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ホロコースト生存者の子孫である一般の子どもたちが熱演 ジェシー・アイゼンバーグ主演「沈黙のレジスタンス」監督に聞く

2021年8月28日 10:00

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ジョナタン・ヤクボウィッツ監督
ジョナタン・ヤクボウィッツ監督
(C)2019 Resistance Pictures Limited.

ジェシー・アイゼンバーグが主演、「パントマイムの神様」と呼ばれたフランスのアーティスト、マルセル・マルソーが第2次世界大戦中にユダヤ人孤児123人を救ったエピソードを映画化した「沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家」が公開された。ユダヤ系で、自身の母がプロの道化師だったというアイゼンバーグが、緊張に包まれた孤児たちをパントマイムで和ませ、レジスタンス運動に身を投じた主人公マルセルを好演している。ホロコーストからの生存者を親族に持つジョナタン・ヤクボウィッツ監督が作品を語った。

画像2(C)2019 Resistance Pictures Limited.
――本作は、あなたにとって非常に私的な物語だと思うのですが、どうしてこのマルセル・マルソーの物語を映画化しようと思ったのでしょうか。

たしかにこれは非常に個人的な物語だ。私の両親の親族は、どちらもホロコーストを生き延びた人たちだ。でも、それが原因でこの作品を作ったわけではない。むしろ、ホロコーストに関する映画は、あまりにも身近なテーマだから作りたいとは思わなかった。まず、マルセル・マルソーがユダヤ人で、ホロコーストを生き延びた孤児たちを救ったという話を聞いた。私の映画「ハンズ・オブ・ストーン」がカンヌ国際映画祭で上映された頃に、どんどんこの話に引き込まれて、リサーチを始めた。フランスに行くついでに、関係者に会えると思ったんだ。その時に、マルセルのいとこのジョルジュ・ロワンジェを探しあてた。第2次世界大戦中にレジスタンス組織のリーダーを務めていた人だ。劇中、マルセルに孤児の救済の手伝いをしてくれないかと声をかけたのがこの人物。私が彼に会ったとき、彼はもう106歳で、パリに住んでいた。何時間か話をして、その時に聞いた話を映画の中に盛り込んでいった。私は、どうしてもこの物語を伝えなければならないと確信した。

――106歳の彼の実体験が、この物語に大きく貢献してくれたということですね。

彼の話がすべてではないが、重要な証言の一つではある。最も直接的に映画に影響した発言かもしれない。証言者の中でこの出来事を実際に体験した人間は、彼だけだから。残念なことに、この作品の仕上げにかかっている最中に亡くなった。108歳だった。先週、彼の家族全員がこの作品を見てくれた。今まで見たことがないほど美しい手紙をもらって感動したよ。

画像3(C)2019 Resistance Pictures Limited.
――事実とフィクション部分は、どのように混ぜ合わせたのでしょうか。過去の事実に基づいた物語を創作する際に、どういったことを考慮していますか?

まずは6~7年間に起きた出来事を、2時間の映画に収めなければならない。多くの証言は数十年前のもので、それぞれ記憶している内容が異なり、矛盾していたりもする。毎回思考をこらさなければならない。できるだけ事実に忠実でなければならないと同時に、物語にも忠実でなければならない。そこで、違う時代に、違う都市や場所で起きたであろう出来事を盛り込んでいく。そうやって物語を成立させるんだ。劇中では、マルセルは巨大な広場で兄弟を解放するが、実際は違った。しかし、このように設定を大げさにすることで、観客は物語に引き込まれる。多くのリサーチを行ったよ。ヤド・ヴァシェム(ホロコースト記念館)にも行ったし、フランスのリヨンにあるレジスタンス博物館にも行った。ボリビアでナチ親衛隊大尉クラウス・バルビーを捕まえたナチ・ハンターからも話を聞いた。私は特にこの時期の歴史に詳しく、今までいろんな本を読んできたので、今回の主な課題は、キャラクターを深め、観客が共感できるような物語を作ることだった。

画像4(C)2019 Resistance Pictures Limited.
――ベラ・ラムジー以外の子役のほとんどがプロの俳優ではなかったそうですね。

以前にもアマチュアの人たちと一緒に仕事をしたことがあって、いい体験だったんだ。当初はプラハの子役を雇う予定で、現地のいろんな子役を紹介してもらったのだが、みんなどこか演技しすぎているような気がした。ある日、キャスティング・ディレクターに、プラハにはユダヤ系の学校はあるかと聞いた。そうしたら彼女は、「ええ、あるけど、そこの子どもたちは英語を話すことができない」と言った。だから私は、「いや、そんなにセリフがないから大丈夫だ」と答えたんだ。基本的に、劇中で何が起きているのかを感じられて、恐怖を理解してくれていればそれでよかった。だから、その学校の子どもをオーディションすることにした。

