【「時計じかけのオレンジ」評論】バイオレンス映画の概念を変えたキューブリックの代表作
2020年7月18日 22:00
[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(https://eiga.com/alltime-best/)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論をお届けいたします。今回は「時計じかけのオレンジ」です。
SF、モダンホラー、風刺ドラマ、歴史劇、戦争映画…。生涯13本の長編を残したスタンリー・キューブリックは、同じジャンル、同じスタイルの作品を決して作らなかった。「2001年宇宙の旅」が公開され若年層に大ブームを生み出したあと、当時流行していたアメリカン・ニューシネマの系譜における決定版としてキューブリックが着手したのが、アンソニー・バージェスの原作によるディストピア小説「時計じかけのオレンジ」だった。
キューブリックの前に、この原作の映画化権を持っていたのはあのミック・ジャガー。彼はローリング・ストーンズのメンバーと共に主演することを希望、映画会社も賛同していたが、キューブリックはこの案を却下。主役のアレックスには「if もしも‥‥」(註:正式表記はピリオド4つです)の新鋭マルコム・マクダウェルの起用に踏み切った。
結論から言うと、このキャスティングは最高の結果を生んだ。監督の期待に応えようとしたマクダウェルは、原作に登場する架空のスラング、ナッドサット言葉をマスターし、まぶたを強制的に開けさせられるシーンでは角膜に深い傷を負い、拷問シーンでは家畜用の水桶に本当に窒息する寸前まで漬けられ、男に踏みつけにされるシーンでは肋骨を折ったりと、満身創痍になりながらも、まさにアレックスになりきって撮影をやり遂げた。この演技が彼のその後のキャリアを決定づける、良い意味でも悪い意味でも。
公開当初はX指定を受ける程の過激な内容だったにも関わらず、若年層を中心に大ヒットを記録したが、その直後から映画を真似た事件が発生。キューブリックの自宅に殺人予告が届く事態になり、そのことを憂慮した監督は英国での上映禁止を宣言した。それは26年後の2000年まで続くことになる。マクダウェルのもとには数多くの仕事が舞い込んだが、アレックスのような役ばかりで、その状態はしばらく続いた。
社会に大きな影響を与えた本作は、映画史上初めて暴力とユーモアの共存を描くことに成功する作品となった。観る者は戸惑いながらも笑い声を上げ、自分の中にある衝動を自覚させられる。社会と個人、権力と自由、差別と人権、暴力と性など、製作から半世紀を経た今でも、この映画から受け取れるものは多い。監督の名前か映画のタイトル、どちらかに聞き覚えがあれば、すぐにでも観て欲しい、映画史に残る傑作だ。
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド
【本作は観るべきか、否か?】独自調査で判明、新「アベンジャーズ」と関係するかもしれない6の事件
提供:ディズニー
セプテンバー5
【“史上最悪”の事件を、全世界に生放送】こんな映像、観ていいのか…!? 不適切報道では…?衝撃実話
提供:東和ピクチャーズ
ザ・ルーム・ネクスト・ドア
【私が“死ぬとき”を、見届けて】あなたならどうする――? 魂に効く珠玉の衝撃作
提供:ワーナー・ブラザース映画
君の忘れ方
【結婚間近の恋人が、事故で死んだ】大切な人を失った悲しみと、どう向き合えばいいのか?
提供:ラビットハウス
海の沈黙
【命を燃やす“狂気めいた演技”に、言葉を失う】鬼気迫る、直視できない壮絶さに、我を忘れる
提供:JCOM株式会社
サンセット・サンライズ
【面白さハンパねえ!】菅田将暉×岸善幸監督×宮藤官九郎! 抱腹絶倒、空腹爆裂の激推し作!
提供:ワーナー・ブラザース映画
激しく、心を揺さぶる超良作
【開始20分で“涙腺決壊”】脳がバグる映像美、極限の臨場感にド肝を抜かれた
提供:ディズニー