新型コロナ予言ドラマ、現実と酷似で主演女優が「私のセリフを盗んだ?」
2020年7月18日 12:00
[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスのパンデミックを予言したと話題になったカナダ発のテレビシリーズ「アウトブレイク 感染拡大」に主演したフランス系カナダ人女優ジュリー・ルブレトンが、映画.comのビデオ通話取材に応じた。新型コロナウイルス感染拡大に起因する人種差別や感染者差別、偏見(現実ではチャイナ・ウイルス、劇中ではイヌイット・ウイルスと呼ばれた)、暴力、身勝手な行動によるクラスターの発生、無症状患者の存在、医療崩壊、衛生用品の転売など、現実世界の現状と酷似する要素を含む今作について語った。(取材・文/編集部)
ドラマの舞台はカナダ・ケベック州モントリオール。危険な未知のウイルスがイヌイットのホームレスたちのあいだで広がりを見せていた。感染症のスペシャリストであり、緊急衛生研究所所長のアンヌ=マリー・ルクレール博士(ルブレトン)は、未知のウイルスの存在に気が付き、その正体を掴もうと奔走する。感染者や死者が州全土に増えてゆくなかで、そのウイルスが感染力と致死率が極めて高い新型のコロナウイルスであることが判明する。撮影は2019年8~11月に行われ、カナダでは2020年1~3月に放送された。
「こんなことはありえない」とスタッフやキャストと連絡を取り合いました。恐怖を感じたほどです。それと同時に興味深かったですね。ドラマの内容が現実に非常に近い描写になったので、脚本家たちや私たちがいい仕事をできていたと証明されたような気持ちでした。そして、それは同時に残念なことでした。現実ではドラマのようになってほしくなかったからです。
もちろん、脚本家たちが入念なリサーチをしていたことは知っていました。しかし、医学的なことではなく人間的な部分までもドラマと同じようになってしまうとは……。医療用マスクやハンドサニタイザーの不足もそうです。初めのころは、1本4ドル程度のハンドサニタイザーを700ドルで転売するような人たちがいました。狂気の沙汰です。この状況を利用しようとする人たちは、ただただおぞましいとしか言えません。そんなことでお金を儲けたい人がいるということが、残念でなりませんでした。日本ではトイレットペーパーも不足したと聞いています。
何か悪いことが起こったときに、もっとも弱い立場にある人たちがもっともひどい目に遭ってしまうことがよくあります。それがドラマ内ではイヌイットのホームレスのコミュニティであり、現実世界では貧しい生活をしているご高齢の方々でした。これは、私たちが社会のなかで助け合い、弱い立場にある人たちをケアすることがいかに重要であるかを示しています。
恐怖は最大の敵であり、教育と情報は最大の味方です。ドラマでも現実でも、人々は恐怖と偏見を持つべきではないと何度も証明してきましたが、残念ながらこのような感情は人間の一部として存在していて、ときにほかの感情に勝ってしまうのです。このドラマで私が経験したように、人々が現実世界で弱い立場にある人たちを大切にし、自分自身を教育し続けることを心から願っています。これが、私がこのドラマから学んだことです。
もっとも重大なのは、注意不足の人々やルールを守らない人々のせいで、罪のない人々が亡くなっていることです。数カ月間、規制された生活を送らなければならないかもしれませんが、一生このままというわけではありません。私たちには、これから自由な社会で生きるチャンスがあるのですから。人は、ときに他者への思いやりを持てなかったり、非常に自分勝手になれてしまいます。自分は調子がよくて、弱者ではないからルールを遵守しなくていいという感覚の人には、悲しいのと同時に心底腹が立ちます。もし1年間ずっと社会的距離を保ち、マスクを着用しなくてはならなかったとしても、それは世界の終わりではありません。それで何千人もの命が救われるかもしれないのです。ドラマでは、人々は自分のことばかり考えています。もっと大局的に物事を見るべきです。
本当に不思議な気持ちでした。「私のセリフを盗んだの?」と思うくらい(笑)。奇妙なほどだったので、脚本家たちに「あなたたちの言う通りだった。医者や研究者たちがテレビの記者会見でまったく同じことを言っているわ」とメールしたほどです。社会的距離、手を洗うこと、対策ルールに従うといったことですね。
