「湘南純愛組!」総監督&プロデューサーに聞く、配信ドラマを選択した意図

2020年3月4日 12:00


主演の寛一郎と金子大地
主演の寛一郎と金子大地

[映画.com ニュース] 藤沢とおる氏の青春ヤンキー漫画を実写ドラマ化した「湘南純愛組!」が、Amazon Prime Videoで配信中だ。映画.comでは、同作で総監督を務めている内田英治氏、プロデューサーの森谷雄氏に制作にいたった経緯、映画ではなく配信を選んだ意図についてなど、話を聞いた。

GTO」のエピソードゼロとして人気を博した同名原作は、累計発行部数4500万部を誇り、鬼塚英吉と弾間龍二の湘南最強コンビ「鬼爆」の高校時代を描いている。寛一郎が鬼塚、金子大地が弾間に扮しているほか、柳ゆり菜吉田志織山谷花純森田望智、ゆうたろう、吉村界人ら若手俳優陣が水を得た魚のような躍動感で作品の世界を生きている。

今作の総監督・内田氏は、Netflixの大ヒット作「全裸監督」の監督・脚本を手掛けており、今秋には草なぎ剛が主演する映画「ミッドナイトスワン」の公開が控えている。一方の森谷氏は、「沙粧妙子―最後の事件―」「天体観測」「東京湾景」など、フジテレビ黄金期のドラマを数多くプロデュース。今作と同じAmazon Prime Videoで配信される「東京ラブストーリー」でも、プロデューサーとして作品を支えている。

内田英治総監督(左)と森谷雄プロデューサー
内田英治総監督(左)と森谷雄プロデューサー

森谷「『湘南純愛組!』は内田さんのところに企画があって、『こういう企画があるんだけど実現させるためにプロデューサーとして入ってほしい』とお話をいただいたんです」

内田「開発に3年くらいかかって、アマゾンに着地したという感じです。映画ではやるイメージがなかったんですよ。かといって、地上波でやるとも思えないですし、着地するところに着地したと思います」

森谷「以前から映画監督と配信系は相性がいいだろうなとは思っていたんですよ。見たいものをチョイスするスキームのなかで、作品性が浮きだって、こっちに迫ってくるくらいの個性が伝わってこないと『見よう』とはならないじゃないですか。内田さんが『全裸監督』で実証してみせましたが、こういう人たちが作るべきなんだという絶対的なものが生まれましたよね。そんな内田さんと、僕の好みとは真逆のヤンキーものをやるという(笑)。自分の中に全くない要素のものだからこそ、相談を受けたときは面白いと感じました」

内田「僕らみたいなインディーズ出身の監督が、地上波と合うわけがない。そもそも話が来ないだろうけど、好きなことができそうにないし大変そう。映画とはまた別の考え方で、配信は配信で突き詰めて面白いものを作っていける。ただ、『湘南純愛組!』は一瞬迷ったんですよ。(知名度の高い作品を手がけることで)魂を売ったとか思われるんじゃないかと。情報がオープンになってみたら、『内田が漫画原作をやるの?』みたいな感じも全然ない。親和性があるんだなと思いましたね」

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「湘南純愛組!」は、不良の巣窟・極東高校で暴れていた鬼爆コンビが一目惚れした女性のためにヤンキー生活から足を洗うことを決意するが、行く手に次々と強敵が立ちはだかる。90年代のヤンキーカルチャーを背景にしたケンカと友情、禁断の恋をめぐる物語が、当時を再現したバイクや衣装、アクションを交えながら描いている。冒頭でも触れているが、進境著しい若手俳優たちがしのぎを削っていることを、内田氏と森谷氏は痛快そうに語る。

内田「キャストは9割が無名ですよ。ただ、やっていることは地上波よりもちゃんとしている。それって最高じゃないですか。有名人が出てくれないから、そこに無名を突っ込める。だから、キャスティングはめっちゃ楽しかったですよ。『全裸監督』で感じたのは、面白ければ有名人をそろえなくても皆さん見てくれる。この配信系の流れ、70年代のピンク映画のときと同じかもしれませんね」

