加賀まりこ、54年ぶりの主演映画! 老いた母親と自閉症の息子が模索する自立への道「梅切らぬバカ」21年公開
2021年6月2日 09:00

加賀まりこが主演し、塚地武雅(ドランクドラゴン)と親子役で初共演を果たした映画「梅切らぬバカ」が、2021年に公開されることが決定。あわせて、第24回上海国際映画祭(6月11~20日)のGALA部門に正式出品されたことがわかった。
本作は、「浅田家!」の中野量太監督、「水曜日が消えた」の吉野耕平監督などを輩出し、これまで日本映画の若手映画作家を育ててきた「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の長編映画として選出・製作。監督、脚本を務めたのは、過去に短編「第三の肌」でも「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に選出された映画作家・和島香太郎。ドキュメンタリー映画にも関わり、障害者の住まいの問題に接してきた
劇中で描かれるのは、老いた母親と自閉症の息子が地域コミュニティとの交流を通じ、自立の道を模索する様子。タイトルは、「対象に適切な処置をしないこと」を表すことわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」の引用だ。樹木にはそれぞれの特徴や性格があり、その特徴や性格に合わせて世話をしないとうまく育たないという戒めでもある。転じて、人間の教育においても、桜のように自由に枝を伸ばしてあげることが必要な場合と、梅のように手をかけて育ててあげることが必要な場合があることも意味する。
加賀が演じるのは、地域社会と距離を置き古民家でひっそりと暮らす珠子。主演映画としては、1967年に公開された「濡れた逢びき」以来、54年ぶりとなった。塚地は珠子の息子で、自閉症の忠男役として出演。そのほか、珠子たちの家の隣に引っ越してきた里村家夫婦を渡辺いっけいと森口瑤子、珠子と交流を深めていく里村家の息子・草太を斎藤汰鷹、グループホームの運営に反対する乗馬クラブのオーナー役に高島礼子、グループホームの代表に林家正蔵らが名を連ねている。
古民家で占い業を営む山田珠子は、近隣住民との付き合いを避け、自閉症の息子・忠男とふたりで暮らしていた。庭に生える一本の梅の木は、忠男にとって亡き父親の象徴だったが、その枝は塀を越え、細い私道にまで乗り出していた。隣家に越してきた里村茂は、通勤の妨げになる梅の木と、予測のつかない行動をする忠男を疎ましく思っていたが、妻の英子と息子の草太は、珠子の大らかな魅力に惹かれ密かに交流を育んでいた。ある日、忠男の通う作業所に呼び出された珠子は、知的障害者が共同生活を送るグループホームへの入居案内を受ける。自分がいなくなった後の忠男の人生を考え続けてきた珠子は悩んだ末に入居を決めるが、住み慣れた家を出た忠男は環境の変化に戸惑うばかりだった。ある晩、他の利用者とのいさかいをきっかけにホームを抜け出した忠男は、近隣住民を巻き込む厄介な“事件”に巻き込まれてしまう。
加賀、塚地、和島監督、上海国際映画祭プログラミング・ディレクターの徐昊辰氏のコメントは以下の通り。
手にした台本は今時のチャラさがなく、内容が新人らしからぬ地に足が着いているものでした。
どんな人が書いたのだろうと思っていたら和島監督は、叔父にあたる元横綱の北の富士さんに似た雰囲気はあるものの、全く無口で静かなヤツでした。
障害を持つ子供の親の方は、人に優しく、責任感が強い。その部分を大事にして演じました。
息子役の塚地さんは前からファンでしたが、共演してみてますます好きになりました。
そうして出来上がった映画は、たんたんと重い場面がすすむのでかえってホッとしました。音楽も、静かでよかったです。
いやでも「明日」はやってくる。この親子の日常は続く。どうか見守ってください。
台本を読ませていただいた時は、忠さんを取り巻く家族、隣人、グループホームの仲間、世話人の方、仕事場の方々、地域の皆さん、多くの人の生活が丁寧にリアルに描かれており、大切なテーマだなと思いました。和島監督はこのテーマに対し一緒に悩み、一緒に喜び愛情を持って作品を作り上げ、その愛が映像にも出ていると思います。
共演させていただいた加賀さんは優しく頼りになる本当に母のような存在でした。常に作品のことを考え、こうした方がいいのではというアイデアもなるほどと納得するものばかりで、お芝居に対する姿勢、取り組み方を今回沢山学ばせてもらいました。
忠さんを演じるにあたりグループホームを訪問し自閉症の人達の生活を見させていただき、ご家族や世話人の方からも沢山お話を聞かせていただきました。自分の中に見えてきた忠さん像を、プレッシャーもありましたが真摯に真っ直ぐに演じました。
この作品を通して、自閉症の方の性格や行動を学び少しでも理解すると接し方が変わるのではということに気づかせてもらいました。自閉症を知るきっかけにこの作品がなれればいいなと思っています。
以前、あるドキュメンタリー映画の編集を担当しました。自閉症と軽度の知的障害を抱える男性のひとり暮らしを描いた作品です。膨大な映像素材には、男性を支える親戚や福祉関係者の姿が記録されていましたが、近隣住民の姿が写っていませんでした。自立を支える人間が身近にいない問題に言及するため、近隣住民への取材を試みましたが、カメラを向けることは許されませんでした。溝を深めているのは、自閉症を原因とする予測のつかない行動への恐れと、「安定した暮らしを保ちたい」という普通の願望のために語られる、障害者排除の論理でした。虚構という形であれば、この意図せざる差別の構造を描けるのではないかと思い、本作を構想しました。
テーマに共感してくださった加賀さんは、共生の可能性を模索すると共に、自分を生かしてくれた息子・忠男への感謝の思いを携えて演じてくださいました。また、塚地さんが演じる忠男を見つめていると、ありのままで生きる喜びと日常を守ることの尊さを感じ取ることができます。
上海国際映画祭へのノミネートを嬉しく思っています。障害のある人の住まいをめぐる問題と、共生の描写がどのように受け止められるのかが楽しみです。
“障害者への偏見や差別”、“他人や社会へ配慮しすぎる人々”。この社会はどこかズレている。
そして、コロナはその“ズレ”を更に加速させた。和島香太郎監督は、この世の中を冷静に見つめ、力強いメッセージを出した。
皆さん、どうか“バカ”にならないでください!
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