聖職者になりすます事件はなぜ起きた? 「聖なる犯罪者」脚本家が明かす3つの理由
2021年1月13日 17:30
過去を偽り聖職者として生きる男の運命を描くポーランド映画「聖なる犯罪者」が、1月15日から公開される。脚本を手掛けたのは、本作のヤン・コマサ監督とタッグを組んだ「ヘイター」も話題になった新鋭マテウシュ・パツェビチュ。20代の若さでありながら、現代に生きる若者の実存を鋭く描き出したパツェビチュに話を聞いた。
信仰深き元受刑者ダニエル(バルトシュ・ビィエレニア)は、刑務所から出所した後に立ち寄った教会で、新任の神父と勘違いされる。やがて、神父として村人達の信頼を勝ち得ていくが、善と悪の境目を超えた衝撃の結末を迎えることになる。
パツェビチュはニュースで実際の事件を知ったといい、「事件があったということだけ聞いて、最初はそれに基づいた物語を書き始めたのですが、一つの事件のことだけを書くとドキュメンタリー調になり、私のスタイルではなくなってしまうので、自分でもアンテナをはって、聞いた事件と似たようなケースも取り入れて書いていきました。いろんな風に解釈ができるので、映画にする価値があると思ったんです」と明かす。
ポーランドでは、ダニエルのように神父になりすますのは珍しいことではないそう。その理由について、パツェビチュは以下のように3つの理由を挙げる。
「毎年こういう事件が起こりますが、神父などはみんなに尊敬される立場なので、居心地良く感じるのが最初のきっかけなのではと思います。もう一つは、ポーランド国内にはカトリックの信者が多いので、偽る人たち自身も熱狂的な信者が多い。なので、周りの人よりも神に近づいた感覚を味わえる。中毒症状に似ているのではないかと思います。3つ目の理由としては、バチカンとか世界中の教会でも同じような事件が起きているのですが、神父たちは警察のように身分証がありません。信者から身分証を見せてと言われるのは失礼なので、そういうこともなりすましが珍しくない理由にあると思います」
分析後に、「今回の映画のダニエルみたいに、刑務所から出てきて居場所がないという理由もあると思います。なりすます彼らの動機が謎に包まれていることも、私は面白いと思います」と、ほかの可能性についても言及する。
実際に起こった事件に基づいてはいるが、「インスピレーションを受けて0から10まで作りました。主人公の性格、自動車の事故も全く別のケースの事故で劇中とは違います」と違いを説明し、しばらく忘れられないような強烈なラストシーンについても「150以上のパターンを思い浮かべていて、どれにするかは決めていませんでした。今回のラストは、監督のヤンのアイデアでした。私はどうかなと思っていたけれど、とりあえず書いてみたらなかなか良くて、手直しを加えてそこに落ち着生きました」と練りに練って生まれたそう。
構想開始から完成まで9年がかかり、「脚本もラストも何回も何回も変えましたし、最終的に書き上げたラストを気に入っているというと100%ではないけれど、良いラストだと思います。(ギリシャ神話の)プロメテウスを思わせる部分があって、なるべくしてなったラストなんだ、完結したなと納得したラストだと思います。完成した映画は通しで20~30回は見ていますが、ラストは恐らく100回見ていると思います。ラストシーンを見てからインタビューに応えることが多いのですが、きついものを書いてしまったなと思います」。
今後は、脚本だけではなく短編作品の監督も手掛けることが決まっているそう。「事実に基づいて、キャピタリズムや愛、セックス、社会的な問題、今移動が困難になっていることなど、さまざまな要素が入った30分の映画になる予定です。コロナウイルスの影響で集まれず、まだ撮影に入れないですが、今年の春くらいには撮影に入れればと思います」と話していた。
「聖なる犯罪者」は1月15日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開。R18+指定。
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