森谷「何年も前にある大物女優に言われたことがあります。『日本だけよ、テレビに出ていなかったらダメだなんて思っている国は。舞台でも、インディーズ界でも、もっと上手い人はいっぱいいるんだから!』って。本当に、その通りですよね。気持ち良いくらい気合入っている、昇り竜みたいな若手がいっぱい。主演の2人でいうと、90年代のナンパなところから硬派なところまでをやれる今の俳優って誰だろう? と考えた時に、寛一郎だ!と。それに金子大地は弾間にはまると思ったんです、色男だし。しかも、互いに絶対に共演してみたいと思っていたらしいんですよ、偶然にも。この2人に決まって、すごく良かったです」

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内田「寛一郎は、鬼塚に顔がそっくりですよ(笑)。今回は、あえて大映ドラマとかを意識してやっているので、映画ではできない効果音や音楽を死ぬほど入れています。だから軽い気持ちで見てくださいね。真剣に見ちゃダメですよ。でも、出来栄えについては40前後の世代からの受けは悪くない。こうなったらヤンキーもの、全部やりたい。『湘南爆走族』と『カメレオン』と『疾風伝説 特攻の拓』! もしちょっとでも『湘南純愛組!』の成績が良かったら、まずは『カメレオン』をやりたいなあ。配信だと、出てくれる女優いるかなあ……」

また、T-BOLANの主題歌はもちろんだが、作品の脇を固めるベテラン陣の充実ぶりからも目を離すことができない。特に、90年代を象徴するような存在である吉田栄作のキャスティングは出色だ。

森谷「T-BOLANといえば、90年代の代表格じゃないですか。それがバンバン流れているし、それだけで楽しいですよ。寛一郎は『まじっすか!』とめちゃめちゃ興奮していた。親世代が聴いていたから知っているんですよね。栄作さんに関しては、内田監督がなんとかしてくれって言うんですよ(笑)。たまたま僕が『もう誰も愛さない』とか何本か一緒に連ドラをやっていたから、取り敢えず話をしに行きました。そうしたら、『やるよ』って! しかも『本当にいいの? ケミカルウォッシュのジーンズはくんだよ?』と聞いても、『やる!』と。僕らはめちゃめちゃテンション上がりましたよ」

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令和の世にあって、ヤンキーはもはや絶滅危惧種かもしれない。若手キャストたちは、実物のヤンキーを見たことがない世代だろう。だが、ヤンキーを題材にした作品は毎年といって良いほど多く誕生している。女性層からは「一体誰が見るの?」という声も聞こえてくる。それでもドラマや映画にする理由を聞いてみた。

内田「若い子たちにはカルチャーがないから、カルチャーがあった時代というものを見せてあげたいんですよ。ヤンキーって、僕はポップカルチャーだと思っている。ビジュアル系バンドみたいなもんで、ひとつのアイコンです。映画で描かれがちなハードコアなヤンキーではなく、ちょっとナンパなヤンキーを再現したいと思った。だから、女性でも楽しく見られるはず。『全裸監督』もそうなんですが、僕は時代を描くのが好き。題材はAVだろうがヤンキーだろうが、なんだっていい。今回は90年代という時代をやりたかった。音楽はもちろんですが、流行ったものとか面白いんですよね。ダブルカセットデッキとか、ナンパ待ちとか(笑)。今回は当時あった、無理やり欧米っぽく作った胡散臭いホテルとか、そこにはこだわりたいんです。クエンティン・タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と同じ楽しみ方をしてもらえたら。そもそもね、出演者たちが『ビー・バップ・ハイスクール』を知らないし、ケンカをしたこともないんですから演出のしようがないですよ(笑)」

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