでも状況を好転させるべく“モチベーションビデオ”の作成に乗り出す佐野、献身的にチームを支えようとするタイラー・オースティンやエドウィン・エスコバーの姿勢は、どの業界で働く人々にとっても胸に響くものがある。
三浦監督も、選手ひとりひとりが見せた姿勢を高く評価している。「選手用のロッカーって、監督やコーチはしょっちゅう行くもんじゃないんですね。交代させられた選手がロッカーで着替えながら浮かべる悔しい表情が映像にとらえられていますが、やっぱりああいう気持ちがないとダメだと思うんです。みんな、グラウンドにかける思いは強く持っている。そういうものが、監督という立場として改めて確認できたことは新鮮でしたね」。
最後になるが、映画メディアらしく映画にまつわる質問を幾つかぶつけてみた。
三浦監督:最近は映画館で鑑賞する機会というのは少なくなりましたけど、iPadとかでよく見ますよ。洋画が多いかなあ。邦画はVシネマが多いかな(笑)。映画は好きですよ。
三浦監督:繰り返し見ているのは、もちろん「ビー・バップ・ハイスクール」ですよ! あれはもう、学生時代のバイブルですから(笑)。あの当時を懐かしがって見ているだけですけどね。あとは、「タッチ 背番号のないエース」。中学時代に見て以来、夏になると見てしまう。甲子園を目指して頑張っていた頃の原点ですよね。甲子園には行けませんでしたが、こうしてプロでやれている。その原点に立ち返れるからなのか、夏になると見たくなるんです。何年経っても色褪せないものですよね。
ニックネームは番長、トレードマークはリーゼント。そんな三浦監督が、ドヤ顔を浮かべながら「ビー・バップ・ハイスクール」のタイトルを挙げたとき、この取材で一番の笑顔がインタビュールームを包み込んだことは言うまでもない。番長のこの笑顔を、来季は出来るだけ多く見られることをファンは願わずにはいられないはずだ。
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