【「ジュゼップ 戦場の画家」評論】“描く”という生き様と真摯に向き合ったアニメーション手法が胸を打つ
2021年8月15日 19:30

なんと独創的な語り口を持った作品なのだろう。“描くこと”をよすがに惨憺たる状況を生き抜いた画家の話───そんなあらすじを聞くと、頭の中は苦しみと悲しみと慟哭のイメージでいっぱいになる。しかし本作はそれを芯としつつも、さらに羽ばたき、アニメーション技法を駆使して74分間を様々な色と感情とで満たしていく。これぞ表現の力。観る前と後でこんなに印象が変わるものかと、大いに驚かされる自分がいた。
この物語は5つの時代の移ろいで構成される。中でもメインとなるのは、ベッドに横たわる老人が孫に聞かせる昔話。彼は一枚の絵を糸口として、1939年2月の出来事を語りだす。当時、スペイン内戦を逃れた大量の難民たちは、亡命先のフランスの強制収容所で過酷な暮らしを強いられた。そこの憲兵だった若き日の老人が、あらゆる場所に絵を描き続ける一人の男に紙と鉛筆を手渡したことから、両者の間には思いがけない友情が生まれていく。
ジュゼップ・バルトリという画家を知る者は日本にどれほどいるだろう。彼の絵に感銘を受けたオーレル監督は、当初、その波乱万丈な人生を網羅的に描く伝記映画を構想していたらしい。でも結果的に焦点を絞り、どんなに過酷な状況でも“描くこと”を忘れなかった主人公の生き様こそをグッと際立たせる構成へ。
そうやって実を結んだ映像は目を見張るものがある。ジュゼップが実際に収容所内で描いたイラストやスケッチの質感をアニメーション内に取り入れ、感情も枯れ果てるほどの現実をかぼそい輪郭線と荒凉たる色調で描いたかと思えば、後半は一転。この抑圧された世界から飛び出し、目の覚めるような赤と青の原色をダイナミックにほとばしらせていく。あのフリーダ・カーロまで登場させ、まるで生命の躍動を視覚的に表現するかのように紡がれる映像は格別である。
言うなれば、本作は構造そのものが絵画的なのだ。先ほど5つの時代と書いたが、それは同時に5つの筆遣い、はたまた5つの色彩でもあり、オーレル監督はそれらを一つの作品中で大胆に織り込み、最後には現代や未来を照らす眩い光をも差し込ませてみせた。その穏やかで心地よい余韻を受けながら、我々はこのアニメーション映画が“描くこと”、すなわち“生きること”への限りない讃歌であったと知るのである。
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