ベネチア映画祭無事終了 コロナ対策が世界の映画祭に新しいアイディアをもたらす好機に
2020年10月4日 12:00
新型コロナウィルスの拡大以降に開催された、初のAランク国際映画祭となったベネチア映画祭が、9月12日に無事終了した。開催直前まで、本当にやる気なのか、やってもほとんどゲストが集まらないのではないか、といった声が囁かれていたが、蓋を明ければ審査員長のケイト・ブランシェットをはじめ、マット・ディロンやキャサリン・ウォーターストーン、ティルダ・スウィントンやペドロ・アルモドバルなど、ハリウッドやヨーロッパ各国からの映画人が集まり、それなりに華やかな装いとなった。
もちろん、「スパイの妻」の黒沢清監督組のように、遠方の地から訪れたくも叶わなかった関係者も少なくなかっただろう。だが、そんな彼らもオンラインによる記者会見に応じることで、熱意を伝えてくれた。実際今回のベネチアで一番感じたのは、映画祭を祝い、映画産業を支えようとする人々の映画愛だ。オープニングセレモニーでは、カンヌやベルリンなど6つの映画祭のディレクターが集合して、結束を誓い合う場面も見られた。現在の困難な状況のなかでみんなが同じ希望を抱き、同じ目的に向かって一致団結している、そんなこれまでにないムードが漂っていた。
地元の警察と提携した、主催者側のコロナ対策に対する気合いの入り方も見事だった。映画祭エリアにはゲートがもうけられ、毎回体温チェックがなされた。マスク着用も義務付けられ、上映中も係員が見回った。こうした体制のなかでもしかし、どこかのんびりと楽観的なムードが漂っていたのは、リド島という地の利かもしれない。海に囲まれ、空き地が多くビルもない、もともと人口密度の低い避暑地ゆえに、風通しも良く密閉感がないのだ。さらにレッドカーペットは見物人が集まるのを防ぐために壁で仕切られたため、セレブのサインを求めるファンが集うこともなかった。
ジャーナリストによるインタビューは、大テーブルを囲んでソーシャル・ディスタンスを取りながらマスク着用で行われた。ゲストの中には参加者の了解をとってマスクを外して応じる人もいたが、お互い初めての体験ゆえにマスクがジョークのネタになったりと、逆にリラックスしたムードで取材ができた印象がある。
一方、スタジオ側の配慮で、ゲストがベネチアに居ながらオンライン取材をおこなったチームもある。このあたりはチームごとの判断に従うのみだが、映画をプロモートしたいという熱意があることに変わりはない。
こうしたベネチアの成功は、今後の映画祭関係者を多いに勇気づけるものになったことは間違いないだろう。とはいえ難しいのは、すべての映画祭を同じ要領でやればいいというものでもないことだ。会場の立地条件や地元の環境によっても異なってくる。ベネチアに続いて開催されたサン・セバスチャン映画祭では、若干異なるプロトコルが敷かれた。たとえば各上映の合間に1時間から1時間半もの換気時間を設けるなど、風通しを考慮した会場整備の規定を厳しくする一方、入場者の体温チェックはせず、どの国のゲストにも事前のPCR検査は要請しなかった。こう聞くと緩そうだという印象があるが、200ページにわたるコロナ対策のガイドラインを作り、実施したという。
もっとも、ゲストのひとりだったフランス人監督ウジェーヌ・グリーンが、自作の上映中にマスクをきちんと着用せず、5回の注意を無視し続けたため退場させられ、映画祭ゲストの資格を剥奪させられるという事件も起きた。コロナの脅威の前では、当然のことながら誰もが平等で、規定に従わなければならないという見本になってしまった。
ヨーロッパでは秋から冬にかけて映画祭シーズンが続き、すでにフィジカルに開催を決めているところが少なくない。その一方、イギリス、スペイン、フランスなどは感染者が再び増えており、異国間の「キャランテーヌ」(※隔離期間を意味する。国によって異なるもののほぼ14日間)が設定されているところもある。そのせいで、ゲストが各映画祭を回る、という通常のやり方が難しくなっているのが現状だ。
ただ、見方を変えればこうした状況は、これまでライバル意識ばかり募らせていた各映画祭が横の繋がりを強め、新しいアイディアをもたらす好機とも言えるわけで、今後はより柔軟でポジティブな姿勢が求められていくことになるだろう。(佐藤久理子)
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
ホワイトバード はじまりのワンダー NEW
いじめで退学になった少年。6年後、何をしてる――?【ラスト5分、確実に泣く“珠玉の感動作”】
提供:キノフィルムズ
映画料金が500円になるヤバい裏ワザ NEW
【12月“めちゃ観たい”映画が公開しすぎ問題】全部観たら破産確定→ヤバい安くなる裏ワザ伝授します
提供:KDDI
【推しの子】 The Final Act
【社会現象、進行中】鬼滅の刃、地面師たちに匹敵する“歴史的人気作”…今こそ目撃せよ。
提供:東映
モアナと伝説の海2
【「モアナの音楽が歴代No.1」の“私”が観たら…】最高を更新する“神曲”ぞろいで超刺さった!
提供:ディズニー
失神者続出の超過激ホラー
【どれくらいヤバいか観てみた】「ムリだよ(真顔)」「超楽しい(笑顔)」感想真っ二つだった話
提供:プルーク、エクストリームフィルム
食らってほしい、オススメの衝撃作
“犯罪が起きない町”だったのに…殺人事件が起きた…人間の闇が明らかになる、まさかの展開に驚愕必至
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
文豪・田山花袋が明治40年に発表した代表作で、日本の私小説の出発点とも言われる「蒲団」を原案に描いた人間ドラマ。物語の舞台を明治から現代の令和に、主人公を小説家から脚本家に置き換えて映画化した。 仕事への情熱を失い、妻のまどかとの関係も冷え切っていた脚本家の竹中時雄は、彼の作品のファンで脚本家を目指しているという若い女性・横山芳美に弟子入りを懇願され、彼女と師弟関係を結ぶ。一緒に仕事をするうちに芳美に物書きとしてのセンスを認め、同時に彼女に対して恋愛感情を抱くようになる時雄。芳美とともにいることで自身も納得する文章が書けるようになり、公私ともに充実していくが、芳美の恋人が上京してくるという話を聞き、嫉妬心と焦燥感に駆られる。 監督は「テイクオーバーゾーン」の山嵜晋平、脚本は「戦争と一人の女」「花腐し」などで共同脚本を手がけた中野太。主人公の時雄役を斉藤陽一郎が務め、芳子役は「ベイビーわるきゅーれ」の秋谷百音、まどか役は片岡礼子がそれぞれ演じた。