子どもたちは、衣装を着て、お化粧までしていて、感動したよ。戦時中の話だということを分かっていたんだ。結局、その学校のほとんどの子どもたちを雇うことになって、彼らはクラスメイトでお互いに知っていたから、すでに良い関係性が出来上がっていた。しかも彼らは全員ユダヤ系のチェコスロバキア人。全員、ホロコーストを生き延びた人々の子孫だ。だからこそ、両親たちを説得しやすかったし、この物語の重要性も理解してくれた。「悲しそうにして」と言ったらすぐに悲しそうにしてくれたし、「おびえるように」といえば、すぐにおびえる演技を見せてくれた。ある意味、あの子どもたちは先祖の体験を演じているわけだよね。だからこそ特別だったんだ。

画像5(C)2019 Resistance Pictures Limited.
――悪役(クラウス・バルビー)を人間らしく描いた電車のシーンはとても印象的でした。

実はあのシーンは最後に仕上がったシーンなんだ。プリプロダクションの段階で書き上げた。とにかく……あの瞬間、奇跡が起こったんだ。英雄対悪役だから、とても重要なシーンなんだ。英雄は自分のことを英雄と思っていない。逆に悪役は自分を英雄だと思っている。戦争の愚かさが浮き彫りになるんだよ。何百万人もの人々を殺しておきながら、それでも自分は正しいと思い込めるほど人間は愚かな生き物なんだ。そしてそんな残虐な男が良い父親であったりする。バルビーについてリサーチをしていた時、ある事実にショックを受けた。

逮捕後、バルビーはフランスで裁判にかけられた。バルビーの娘は、父親の裁判に毎日立ち会ったそうだ。だが、最後まで裁判の中で語られた言葉を、一言も信じようとしなかった。それほど父親を尊敬していたんだ。彼女の知る父親が、証言台で語られたようなことをする人間だなんて、信じることができなかったんだ。私にとってこの事実はとても参考になったし、彼女の気持ちがとても理解できた。バルビーは良い父親でいながら、子どもたちを殺害していたんだ。だからこそ、人間の深さを理解することが重要なんだ。そこでわれわれははじめて恐怖を感じる。自分は悪いことをしていると自覚しながら犯罪を犯す人間などいない。こういうことを心に留めておくことはとても重要だ。自分の行動を信じて疑わない人がいるならば、一度立ち止まり、「本当に自分のしていることは正しいのか」と自分に問いかける必要がある。ナチは、自分たちの行動が正しいと一瞬も疑わなかった。それが問題だったんだ。

――コロナ禍により本作も劇場公開の延期を余儀なくされました。現在起きている変化について、また映画への影響をどう考えますか?

面白かったのは、この物語でマルセルが学ぶことのひとつが、戦争は我が身に降り掛かっている災難ではないと考える姿勢なんだ。この映画には、アーティストとして戦争の流れを変えることになる男、戦争のせいで自分の役割を果たせないと感じる男が登場する。男は自らの旅路の過程で、我が身に降りかかる出来事のせいで自分の進むべき道が見つかることに気づく。そして観客もそれに気づくんだ。パンデミックが始まって、私の映画が劇場で公開されなくなることに気づいたとき、私のとっさの反応は、なぜ私がこんな目にあうんだという気持ちだった。そしてそれはそのまま、私をマルソーに直面させた……。

しかし、マルソーからこれは君の身に降りかかっていることではない、と教わった。あらゆる点において、これこそ物事が起こるべくして起こる仕組みなのだ、と。そして、この映画は正しい道を見つけるだろうと。ある意味、それは正しかった。なぜなら、おそらく誰もが家にこもって映画三昧したおかげで、この作品は通例より圧倒的多数の人々に見てもらえたからだ。さらには、この映画は、気が滅入って、自分は歴史上最悪の時を生きていると感じている多くの人にとってありがたい作品となった。そんなときにこの映画を見ると、自分たちは大丈夫なんだと気づく。今は歴史上最悪の時などではないのだと。たしかに、今、恐ろしいことが起こっている。だが、あの話を知れば比でもない。しかも、映画が描いているのはそう遠い時代のことではないからね。

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