【「異端の鳥」評論】少年の受難と人間の罪をモノクロ映像美で描く、東欧映画の躍進を象徴する画期作
2020年10月13日 20:00

第二次世界大戦下の東欧のどこかで、ひとり放浪を余儀なくされた少年が体験する“地獄めぐり”の物語だ。ユダヤ人迫害や反戦といったテーマも含まれるが、「異端の鳥」においてそれらは背景にとどまる。劇中で前景となるのはあの手この手で繰り返される“普通の人間の罪”であり、彼らの暴力や虐待の対象になりながらも生き抜き成長する少年の姿から、観客は目をそらすことができない。
衝撃的な出来事の数々、子役の印象的な眼差しと名優たちの滋味豊かな演技、35mm白黒フィルムとシネマスコープの画角で時代の空気感さえ表現する端正な映像、手際よい編集により予備知識ゼロでも169分の長尺を一瞬たりとも飽きさせないが、製作の経緯や工夫といった情報に触れておくと一層味わい深い鑑賞になるだろう。原作者のユダヤ系ポーランド人イェジー・コシンスキは、少年期に母国でナチスの迫害を逃れ、戦後に米国へ亡命して1965年に英語小説「ペインテッド・バード」を発表。同書はポーランドを含む社会主義圏で発禁になったが、半世紀近くを経てチェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督が映画化権を獲得した。舞台が実在の東欧の国に限定されることを避けるため、台詞には人工言語のスラヴィック・エスペラント語を使用。監督は町で偶然出会った演技未経験のペトル・コトラールを少年役に抜擢し、撮影に2年を費やして自然な成長をフィルムに収めた。
小説と共通する映画の原題は、中盤のある場面に由来する。少年が出会った鳥売りの男は、籠から一羽の小鳥を取り出し、ペンキを塗って空に放つ。小鳥は上空を舞っていた鳥の群れに合流しようとするが、異なる見かけになっていたため他の鳥たちから攻撃され、無残な姿で墜落する。少年もまた、瞳と髪と肌の色が地域の住民と異なるせいで、いじめ、虐待、暴力の標的になる。外見や思想信仰が違う異物を差別し排除するのは、ナチスドイツの優生政策や戦時下の抑圧のせいだけではなく、いつの時代もどこの国でもあまねく起きている人間の罪であることを、「異端の鳥」は冷徹に突いてくる。
自省を促すそうした批判精神を補強しているのが、正義と悪を相対化する姿勢であり、近年の東欧映画が表現の自由を勝ち取り躍進を遂げていることの表れでもある。ナチスドイツが絶対悪とは描かれず、少年を生かして見逃すドイツ兵もいれば、村で蛮行をはたらくコサック兵もいる。かつてのイノセントな少年もまた、行く先々で理不尽な暴力に耐え、いくつもの死を間近に感じる過程で、純粋な善から変容する。私たちが宿す罪を見据えることでしか、“成長”はなされないのだと、塗られた鳥は鋭い鳴き声で訴えかける。
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