家族や友人たちは、最初は「ワオ、これは良い番組だね」という感じでした。(ドラマ自体が)とても魅力的だし、私たちもキャラクターやその多様性が気に入っています。その後、現実に新型コロナウイルスが発見されて、視聴者の皆さんは「奇妙すぎる」と感じていたようです。あまりにも現実に似通っていたため、苦痛で視聴を止めた人もいました。一方で、何が起こるのか知りたいともっと夢中になっていく人もいましたね。
以前は適度に意識する程度でしたが、いまは非常に意識するようになりました。アジアの文化では、家に入るときに靴を脱ぎますよね。考えてみればそれはごく基本的なことで、地下鉄に乗った靴で家にあがるなんてすごく不潔です。手洗いも同じで、なぜ小さい子どもには手を洗わせるのに、大人は洗わないのか不思議です。このような基本的なことは、私たちの生活習慣の一部であるべきだと思います。
それでも言わなくちゃいけませんよね(苦笑)。このドラマが実際のパンデミックの直前に放送されたのは、教育的な意味でも良かったと思っています。ドラマを見て正しい手洗いを学び、自分を守ることの重要性、屋内に入るときに靴を脱ぐ重要性も知れたと思います。正しい手洗いの方法を確認したくてドラマを見直したという人までいたほどです。
やっと医者になるという夢を生きることができて、とても楽しかったです。あの激しさ、強さが大好きです。毎日が生死に関わる状況なんですよね。感情を脇に置いて仕事をしなければならないし、誰かの人生に影響を与えるような咄嗟の決断をするために、プロフェッショナルでいなければならない。とても楽しかったです。
俳優という職業の面白さはそこにあります。人々がどのように人生を歩んでいるのか、様々な状況下でどのように進化していくのか、自分自身と向き合って多くを学ぶことができます。私にとって、アンヌ=マリーを演じることはとても勉強になりました。彼女はとても合理的でプロフェッショナルで、常に他人の安全を第一に考えています。それでも、とても生き生きとしています。また、彼女はドラマ内で別れを経験しますが、それは置いておいて、するべき仕事をするのです。続編で新たな状況下に置かれた彼女を演じることを楽しみにしています。
彼女には何かとても複雑なものがあって、そんなところが大好きです。たくさんの面を持っているキャラクターを演じるのは、俳優として嬉しいことですしね。どのシーンでも、新しい何かに変調することができるんです。それに、彼女は周りでどんなことが起こっていようと、常にとても集中しています。
アンヌ=マリーの立場に立ってみると、(夫の不倫相手である)クロエが彼女と仲良くなろうとするシーンなんかは、興味深かったですね。そんなの最低な状況ですよね。私だったら、アンヌ=マリーとはまったく違う反応をしたでしょう。感情が爆発すると思います(笑)。でもアンヌ=マリーはそういう感情を決して表に出さない。そのおかげで、彼女は仕事において非常に優秀なのです。プレッシャーをかけられても、政治的な問題に巻き込まれても、科学的な考え方で命を救うことに集中しています。だからこそ困難を乗り越えられる。私もそういう性分の彼女を演じることに集中しました。とてもやりがいを感じましたね。
モントリオールはアメリカとの国境まで1時間ほどしか離れていません。国境が閉鎖されているとはいえ、アメリカの新型コロナウイルスに対する対応には強い恐怖を感じています。モントリオールでは、土曜日(現地時間7月18日)から公共の場でのマスク着用が義務化されるのですが、みんな嫌だと訴えています。息ができないじゃないかって。だから、(ビデオ通話越しの)あなたの写真を撮ってSNSに投稿しようと思います。「ほら見て、この人はマスクを着けているけれど息ができているよ!」って(笑)。
みんなが子どものように振舞っているんです。数カ月間自由を奪われて閉じ込められていたので、規制が緩和されたらこぞってパーティを開いたり、バーに出かけたりして、また感染が拡大したのです。無責任な行動をとる人々を目の当たりにすると、怒りに震えます。このまま秋になれば、新型コロナウイルスと一緒にインフルエンザにかかってしまう可能性だってある。こんな状況なので、終息まではドラマよりもっと長い時間がかかりそうですね。
「アウトブレイク 感染拡大」(全10話)は、Amazon Prime Video、DMM.com、FODプレミアムなどで配信中。シーズン2は、2021年に撮影される予定。