アマゾン先住民の村に単身滞在 自給自足生活、アヤワスカ体験を詩的な映像で捉えた異色ドキュメント「カナルタ 螺旋状の夢」監督に聞く
2021年10月1日 18:00
英国マンチェスター大学で映像人類学の博士課程に属し、卒業制作のためエクアドル南部のアマゾン熱帯雨林に暮らすシュアール族の村に1年間滞在した太田光海監督によるドキュメンタリー「カナルタ 螺旋状の夢」が、10月2日からシアター・イメージフォーラムで公開される。日本で暮らす我々とは全く異なる土地と文化の中で生きる人々の生活を詩的な映像で切り取り、見る者に眩暈のするような非日常体験をもたらす異色作だ。部族の知恵を受け継ぎ薬草を取り扱う男性と、女性村長の家庭に住み込みながら、たったひとりで記録し、自主映画として本作を完成させた太田監督に話を聞いた。
最初はアマゾンという場所よりも、人の手の入っていない自然環境の中で自給自足しているような人々に興味が湧いたことです。そのきっかけは2011年の震災と原発事故です。当時、留学でパリにいたのですが、今、自分は一体どういった社会に生きているのだろう……という衝撃に襲われました。何か別の可能性を知りたい、と思ったのです。
そんな考えが2~3年頭に引っかかっていて、その時社会科学高等研究院という大学に通っており、クロード・レヴィ=ストロースの一番弟子である、フィリップ・デスコラが僕の大学で教えていました。彼がエクアドルのシュアール族の隣に住む、アチュアール族の研究をしていた方なんです。人間と自然のありうるべき関係性について論じていたので、彼の著作を読んでそういった研究に興味を持ちました。でも、引っかかるところもあって。自分も同じような部族の生活を研究することで、彼と対話のようなことができるかな、と思ったんです。
彼の考えは、「我々西洋は~」という立場から始まります。西洋は近代的で、消費主義社会があって、その一方で西洋以外の人々がいるというもの。デスコラの著書「自然と文化を超えて」では、フランスの地理学者オギュスタン・ベルクの言葉を引用し、日本古来の自然観を述べています。でも、日本人の僕は、それは今の日本でどうなのか?と引っかかって。西洋で学んでいる日本人の僕が、西洋以外の場所に行ったら、どういう論点の違いや見方の違いがあるかと知りたくなったのです。西洋、アジア、とかではなく等身大の人として探求したかったのです。
そうなんです。アマゾン、南米はコンキスタドールがスペインから来て、初めて侵略された新大陸。長いこと植民地主義と向き合っている。映画では、直接この問題を扱っているわけではありませんが、そこを掘り返して、自分の中で消化しながら作ることによって、もう少し深いレベルで他者とは何か?ということを理解できるのでは、と思いました。
当時、僕の周りにエクアドルの部族の研究をしている方が何人かいました。また、アマゾンと言えばブラジルだと思われるでしょうが、ブラジルはめちゃくちゃ広くて、奥地に行くのが非常に難しい。というなかで、エクアドルは小国でアマゾンにも行きやすい。僕のようにジャングルでのサバイバル生活のノウハウがない人間にとっては行きやすいと思ったことも理由の一つです。
初めてこの村を訪れた時、首都のキトで個人的な外国人向けガイドをしていたシュアール族の女性を紹介され、コンタクトを取りました。彼女に、自然とのかかわり、薬草に興味があるということを話したら、セバスティアンの元に連れて行かれ、滞在を受け入れてくれました。
はい、薬草と飲食文化に興味がありました。エクアドルに着いた時点ではシュアール族に会えるかどうかもわからなかったし、どこに滞在するかも決めていなかったのでいろんな部族やロケーションにある土地をめぐりました。ヤスニ国立公園という世界最大規模の生物多様性を持つ地域もあって。そこは朝4時頃から森の猿たちがけたたましく鳴き出すような場所でした。いろんなところを回って、僕の興味を話したら、たまたまシュアール族に出会って、セバスティアンを紹介された。導かれたような感じですね。
シュアール語も学びましたが、メインはスペイン語でした。彼らも身分証明書を持っていますし、小学校はスペイン語で教育されているので、先住民もスペイン語なしでは生活できないですね。
彼らは職業という概念があまりないのです。村や近くの場所にある小学校の先生になる、というのが彼らが考えるほぼ唯一の職業。あとは基本的に自給自足です。住所もなく、銀行口座もある人もない人もいる。でも身分証明書はあって、エクアドル政府が住所がなくてもそういった先住民コミュニティを取り込めるようになっているシステムがあるようです。警察もいませんし、ほぼ自治地区のようになっています。彼ら独自のシュアール族連合のような組織があって、そこを介して政府とやりとりしているようです。
