【「ラストナイト・イン・ソーホー」評論】#MeToo以降の視点を色濃く感じさせる、ライトの趣味性が炸裂した面白ホラー!

2021年12月12日 09:00


「ラストナイト・イン・ソーホー」
「ラストナイト・イン・ソーホー」

エドガー・ライトは基本的に「男どもがわちゃわちゃする映画」で評価を築いてきた。過去作でも魅力的な女性像を打ち出していたとは思うが、主人公は基本的にオタク的な男性で、ライトの分身のような存在だったと思っている。

それだけに、「ラストナイト・イン・ソーホー」が二人の女性を主人公に、#MeToo以降の視点を色濃く感じさせる作品であることに驚いた。驚いた、というと失礼に当たるかも知れないが、ライト自身が「いくつになっても大人になれない男たち」を描き続けてきたのだから許して欲しい。

主人公はファッションデザイナーになろうとロンドンにやってきたエロイーズと、彼女が夢の中で出会う歌手志望のサンディ。エロイーズは現代、サンディは1960年代と違う時代を生きているのだが、エロイーズは次第にサンディが実在し、恐ろしい事件に巻き込まれたのだと確信するようになる。

主要なテーマを脇に置けば、本作はみごとなまでにライトらしい趣味性が炸裂した青春、音楽、ホラーの混合物だ。ダリオ・アルジェントやマリオ・バーヴァらジャッロ映画の大家たちへのリスペクト、スウィンギング・ロンドンと呼ばれる60年代カルチャーへの憧憬、そして今回も全編がライトが選曲したポップソングに満たされている。

現代のエロイーズと50年前のサンディを繋ぐ“鏡”の演出にも目を瞠る。工夫を凝らした映像トリックが矢継ぎ早に繰り出され、ほとんどアナログで撮影されたというのがにわかには信じられない。どのショットも遊び心に満ちており、ライトがいかに映画作りを楽しんでいるのかが伝わってくる。

しかし本作を語る上で、「ライトが面白おかしいホラーを作った!」と騒ぎ立てるだけでは不十分といえる。ライトは大好きなジャンル映画を入口に「男社会に搾取されてきた女性たち」というシビアな現実に向き合っており、それはもはやただのエンタメとして消費できない問題だからだ。

おそらく本作でのテーマの扱い方については、称賛する人もいれば苦言を呈す人もいるだろう。旬の若手であるトーマシン・マッケンジー(『ジョジョ・ラビット』)とアニャ・テイラー=ジョイ(『クイーンズ・ギャンビット』)の輝きが詰まっていることも、筆者には諸刃の剣のように感じた。とはいえライトが新しい視点に立って、映画作家として次の段階に進んだことは間違いない。われわれ観客側も、本作をどう受け止めるのかが試されているのだと思っている。

(村山章)

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