【「エクソシスト」評論】いまだ色褪せない魅力を放つホラー映画の到達点
2020年9月5日 23:00

[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(https://eiga.com/alltime-best/)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論をお届けいたします。今回は「エクソシスト」です。
1974年7月に公開された「エクソシスト」は前評判通りの大ヒットとなり、年間興行成績の首位を獲得。当時の日本はベストセラー「ノストラダムスの大予言」「日本沈没」の映像化によるパニック映画ブーム、ユリ・ゲラーのスプーン曲げがきっかけの超能力ブーム、中岡俊哉著「恐怖の心霊写真集」やTV「あなたの知らない世界」から始まる心霊ブームがほぼ同時に発生。そこに、オイルショックによる高度成長の終焉と、トイレットペーパー騒動や狂乱物価、さらには年300回を超える光化学スモッグ発生に見られる公害の影響が重なる。第二次ベビーブームの真っ只中、それらが引き起こす深刻な世相不安が「エクソシスト」のヒットと一大オカルトブームを大きく牽引したと言えよう。
本作は米公開時から「衝撃の実話」「関係者が次々と死亡」「原因不明の火災でセットが焼失」「観客に失神者続出」というショッキングな報道がなされた。少女リーガンに取り憑いた悪魔パズズと、メリン神父とカラス神父の命がけの悪魔祓いを描いた本作は、ドキュメンタリー出身のフリードキン監督でなければ出せない迫力に満ちている。実際、リアルを追求するために、監督は際どい手法を取っている。
カラス神父役のジェイソン・ミラーから驚愕の表情を引き出すために突然空砲を発砲する、リーガンの緑の吐瀉物を予告なしに顔面にかける(豆のポタージュとのこと)、ダイアー神父演じるウィリアム・オマリーに本番直前にビンタをして、悲嘆にくれるシーンを撮影、ベットで激しく揺さぶられるシーンではリンダ・ブレアは腰と背中に深いダメージを負った、リンダは有名な「スパイダー・ウォーク」でも背中を痛めたが、このシーンはカットされた(ディレクターズ・カット版で復活)、対決シーンでは息が白く見えるようにセットをマイナス40度に冷却、霜がおりるなか俳優には通常の衣装で演技させた、等々。
スタッフ・キャストの奮闘もあり、過激なショック描写と信仰というテーマで「エクソシスト」は73年賞レースの目玉に。ゴールデングローブでは7部門にノミネートされ、作品、監督、脚本、助演(リンダ・ブレア)の4部門を独占。本命オスカーでは「スティング」とともに作品、監督など最多主要10部門にノミネート(受賞は脚色賞と音響賞)。作品賞にノミネートされたホラー映画は「エクソシスト」が初、それ以降は2017年の「ゲット・アウト」まで現れなかった。
イタリア最大のエクソシストで知られる神父がお墨付きを与えるほど、この作品は「悪魔祓い」を真実として取り上げた画期的な映画だった。作中、精神科医の立場で科学的な解決を試みるカラス神父は、次々に襲いかかる超常現象を前に苦悩する。善と悪、神と悪魔は表裏一体であることを知ったカラスは、最後に信仰を取り戻し、命がけの決断で少女を救う。その結末は驚きと共に深い感動を呼び、半世紀経った今も色あせない魅力を放つ。オカルト映画、キワモノという枕詞はあるものの、高い完成度を誇る人間ドラマとして、この機会にぜひ鑑賞して頂きたい。
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