【「ヤクザと家族 The Family」評論】ヤクザ映画の系譜を継承しつつ、「家族」という視点で進化させたネオノワール
2021年1月23日 16:00

「新聞記者」が2019年に大ヒットし、第43回日本アカデミー賞で作品賞含む3冠を獲得するなど各映画賞で高い評価を得て、新世代の注目監督に躍り出た34歳の藤井道人監督。最新作のタイトルはなんと「ヤクザと家族 The Family」で、しかもオリジナル脚本作品である。
そのストレートなタイトルから、往年の“任侠映画”をイメージするかもしれないが、日本のヤクザ映画の系譜を受け継ぎつつも、いい意味でその固定概念を覆してくれる。「新聞記者」のスタッフが再び集結し、「家族」という視点から現代のヤクザを描いて進化させた新世代のスタイリッシュな作品となっているのだ。
見どころのひとつは絶妙なキャスティングだろう。チンピラからヤクザの世界で男を上げていく主人公・山本を演じた綾野剛が放つキレと哀愁、その繊細な表情がこの映画に説得力をもたせている。さらに山本の親分となる柴咲組長を演じた舘ひろしが綾野と新しい化学反応を起こす。いわゆる強面の親分ではなく、義理人情を重んじ、包容力と凄み併せを持った役で、「あぶない刑事」シリーズを見て育った世代としては、その立ち居振る舞いを見ただけでなんとも感慨深い。ヤクザ役は43年ぶりだという。
ヤクザ映画のリアリティは、役者の顔や身体全体から醸し出されるその佇まいも重要なポイントと考えるが、共演の北村有起哉、市原隼人、菅田俊、康すおん、豊原功補、駿河太郎、二宮隆太郎らがそれぞれヤクザ世界で渋い味わいやキレを見せ、新世代の半グレを演じた磯村勇斗が新鮮な存在感を発揮。そして、そんな男たちを見守り、愛ゆえに巻き込まれる女性を寺島しのぶと尾野真千子が演じ、この物語の要となって支えている。
物語は、1999年、2005年、2019年の三つの時代を通して描かれ、世代の異なる舘、綾野、磯村が見事なアンサンブルを奏でる。ヤクザの世界で隆盛を誇った義理人情を重んじる旧世代が、1992年に施行された暴力団対策法、そして経済至上主義の新興勢力の台頭と抗争で次第に追いやられていく。唯一の家族ともいえる親分、組を守るために山本が14年の刑期を終えて2019年に出所すると、2009年に暴力団排除条例が制定されたことも追い打ちとなって組は衰退し、若い世代が時代にあわせて躍動する激変した現実を目の当たりにする。
この映画は新旧の時代を対比させ、「家族とは何か」「いかに生きるか」「失ってはいけないもの」を提起している。エンタテインメント作品でありながら現代の様々な問題をはらんでおり、「変わりゆく時代の中で排除されていく“ヤクザ”」を鋭い視点で描くことで、生きる場所を失った者の人権、今の世の矛盾と不条理を突きつける。
綾野がみせる悲哀を、スタイリッシュな撮影と音楽、美術、衣装、編集、そして常田大希らのmillennium paradeによる主題歌「FAMILIA」が際立たせ、日本のヤクザ映画をネオノワールへと進化させた。
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