【ホラー映画コラム】「心霊」日本を代表する怪談の語り手が手掛けた、それぞれ全く毛色が異なり、いずれも強烈で見ごたえのあるオムニバスホラー
2021年3月27日 20:00
Twitterのホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、“人喰いツイッタラー”が、ホラー映画専門の動画配信サービス「OSOREZONE」の配信中のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くす! 今回は、日本を代表する怪談の語り手・稲川淳二が手掛けた、強烈で見ごたえのあるオムニバスホラー「心霊」をご紹介。
稲川淳二さんといえば日本を代表する怪談の語り手である。背筋の凍る話を、声の強弱とスピードの緩急を巧みに使い分けながら、恐ろしさを何倍も増幅して観客の耳に届けてくれる。そんな彼が、実は過去に映像作品も手掛けていたのはご存じだろうか。今回紹介するのは、稲川さんが一部監督を務め、更に本人も劇中に登場したホラーシリーズの一作、その名もズバリ「心霊」(なんて分かりやすいタイトル!)だ。本作は3篇の独立した物語からなるオムニバスホラーである。それぞれ全く毛色が異なり、いずれも強烈で見ごたえのある作りとなっている。それぞれのエピソードごとにその魅力を書いていく。
最初のエピソードは「旧日本軍の病院」。一目見て「ああ、霊が出るな」と分かる素晴らしいタイトルだ。新米看護師が勤務する古びた病院には、ある恐ろしい噂があった……。曰く付きの病院を舞台にした王道ホラーストーリー。なんといっても病院のセットが素晴らしい。古く粗い画質も相まって、夜の病院の禍々しい雰囲気がこれでもかと画面から滲み出ている。あの押しつぶされそうな闇が広がる廊下を、たった一人で見回りしないといけないなんて無理だ……。不穏極まりない画作りで、何も起きていなくても恐怖心が全開で煽られる。そして案の定、看護師が恐ろしい目に遭うのだが、この恐怖体験が想像の斜め上を行くぶっ飛びっぷり! 「グレイブ・エンカウンターズ」のような、時空すらも捻じ曲げるエクストリームすぎる怨念の大暴れが凄すぎて、後半は面白さが恐怖を上回り、観ている間ずっと笑っていた。感情をメチャクチャに揺さぶってくるパワーたっぷりの仕上がり。一発目のスタートダッシュに相応しいエピソードである。
その勢いに続くのが第2話「サーファーの死」だ。海に遊びに来た若者たちがサーフィンを楽しむが、そのうちの1人が溺死する。その死体はあまりに異様で……。1話目と打って変わって、最後の方までこれといったことは起きず、不穏な空気感のみで引っ張っていく作り。Jホラーらしいジメっとした感じで進むが、時折「ジョーズ」みたいな、捕食者視点のカメラワークが挟み込まれるのが印象的だ。そしていよいよ訪れるラスト。それまでゆったりしていたので油断していたら、ラストで一気に恐怖度を上げてくる。気を抜いたところにあの造形物を見せられるので死ぬほどビビる。マジで観た日の夜に夢に出た。ラストのインパクトに全力を注いだ超一発オチ型エピソード。最後まで画面に噛り付いて、その恐怖を骨の髄まで味わってほしい。
そしてフィナーレを飾るのが「首無し地蔵」である。前2話は三宅雅之監督が手掛けているが、本作のみ稲川さんが監督を務めており、しかも本人も劇中に登場する。稲川さん自身が手掛けただけあって、全3話の中で最も気合の入った内容となっている。これまでの話は全て(96年当時の)現代劇だったが、このエピソードは明治時代が舞台。極度の貧困の中、少しでも生活費の足しにしたいと反物に目がくらみ、曰く付きの地蔵から前掛けを取ってくるため山道を進む母親を恐怖が襲う、というあらすじだ。本編に入る前に稲川さん本人が登場して場をガンガンに暖めてから、いよいよ本題がスタート!
いや、これはマジで凄いよ。地蔵の前掛けどころか首をもぎ取って持ち帰ろうとする気合の入りまくった母親を演じる中村美恵子さんの鬼気迫る演技と、超本格的な特殊効果&セットのコンボで、悪夢としか言いようのないおぞましい映像が完成した。画面から溢れ出るエネルギーが凄まじい。絶対に怖がらせてやろうという気概があり、それは一部空回りしているところもあるけど、とにかく圧倒される。母親の顔面芸が最大の見どころで、全エピソードを通して全ての怪異よりこの顔が怖い。ラストの、ぶっ壊れすぎて完全発狂したジョーカーみたいになった母親の姿に鳥肌必至。やりすぎなスプラッター演出も相まって強烈に脳裏に焼き付く。稲川さんの別次元の本気が体感できるエピソードだ。とにかく必見、としか言いようがない。
以上が本作「心霊」の内容となる。当時のホラーブームの勢いをひしひしと感じる事が出来る素晴らしい作品だ。予算もかなりかかっている感じで、造形や美術面への力の入り具合も凄まじい。今では中々お目にかかれない貴重な作品なので、OSOREZONEで配信されたこのタイミングをきっかけに、是非鑑賞して頂きたい。ちなみに続編も作られている。稲川さんはもちろん続投。彼曰く「前作は物足りない!もっと本気でやる!!」と更なる気合をブチ込んで臨んでいるので、1作目が気に入った方はこちらも併せておすすめです。
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