【「GUNDA グンダ」評論】ナレ無し、BGM無し、モノクロ映像美。動物たちの生に向き合う忘我の90分

2021年11月28日 18:00

「GUNDA グンダ」
「GUNDA グンダ」

動物を対象にしたモノクロのドキュメンタリーで、ナレーションもBGMもない。そう聞くと、昨今の情報過多なコンテンツに慣れた観客なら敬遠したくなるかもしれない。だが案ずることなかれ。逆説的な言い方になるが、余分な情報をそぎ落とした非言語の表現だからこそ、動物たちの生のありようを私たちの心に直接伝える雄弁さを、本作「GUNDA グンダ」は確かに獲得している。

被写体は、農場で暮らす母豚“グンダ”と子豚たち、鶏、牛。なかでも、グンダが小屋の中で生まれたての子らに乳を飲ませる冒頭から、よちよち歩きの彼らを引き連れて放牧地で餌を探すのを教え、やがて子らが母親を置いて勝手に外へ出ていくといった具合に、グンダの子育てと子豚たちの成長を中心に追っていく。

ロシア出身のビクトル・コサコフスキー監督は、滑らかな移動で動物たちに寄り添うカメラで、フォーカスと被写界深度を精妙にコントロールし、美しく味わい深い驚異的な映像を生み出した。彼らの鳴き声と自然の環境音は、三次元で音像を定位させる立体音響技術「ドルビーアトモス」で再現され、その場に身を置いているような没入感に貢献している。

情報量を落としたモノクロ映像には、動物と人間との見かけの差異を減じる効果もある。クローズアップされたグンダの顔には眉毛やまつ毛も認められ、諦観を感じさせる眼差しが哲学者のようにも見える。言語を介さずに彼らと向き合って再認識させられるのは、「人間も動物である」という真理だ。授乳のシーンでは、自分が母親の胎内から生まれ出て、本能のまま母乳を求めた赤子の頃の失った記憶を呼び起こされる錯覚が生じるほど。言葉も知識もない混沌とした意識で世界と対峙する感覚を、追体験する状態と表現できるかもしれない。

愛情深い子育てや心温まる成長といった側面だけではない。序盤で、グンダがおそらくひ弱で生き残れないと判断したであろう子豚を“間引き”するショットがあり、はっと息をのむ。

場所が農場である以上、管理する人間がいるのは自明なのだが、その姿を映し出すことは意図的に避けられている。ただし終盤、人間の存在を象徴する運搬用ケージを付けた農業車両が登場し、ある運命をグンダ母子にもたらす。ここからグンダをひたすら追い続ける約10分の長回しが圧巻だ。駆け出しては立ち止まり、あたりを見回して鳴く。小屋に戻ってのぞき込む。カメラに向かってゆっくり近づき、私たちに何かを訴えかけるようにじっと見つめる。グンダの奇跡的な“名演”により、創作されたドラマ以上にドラマティックな瞬間が立ち上がる。

(高森郁哉)

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