「オクジャ」「バーニング」「ミナリ」――スティーブン・ユァン「ウォーキング・デッド」以降の“歩み”を語る

2021年9月22日 14:00


スティーブン・ユァン
スティーブン・ユァン

大ヒットドラマ「ウォーキング・デッド」のグレン役で人気を博し、「オクジャ okja」「バーニング 劇場版」「ミナリ」といった話題作に出演してきたスティーブン・ユァンがこのほど、第46回トロント国際映画祭で行われたトークイベントに出席。新作「The Humans(英題)」だけでなく、過去の出演作品についても振り返ってくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

まずは「ウォーキング・デッド」に参加した後のことについて。同番組への出演後、どのようなキャラクター、そして、どのような仕事に臨みたかったのだろうか。

「ウォーキング・デッド」
「ウォーキング・デッド」

「いくつかの壮大な計画があったし、自分が本当にやりたいことを示すことができればよかった。実際はそう上手く事が運ばなかったが、幸運にも、韓国で『ウォーキング・デッド』の宣伝をした時、友人のクリス・エバンスポン・ジュノ監督を紹介してくれた。親切なポン・ジュノ監督は僕に会ってくれて、それから約半年後にメールで役どころを与えてくれた。その作品が『オクジャ okja』だったんだ。『ウォーキング・デッド』出演後は、自分の進みたい方向がわからなかったし、映画界で何が起こっているのかも把握できていなかった。結婚し、第1子が生まれ、新しい家も購入した。それらが全て1年以内に起きていた。妻ジョアナのおかけですごい体験ができたんだ」

「大学卒業後の7年間、信じられない旅や『ウォーキング・デッド』に参加した経験が、どれほど僕の現実とアイデンティティに浸透していたのかということに気づかなかった。特に『ウォーキング・デッド』以降は『自分が、本当は何者なのか』ということを理解するために時間を費やさねばならなかったんだ。家族を含めた“次の人生”のためにね。もう少し堅実で、具体的にする必要があったんだ」というユァン。ちなみに「オクジャ okja」や「ホワイト・ボイス」(ブーツ・ライリー監督)以外は、グレンのイメージに近いキャラクターをオファーされることが多かったそうだ。

「ウォーキング・デッド」
「ウォーキング・デッド」

オクジャ okja」に出演した際は、初めて米国と韓国の“価値観のズレ”に気づかされたようで「米国と韓国の間に挟まれた役柄“K”を演じ、両国から誤解される苦しさ、痛みを味わうことができなかったら、(自身が韓国系アメリカ人であることを)おそらく今でも認められなかった」と明かす。そんな経験を経て、オファーを受けたのが「バーニング 劇場版」(イ・チャンドン監督)。演じることになったのは、2面性のあるキャラクター、ベン。同作への参加は「人生において最も成長できた体験」だった。

「バーニング 劇場版」
「バーニング 劇場版」

「イ・チャンドン監督は『ベンは韓国人ではあるものの、韓国人の反対側にいるような、グローバルな感覚を持っている人物として演じて欲しい』と要求してきた。ベンは韓国系アメリカ人である必要はなく、家柄の特権で旅行し、世界を経験した韓国国民――その点が、奇妙でグローバルな雰囲気を醸し出している。韓国には『キョポ』という言葉がある。それは海外に渡った同胞のことを示しているが、僕自身の韓国語のスキルも『キョポ』と大差はなく、いつも申し訳なと思うレベルだ。韓国語は、僕が毎日話す言語ではないと感じていた。成長期を迎えると、韓国人がいる教会に行ったんだが、そこでは年配の人たちに敬語を使っていたので、口語的で、自然な韓国語は学べなかったんだ。だから、韓国に行き、言葉の習得に没頭した。英語と同じように話せるようになるまで、かなりの時間を要した」

「バーニング 劇場版」
「バーニング 劇場版」

「イ・チャンドン監督が雇った韓国語のコーチとの日々は、貴重な経験だったね。教えを受けるなかで、ベンという“国境を超えた漠然とした存在”が頭に浮かんできたんだ。この感覚は、アメリカでの暮らしでは、決して得られなかったものだ。僕にはベンという人物は『必ずしも邪悪な境地から話しているわけではない』と感じた。僕自身は、ベンがどんなキャラかを答えることはできない。でも、邪悪な人物とみなすか、あるいはニヒリストとみなすか……それはどちらであっても、ある程度の真実を含んでいるとは思う」

#Metooムーブメント以降、普段は聞こえない、もしくは新たな声を取り上げた映画に惹かれていたユァン。そんな時に出会ったのが「ミナリ」だった。

「それまで僕が読んでいた脚本は、いかにこの世界の中心に立つかを探求するものばかりだった。映画の中心である役柄を通して、アイデンティティの探求が行われていた気がする。だが『ミナリ』の脚本は、既に家族が中心にあると思った。彼らは初めから主人公で、誰もが同じ世界にいた。とても解放された気になって、幸せでワクワクした」

「ミナリ」
「ミナリ」

監督のリー・アイザック・チョンについては「非常に協力的で、自信も与えてくれた」と話し、現場では脚本通りの演出は行わず、俳優の意見を取り入れていたことを告白。では、妻役を演じたハン・イェリとは、どのようなコミュニケーションをとっていたのか。

「とても協力的で、結びつきが強い現場だった。僕とイェリは撮影を終えると、スンジャ役のユン・ヨジョン、多くの撮影スタッフが滞在していた家で、よく夕食をとっていた。そこでは誰もルールを持ち込まず、食事に没頭していた。それがある意味、劇中の一家に通じる“家族のダイナミックな部分”を自然と表現していたように思える。その点を見逃すことはできなかったね。イェリは、とてもパワフルで美しく、何より正直な俳優だ。それぞれの人生において体験してきたことを、男性と女性、夫と妻として、包み隠さず話すことができたと思う」

「The Humans(英題)」
「The Humans(英題)」

最新作「The Humans(英題)」は、マンハッタンの古いアパートを舞台にした作品。感謝祭を祝うため集まったブレイク一家が、老いや病気、経済的不満、宗教の対立などを通して理解を深めていく姿をとらえている。ユァンは、ビーニー・フェルドスタインが演じるブリジットの恋人・リチャード役で参加している。このリチャードというキャラクターは、ある意味「観客の視点」のようにとらえることができる。その解釈について、ユァンはこのように意見を述べてみせた。

「素晴らしい意見だ。現時点では、僕の役柄は必ずしも観客の代理であるとは考えていない。しかし、彼の二面性が、本質的な部分での“観客の代理”になっているのかもしれない。リチャードはアジア系アメリカ人。ビーニー演じるブリジットよりも年上で、裕福な家庭の出身だ。だから、ブレイク一家とは異なったレベルのパフォーマンスを、彼らのリビングで展開していく。スティーブン・カラム監督は、リチャードがひとりでいる瞬間を描いてくれた。その点に感謝している。なぜなら、劇中でさまざまなエネルギーを試していたからだ。例えば、義理の家族に会いに行くためには、自分を「オン」にしなければいけない時があるだろう? そのようなリチャードの相違を、監督はしっかりと見せてくれたんだ」

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