【「クローブヒッチ・キラー」評論】父親は殺人鬼なのか? 不都合な疑念から逃れられない少年の残酷な通過儀礼
2021年6月20日 21:00

「COP CAR コップ・カー」「スパイダーマン ホームカミング」などのジョン・ワッツ監督作品に携わってきた脚本家のクリストファー・フォードが、新人のダンカン・スキルズ監督と組んだスリラー映画である。1970年代半ばから1990年代初頭にかけて米カンザス州を徘徊した“BTK絞殺魔”ことデニス・レイダーに触発されたシリアルキラーものだが、直接的な猟奇描写は一切ない。「もしも自分の父親が連続殺人鬼だったら」という不安に苛まれる少年の葛藤に焦点を絞った心理ドラマだ。
舞台は中東部ケンタッキー州の郊外。キリスト教の伝統が根づいた小さな町で暮らす16歳の主人公タイラーは、日曜日には家族とともに教会に通い、地元のボーイスカウトやボランティアの活動にも参加する模範的な少年だ。序盤で保守的なコミュニティの日常を細やかに点描するこの映画は、車の中から見つかった一枚の卑猥なボンデージ写真をきっかけに、静かに激しくうねり出していく。タイラーの良き父親であり、地域のリーダー的な存在でもある中年男ドンこそは、10年前にこの町を震撼させたクローブヒッチ・キラー(巻き結び殺人鬼)なのではないか?
かくしてタイラーは、クローブヒッチ・キラーの独自調査を行っているカッシというはみ出し者の少女に相談を持ちかけるのだが、彼は父親=殺人鬼などという“不都合な真実”は知りたくもない。しかし、ひとたび芽生えた父親への疑念はとめどもなくふくれ上がっていく。スキルズ監督とフォードのコンビは、この過酷な道徳的ジレンマに陥った思春期の少年の動揺を冷徹に見すえながら、神への信仰によって過去の陰惨なトラウマを覆い隠してきた町の平穏が脅かされ、タイラーを取り巻く世界そのものが崩れ落ちていく予兆を観る者に抱かせる。少年の内なる漠然とした不安がより生々しい戦慄へと変質していく過程を、猟奇殺人の具体的な物証をちりばめて映像化したサスペンス描写の繊細さ、鋭さは特筆ものだ。
そして、もはや後戻りできないタイラーの運命を悠然としたペースで語り続ける本作は、あらゆる観客が予測不可能なタイミングでとっておきのサプライズ演出を炸裂させる。物語の視点と時間軸を巧みに操ったそのギミックは効果絶大で、スクリーンに映し出された不可解な光景に「えっ!」と叫び、しばし放心せずにいられない。しかも真のクライマックスは、その先に待っている。このあまりにも残酷で痛切な大人への通過儀礼を描く心理スリラーは、最後まで少年に“逃げる”ことを許さないのだ。

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