人類学の用語で言うとトリックスター。何にも属さない中間的な存在で、その存在がいることで均衡が崩れたり、しかしそれがきっかけで、新しいイベントが起きたりする。そういった役割を持つ存在に近いです。父親がシャーマンでしたが、セバスティアンはシャーマニズムの公式な訓練や修行を敢えて受けていません。しかし、シャーマン的な知識や霊感的な素養があると、自分でその才能に気づいたので、それっぽいことをやっている。村の人からは、彼はシャーマンではないけど、薬草に詳しいし、シュアール族の伝統的な神話や歌に詳しく、なにより、それを自ら追い求めている人としてリスペクトされている存在です。村の中でも明らかに特殊な存在ですね。
根回しみたいなものはしてくれたと思います。以前も外国人が来たことがあって、そういった時は大体セバスティアンの家に滞在するようです。何より彼は、(植物から作られた飲料)マイキュアやアヤワスカを飲んで“ビジョン”を見ます。映画で取り扱っているのは一部ですが、彼は何回も飲んでいるので、その都度新しいビジョンが見えるんです。セバスティアンは、“世界中に友達ができる“というビジョンを見たそうで、それが現実になっているようでうれしそうでしたね。だから、僕が初めて村を訪れた時も、「君のこと見たことあるよ。ビジョンにいた」と教えてくれました。
マイキュアは通過儀礼というよりも、継続的に飲むものですね。人生をかけて飲んでいくもののようです。村の人たちは子供の頃、10歳くらいから飲み始める人もいるようです。男の子の方が飲む回数は多そうですが、女の子が飲んではいけないということはない。だれでも最低1度は飲んでいるのではないでしょうか。美味しいものではないので、しつけのような側面もあるようです。トリップ状態になって、本当の自分に出会って、深いモラルを持った人間になるというプロセスだと思います。化学的に言うと幻覚作用のある薬草ですが、彼らからするとリアルなものなのです。
僕の場合はマイキュアよりアワヤスカの方が効果がありました。本物の体験でしたし、僕もビジョンを見ました。アヤワスカはビジョンを見るという視覚的な体験でもあるのですが、身体的な体験でもあって。実際に吐いたりしますし、平衡感覚がなくなって、臨死体験に近いので、ビジョンを見るだけではなく、感覚が残り続けるのです。依存性はないですし、しょっちゅうやりたいとは思わないのですが、自分に迷いがあるようなとき、自分を超えた大きなものと繋がりながら、自分自身のことを知りたいと感じた時に、もしチャンスがあればもう一度やってみたいですね。彼らはもう何千年も続けています。
いつから始まったのかは分かりませんが、実は、僕はそういうビジョンを見たのです。裸族に近いような人が、何かを話しながら何らかの薬草を試しているような場面が見えて。それは、アヤワスカを発見した場面だったのではと思いました。
村の人々は毎日お茶や水感覚で飲んでいますね。僕の体感だと5~10%くらいでしょうか。
はい、僕も酩酊していました(笑)。朝起きたら、チチャを飲むことから始まります。彼らは生水を飲まないので。チチャは発酵させているので、殺菌の意味合いもあったり、より栄養価も高くなる。それも森の中で生きる彼らの知恵だと思います。赤ちゃんも朝から飲んでいます。
思考錯誤してつけました。最初はセバスティアンの言葉である「君の手のひらは常緑樹のように緑だ」を使った英題を考えていましたが、ちょっと長すぎるなと。「カナルタ」は、シュアール語で「お休みなさい」「夢を見なさい」「ビジョンをみなさい」という意味。それがしっくりくるなと思いました。
螺旋状”は彼らの生きている世界観が学術的には円環的、サーキュラーと呼びますが、彼らと実際生活してみると、単にサーキュラーというよりは、個人個人が自分の人生を選び取りながら、どこかに向かっていて、社会も変化する中で動的なものを感じました。それが螺旋状の動きのようで。あとは、この映画にはデジャヴのようなシーンがいくつかあります。夢を語るシーンを等間隔で差し込み、家をつくるシーンを2回ずつ入れていて。それが彼らの世界観で一周するような感じとシンクロするなと。それでの螺旋状です。彼らの生活の内容も、映画の形式、編集で表現したかったのです。河瀬直美監督の「垂乳女 Tarachime」は最初と最後が胎動で始まります。そこからもインスピレーションを受けました。
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