【「蒲田行進曲」評論】「39段の階段落ち」だけにあらず、昭和を濃厚に匂わす愛しき登場人物たちに思い巡らす
2020年11月29日 10:00
言わずと知れた「39段の階段落ち」のくだりは、日本映画史に残る名シーンとして多くの人の心を掴んで離さない。しかし、脚本・つかこうへい、監督・深作欣二が仕掛けた快心の娯楽作「蒲田行進曲」の魅力は、それだけにとどまらない。軸となる銀幕スターの銀四郎(風間杜夫)、大部屋俳優のヤス(平田満)、落ち目の美人女優・小夏(松坂慶子)はもちろんだが、どのキャラクターも実に味わい深い存在感を放っている。
上記3人に焦点を当てながら撮影所の内幕を絡めて描く人情喜劇は、その年の映画賞を総なめにするなど大ヒットを記録したが、そこに至るまでは紆余曲折あった。つかの戯曲を、つか自らが映画用に脚色し、当時の映画界を席巻していた角川春樹によって映画化されるわけだが、最初に企画を持ち込んだ東映からは門前払いを食らう。そのため、タイトルの由来(往年の松竹・蒲田撮影所)である松竹に話が持ち込まれた。
キャストも、当初は銀四郎が松田優作、ヤスが宇崎竜童、小夏が松坂と発表されていた。しかし松田が辞退したため振り出しに戻り、現在の陣容におさまっている。つか門下生である風間と平田にとっては文字通り大抜擢となったが、演劇の熱量を銀幕の世界へ持ち込むことに成功し、ふたりの出世作となった。
現代では死語になりつつある徒弟制度とでもいおうか、傍若無人を絵に描いたように傲慢に振舞うスターの銀四郎と、身の回りの世話をする代わりに仕事を取ってきてもらう大部屋俳優の舎弟分・ヤスの関係を、令和を生きる若者はどう解釈するだろうか。だが、そんな銀四郎は意外と打たれ弱く、憎めない一面を垣間見せる一方で、男気溢れるヤスはひたむきと頑固が紙一重であることを実証するような姿で見る者の関心を誘う。この2人の関係をさらにいびつにするのが、松坂扮する小夏だ。銀四郎の子どもを妊娠しながら、厄介払いのように捨てられ、ヤスとの結婚を命じられる。ツッコミどころを挙げればきりがないが、それ以上に昭和という時代を濃厚に匂い立たせるキャラクターの誰も彼もが、懐かしく愛おしい。
松坂を加えた3人のほか、若き日の蟹江敬三が映画監督役で現場の悲哀をコミカルに体現し、原田大二郎は銀四郎のライバル俳優・橘役でアクセントを加えている。また、劇中劇に登場する役者たちからも目を離すことができない。千葉真一、志穂美悦子、真田広之というスターたちが、ほんの数カットの登場ながら、嬉々とした面持ちでそれぞれの役割に徹していることは、深作組の面目躍如といえるだろう。
そして、「39段の階段落ち」のシーンである。舞台には階段のセットはなかったが、映画では太秦にある東映京都撮影所に高さ約8メートルの階段セットが組まれ、1982年8月13日に撮影が行われている(平田は上から数段だけスタントなしで落ちた)。このシーンに至るまでの各キャラクターの心の移ろいを切り取った描写が、実に見事だ。観る者を裏切るエンディングを含め、活況を呈していた当時の映画界の様子を後世に伝える役割も果たすことができる稀有な作品としても珠玉の逸品といえる。
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