【「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」評論】現実か幻覚か、「目撃」したことで追い詰められていく現代版「裏窓」

2021年5月22日 20:00


「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」
「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」

既視感を覚えるほどに、往年の映画ファンの心をくすぐる作品ではないだろうか。特に“サスペンスの帝王”と称されたアルフレッド・ヒッチコック監督作品へのオマージュを感じ、傑作「裏窓」を想起するのは私だけではないだろう。

その作品は5月14日よりNetflixで独占配信がスタートした「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」である。「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」などのジョー・ライト監督が、オスカーの常連女優エイミー・アダムスを主演に迎え、さらにゲイリー・オールドマンジュリアン・ムーアら豪華実力派キャストの共演で描いたサスペンススリラーだ。

裏窓」はコーネル・ウールリッチによる同名の短編小説が原作。事故で車椅子生活をおくる男が、アパートの部屋の裏窓から目撃した事件の顛末を描いたサスペンスで、ジェームズ・スチュワートグレイス・ケリーが共演した1953年製作の作品。てっきりこの「裏窓」を原案に、現代に合わせて脚色したのかと思いきや、「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」はアメリカの新進作家A・J・フィンによる同名のベストセラー小説が原作の別物であった。

広場恐怖症という病を抱えた引きこもりの女性が主人公で、隣りの家で起こった恐ろしい出来事を目撃したことをきっかけに、不可解な出来事に翻弄されていく姿を描いており、設定やストーリーはもちろん異なる。

しかし、主人公が窓から隣り近所の家を覗く行為や恐ろしい事件を目撃して巻き込まれる展開、そして精神的、心理的に追い詰められていく“恐怖心”をテーマにしているなど、類似点は多い。しかも主人公が引きこもって見る映画で「裏窓」や古い名作のシーンが劇中に映り込むので、もうこれは原作者も含めて確信犯だと思えて仕方がない。

だからといってこの「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」が「裏窓」の二番煎じ的な作品だと言いたいのではない。エイミー演じる主人公が目撃する出来事や彼女が推理し説明することが、果たして現実なのか、それとも彼女の妄想や幻覚なのかが、次第にわからなくなってくる映像表現は秀逸だ。実力派キャストたちの名演に加え、カメラワークや音響、照明、美術、編集も凝っていて、主人公と同じように我々も「見た」ことを疑うようになっていき、その疑念や恐怖心が精神的、心理的なところまで侵食してくるようだ。

さらに主人公の職業が児童心理学者で、トラウマとなる過去の闇と秘密を抱えていることから、向精神薬や多量の酒を服用していくことも中盤からボディーブローのように効いてくるので、ちょっとしたカットやシーンを見逃さないように、なるべく瞬きしないで見て欲しい。

裏窓」を見ておくとより楽しめる作品だと思うが、若い世代や未見の方は「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」を見てから約60年前の「裏窓」を見て比べてみると、映画の見方に新しい発見があるかもしれない。

和田隆

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