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三島由紀夫の理想の日本とは ドキュメンタリー「三島由紀夫VS東大全共闘」平野啓一郎氏、豊島圭介監督が会見

2020年3月18日 15:15

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平野啓一郎氏(左)と豊島圭介監督
平野啓一郎氏(左)と豊島圭介監督

[映画.com ニュース]1969年5月13日に行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘学生の討論会の様子を切り取ったドキュメンタリー映画「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」の会見が3月17日、日本外国特派員協会であり、豊島圭介監督と作家の平野啓一郎氏が外国人記者からの質問に答えた。

2019年にTBSで発見されたフィルム原盤の映像をリストアし、当時を知る芥正彦(東大全共闘)、木村修(東大全共闘)、橋爪大三郎(東大全共闘)、篠原裕(楯の会1期生)、宮澤章友(楯の会1期生)、原昭弘(楯の会1期生)、椎根和(平凡パンチ編集者)、清水寛(新潮社カメラマン)、小川邦雄(TBS記者)といった関係者(肩書は当時のもの)や識者にインタビューし、討論会の全貌を明らかにする。

本作プロデューサー・刀根鉄太氏の同級生だったことから、この企画に参加することになったという豊島監督は「普段ホラーやコメディなどジャンル映画を作っている身なので、この話が来ていちばん驚いたのは僕自身。討論会を50年後の今から見つめるということで、当時を知らない僕のような人間が監督するのも良いと思った」と告白。発掘された映像を見て「我々が持つ三島由紀夫のイメージは、70年に市ヶ谷の自衛隊駐屯地で盾の会の制服を着て割腹自殺した小説家。そういった奇妙な小説家というイメージとは全く違う生き生きしたイメージがこの討論会の映像にあり、僕の持っていたイメージが180度覆された」と映像から受けた驚きとともに、「評伝や研究書を読むと、三島の死の謎をテーマにしたものが多かった。僕は70年生まれで、その死を肌で感じていない世代。三島の死は何なのかということではなく、どう生きたのかということにフォーカスしたいと思った」と作品のテーマを語った。

一方で、三島作品に造詣が深く、本作にも出演する平野氏は「14歳からずっと三島作品読んできました。三島の肉声がCD化されていたり、今回の対談も文字化されていて、それらを随分早くに読んで評論の中で引用もしています。また、生前の三島と親しかった横尾忠則さん、瀬戸内寂聴さん、美輪明宏さんらから直接その人となりを聞く機会があり、皆さん口をそろえて、三島を魅力的な人だったと言う。そういう僕の知っていたイメージと僕にとっては齟齬のない映像の中の三島由紀夫だった」と映画の感想を述べた。

三島が天皇の名の下に日本を改めようとしていたことについて、どう考えるか?との問いに、平野氏は「非常に難しい質問です」と切り出し、「三島は日本の戦後社会をほとんど全否定し、非常に厳しく批判しています。その点が今の日本の保守層が『日本がすごい』と言うのと全く異なり、自由民主党のことも否定的に語っている。日本を否定する時に、どういう理想の日本を語るかというときに、彼の中にあった理想的な日本というのは戦前に彼が教育を受けた天皇を中心とした日本が、理想的な、あるべき日本の姿として存在していました。三島は戦後しばらくの間は、戦中の天皇中心としたものから自分を切断し、戦後社会に適応しようとしていました。メディアの寵児になり、小説家としても時代の寵児となり何とか生きようとしていたが、どうしても戦後社会に違和感を覚えていた。特に彼は、戦後の民主主義社会に適応するのではなく、どちらかというと戦後日本の大衆消費社会に適応しようとした。メディアに出たり、ボディビルをやったり、歌を歌ったり。30代半ばまでは努力して適応しようとしたが、だんだん嫌気が差してきて耐えられなくなってくる」と説明。そして、「そういう中で、本来あるべき日本のイメージとして、第2次大戦の頃までにあった、天皇の名において文化的に長い歴史を持つ日本に立ち返るべきではないかと主張したと理解しています」と持論を述べた。

その回答に、豊島監督は「映画の中で三島由紀夫さんが、全共闘に向けて言った『一言、天皇と言ってくれさえすれば共闘するだろう』。その意味を知りたくて、いろんな方にインタビューをしました。平成になって、天皇は象徴として慰霊の旅をするようになり、かつ護憲の側に回った行動をするようになった。つまり、今や左翼の人のほうが天皇を擁護するような立場になった。今、三島由紀夫さんがその状況をみていたら、どう思うかということに興味がある」と付け加えた。

当時の全共闘の活動は暴力的な行為でも知られるが、映像の中での学生たちと三島は互いを尊重し、建設的な会話がなされている。今現在このような対話が可能か? という質問に、平野氏は「いろんな場があるので一概に可能か不可能かとは言えませんが」と前置きし、「僕は今、この映画の三島とほぼ同い年、今大学生と向かって話すとなると、やっぱり対等と言いながらも大学生と話すという気持ちで話すと思いますし、三島の態度もやっぱり同じ立場の政治的な論敵と話すというよりも、どこかで大学生と話すという対応だったと思います。一方、大学生の方も、挑発的に議論を吹っかけますが、有名作家が来たという意識があったので、それが討論を比較的紳士的な形で進めたのかと思います」と分析。

「今日インターネット上では、立場の異なる人びとが集まって、お互いの議論が不可能になっているということはよく言われますが、場所の設定さえ作れば、今でも十分に実りのある議論は可能だと思う。どういう状況を作るかということにかかっている気がします」と見解を述べた。

豊島監督は「三島由紀夫は会場で『言葉の有効性を確かめに来たのである』と言いますが、それがこの討論で実現される様が映っていると思った。名乗りあった者同士が、同じ壇上にたって、相手の体温を感じるような距離感で、言葉を丁寧に交換するさまが当時フィルムに映っている。このことが僕も含め、今日の観客へのインパクトを持っていると思います」とこのタイミングで本作が世に出る意味を語った。

またこの日、当日駒場の900番教室にいたという日本の全国紙の記者も会見に出席。「1000人の全共闘を相手に討論をやったと言われていますが、それは実体と違っています。討論したのは全共闘の学生ですが、会場のほとんどは民生系ではない普通の学生だったと記憶しています」と壇上の監督に伝え、「私は普通の学生として、全共闘がなぜ、三島氏に言いたい放題の一方的なパフォーマンスの場を与えたのかと感じていました。会場は映画にあるようにみんな熱心に聴いて緊張感のある場でした」と当時を振り返っていた。

三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」は、3月20日から全国で公開される。

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