希代の作家ケン・リュウの小説をなぜ日本で映画化? 鍵は石川慶監督との“共通点”だった
2021年6月10日 11:00
「愚行録」「蜜蜂と遠雷」を手掛けた石川慶監督の最新作「Arc アーク」が、6月25日から公開される。SF作家ケン・リュウの短編小説「円弧(アーク)」(ハヤカワ文庫刊)を原作に、人類で初めて永遠の命を得た女性をめぐる物語を描く。東北大学で物理学を専攻していた経歴を持つ石川監督は、以前からSFを撮りたいと思っていたそうで、ある思いを綴った手紙をリュウに送り、映画化をオファーした。
リュウは2011年に発表したわずか20ページ足らずの短編「紙の動物園」が、その年の最も優れたSF・ファンタジー作品に与えられる、ネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞の世界三大SF文学賞の3冠を制覇した。
また、全世界で2900万部、日本でもシリーズ合計で異例の47万部を記録した中国のSF超大作「三体」シリーズの英語版を翻訳するなど、翻訳家としても活躍。英語版「三体」は、バラク・オバマ前大統領ら、欧米の知識人が愛読していることでも知られ、Netflixで「ゲーム・オブ・スローンズ」コンビが製作総指揮・脚本を手掛ける実写ドラマ化が発表されている。
石川監督が原作の「円弧(ルビ:アーク)」に出合った時には、「物事を白と黒にハッキリとジャッジしたりしない東洋的な感覚から、人間的な温かみを感じる物語」だと感じ、同じ東洋的な考え方を持つ日本でこそ実写化する意味があると考えたそう。その思いが綴られた手紙を受け取ったリュウは、深い洞察に満ちたオファーを快諾し、映画化に乗り出すことになった。
石川監督が「愛がなんだ」の澤井香織と共に執筆した本作の脚本を英訳してリュウに送ったところ、長文のメールが届いたという。そのメールにあった「自分はこの小説をディストピアとして書いていない」という言葉は、映画の方向性を決定づけ、続けて「テレビゲームは昔は害を問われて批判されたけど、テレビゲームに夢中になった子ども達はいまの社会でどんどん世界を良くする新しいものを生み出した。不老不死もそういうことの一つかもしれない」という考え方は、同世代で理系出身の映画監督である石川と、エンジニアとしても働いてた経歴を持ち、理系出身ながら作家としての才能を持つリュウが持つ共通の価値観でもあった。
このアドバイスは映画の根底にある考え方として取り入れられ、石川監督のアイデアのみならず、リュウの遺伝子も色濃く受け継いだ新しい日本映画が誕生した。
「Arc アーク」は、6月25日から全国公開。
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