不仲の両親、祖父の家で過ごす夏休み 少女の心情みずみずしく描く「夏時間」監督「どんな家族にも痛みや問題がある」
2021年2月27日 09:00
10代少女の視点から家族や友人との関係を描き、2019年の第24回釜山国際映画祭でNETPAC賞など4部門を受賞した「夏時間」が公開された。長編初監督作ながら快挙を成し遂げたユン・ダンビ監督が作品を語った。
中学生のオクジュと弟ドンジュは、父親が事業に失敗したため、大きな庭のある祖父の家に引っ越して来る。しかし、そこに母親の姿はなかった。弟はすぐに新しい環境に馴染むが、オクジュはどこか居心地の悪さを感じる。さらに離婚寸前の叔母までやって来て、ひとつ屋根の下で3世代が暮らすことになる。
最初から家族の物語にしたいと思っていました。私が最もよく知っているのは自分の家族で、それを撮らなければ次に向かえないと思っていました。私は映画を“友”と考えており、友となってくれたような映画をつくりたいと思っていました
最初に書いたシナリオは「パラサイト 半地下の家族」のようなブラックコメディー風だったのですが、スタッフの意見を聴き、本当に描きたい内容なのか、それとも長編を撮るために物語を作り出しているだけなのか考えました。実体験を書いたわけではなく、情緒や感情に基づく私の経験の一部分をシナリオに反映させていきました。祖父の家で暮らしたことも、弟とケンカをしたことも、母と別れて暮らしたこともありませんが、登場人物たちの気持ちを十分理解し、共感できました。
役者に指示を出す時、彼らの心の傷に不用意に触れたくないと考えています。演じる時、役者は過去の記憶を辿らざるを得ないはずですが、監督である私が彼らを追い詰めるのではなく、役者が心を痛めないよう配慮したいと思うからです。撮影に入る前に彼らとたくさん話し合い、役者との距離を縮めてざっくばらんに語り合える間柄になれるよう頻繁に会うようにしました。例えば、電話でおじいさんの訃報を知った時や葬儀場で、オクジュ役のジョンウンさんが泣くシーンでは、彼女に過去の経験を思い起こさせて感情を引き出すのではなく、私自身が過去に経験したことを話すようにしたのです。
訃報を聞くシーンを撮る時はシナリオにも本編にも出てはきませんが、ジョンウンさんが感情移入できるよう叔母さんがオクジュに電話をするセリフを作り、叔母さん役のヒョニョンさんがワンテイクごとにセリフを言ってくれました。スンジュン君に指示を出す時も同様に、「ご飯を美味しそうに食べてほしい」「お姉ちゃんにカバンを取られないようにしてね」など、どう行動してほしいかを話した。そのほうが彼らの演技の助けになると考えたからです。役者の自然な演技を引き出すことに注力し、さらに求めるものがある場合は具体的な行動を話す。私も役者たちと共に成長していくように思っていましたが、ふたりがうまく演じてくれたからこそ実現できたことです。
学生時代は「うちの家族には問題がある」と人に言うのが恥ずかしくて良い面だけを話していましたたが、どんな家族にも痛みや問題を抱えているものであり、それぞれの方法方で傷を癒やしているのだと、成長するにつれ、わかってきました。不完全さが普遍的な姿であっても、それでも愛さずにはいられない家族の関係について語りかったのです。オクジュはつらい経験をしますがそれを乗り越え、家族の不在ではなく共に過ごした思い出を心に刻んで成長してほしいとの願いを込め、そのような物語を描きたいと。なぜなら私自身がかつて同じような思いを抱いていたからです。
賞もありがたいのですが、実は観客の方々との対話から皆さんが「夏時間」を評価し支持してくださっている事が伝わってきて、とても励まされました。賞をいただく度に嬉しさよりも、作品自体がおのずと道を切り開いていくようで、有難くも申し訳なくも思えて感慨深いものがありました。釜山国際映画祭で初めて上映されるまで誰も知らない映画だったのに、観客の方々の力で作品が前進し始めたのです。映画が自ら進むべき道を切り開いていくようで胸が一杯になりました。ロッテルダム国際映画祭で受賞した時は、作品が撮影地である仁川からロッテルダムまで自分の足で歩いてきたかのようで涙が止まりませんでした。
ロッテルダムでポン・ジュノ監督と昼食をご一緒した時、「パラサイト 半地下の家族」が世界の注目を集める中、ポン・ジュノ監督の周りには人だかりができていて、あまりお話しできませんでしたが、中国料理店のターンテーブルに「夏時間」と書いた名刺を載せて回し、監督にお渡ししたところ、ポン・ジュノ監督は笑顔で映画を観ると言ってくださいました。
映画を作る時はいつも、作品が観る人の友になってほしいと願っています。学生時代に孤独を感じた時や行き詰まった時は、いつも映画を見ていました。テストがうまく解けなかった日はハリウッド映画「いまを生きる」のような作品で自分を慰め、孤独感にさいなまれた時には小津安二郎監督の作品に癒やされました。小津監督は生きる時代も国も違う私のことを理解してくれていると感じ、小津監督の作品は良き友となってくれました。観客の方々にとり「夏時間」が、過ぎた日の後悔や自責の念、成長する過程で避けては通れなかった苦しみを包み込み、共有できるような友となれば幸いです。
東京・ユーロスペースほか全国で順次公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
時代は変わった。映画は“タテ”で観る時代。
年に数100本映画を鑑賞する人が、半信半疑で“タテ”で映画を観てみた結果…【意外な傑作、続々】
提供:TikTok Japan
年末年始は“地球滅亡”
【完全無料で大満足の映画体験】ここは、映画を愛する者たちの“安住の地”――
提供:BS12
【推しの子】 The Final Act
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い!
【オススメ“新傑作”】大犯罪者が田舎へ左遷→一般人と犯罪、暴力、やりたい放題…ヤバい爽快!!
提供:Paramount+
外道の歌
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…安心・安全に飽きたらここに来い【テレビでは流せない“猛毒作”】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の伝説的一作
【超重要作】あれもこれも出てくる! 大歓喜、大興奮、大満足、感動すら覚える極上体験!
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
映画を500円で観る裏ワザ
【知らないと損】「2000円は高い」というあなたに…“エグい安くなる神割り引き”、教えます
提供:KDDI
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。