【「偶然と想像」評論】頭の先からシッポの先まで濱口印。人生の痛みを越えて再出発していく人々の物語
2021年12月19日 10:00

濱口竜介監督作の登場人物は、悔恨や未練を抱えて生きている。「寝ても覚めても」の朝子は、失踪した恋人とそっくりな男性に出会い、2人の男への愛に揺れ動く。「ドライブ・マイ・カー」の家福は、亡き妻とその浮気相手に複雑な感情を抱きつつ、喪失の苦しみと闘う。そして、3話のオムニバスとして作られた「偶然と想像」の登場人物たちにも、悔恨と未練がつきまとっている。朝子や家福に比べて自己否定感の強い彼らは、自分を肯定してくれる人との出会い(または再会)を通して、過去の過ちや自身の愚かさと向き合い、その後をどう生きるかを選ぶことになるのだ。
第1話の芽衣子(古川琴音)が対峙するのは、自分の浮気が原因で別れた元彼。偶然彼とつきあい始めた親友の話から、彼が癒やされない心の傷を負っていると知った芽衣子は、人を傷つけたことで自分自身も深く傷ついていたことに気づく。一方、セフレにそそのかされて大学教授(渋川清彦)に誘惑の罠を仕掛けに行った第2話の奈緒(森郁月)は、予想外の展開になった教授との対話を通して己の煩悩と向き合う。汚れた自分の中にある美しいものに気づかせてくれた教授との時間は、奈緒の人生にとって得難い体験になるが、同時に悔いが残る体験にもなる。そんな皮肉をはらんだ第2話は、偶然の出来事が終盤に仕掛けられたトリッキーな構成と、小説の朗読が緊迫感を生む作劇が面白い。
第3話は、高校の同窓会に出席するため仙台へやって来た夏子(占部房子)が、偶然の再会(実は出会い)を果たした友人と共に想像力をめぐらせることで、20年間の心の重荷を下ろすエピソード。解放感に満ちているが、その感覚は他の2話にも共通している。なぜなら、第1話の芽衣子も第2話の奈緒も、夏子と同じく人生の痛みを越えて再出発していくからだ。「寝ても覚めても」の朝子のように、「ドライブ・マイ・カー」の家福のように。頭の先からシッポの先まで濱口印のこの映画は、4話で構成されるという続編への期待をかきたてずにおかない。
(C)2021 NEOPA / Fictive
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