【「キャンディマン」評論】鏡と血しぶきが彩る幻惑的なイメージでアート化された都市伝説の恐怖
2021年10月17日 07:00
クライヴ・バーカー原作、バーナード・ローズ監督の1992年作品「キャンディマン」は、複雑な背景を持つホラー映画だった。鏡の前でその名を5回唱えると出現するキャンディマンのルーツは、19世紀末に白人たちになぶり殺しにされた黒人画家ダニエル・ロビタイル。彼の遺灰がまかれた設定になっている貧困層向け公営住宅カブリーニ・グリーンは米シカゴに実在しており、現地ロケで撮られた特異な景観が映画に生々しい現実感を吹き込んでいた。大学院生の白人女性ヘレン(ヴァージニア・マドセン)は、都市伝説を取材するため荒廃したカブリーニ・グリーンに足を踏み入れ、夢うつつの恋に落ちるようにしてキャンディマンの魔力に囚われていった。
いささか説明が長くなったが、それには理由がある。若き日に上記の「キャンディマン」を観て衝撃を受けたジョーダン・ピールは、29年ぶりとなる同名タイトルの製作、脚本を手がけるにあたり、リメイクではなく続編を志向した。舞台となるのは、新たな再開発によって高級住宅や高層ビルが建ち並ぶカブリーニ・グリーン。前作の主人公ヘレンの物語さえも都市伝説化したこの呪われた土地で、新たな惨劇が巻き起こる。
とはいえ、キャンディマンが鋭いカギ爪をふるって暴れまくるストレートなスラッシャー映画を期待すると面食らう。ピールに抜擢された新鋭のニア・ダコスタ監督は、殺人シーンを直接見せず、スーパーナチュラルな存在であるキャンディマンの凶行を幻惑的なイメージで映し出す。とりわけ中盤のアートギャラリーにおける殺戮シーンが鮮烈だ。ギャラリー内の鏡にフラッシュし、影絵のごとく怪しいシルエットを浮かび上がらせるキャンディマンは、まるで前衛的な芸術作品のモチーフのよう。そう、まさしく本作は都市伝説の魔物の“アート化”を実践した異色作なのである。
今回の主人公アンソニーは若きアーティスト。ハチに刺されたことをきっかけに、奇怪な絵画を描き始める彼のおぞましい運命を通して、ピールとダコスタ監督は人種差別という視点からもキャンディマンを再定義していく。時代を超えて今なお繰り返される人種差別の蛮行、その無数の被害者たちを象徴するキャンディマンは“ひとり”とは限らないのだ!
かくしてビジュアルとテーマの両面で異彩を放つ本作は、1992年版の続編にとどまらず、独創的なアイデアに満ちあふれた再創造バージョンにもなった。何の前知識も持たず、スクリーンというキャンバスにほとばしる鏡と血しぶきの恐怖アートを体感するのも大いに結構だが、より理解を深めるには前作の予習をお勧めしたい。
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