大沢たかお&賀来賢人が目指した「日本映画ならではのエンタテインメント」 その真意とは?
2020年1月29日 18:00
[映画.com ニュース] 2030年を舞台に、AIを題材に描いた近未来サスペンスが「AI崩壊」だ。全国民の個人情報と健康を管理する医療AIが突然暴走し、生きる価値のない人間を選別して殺りくするという事態が発生。警察からテロリストと断定されたAIの天才開発者(大沢たかお)は逃亡者となる……。ハリウッドなら、トム・クルーズ主演のアクションといった企画だが、大沢が目指したのは、日本映画ならではのエンタテインメントだ。大沢が、義弟役の賀来賢人とともに、その真意を語る。(取材・文/平辻哲也、写真/間庭裕基)
本作は、「22年目の告白 私が殺人犯です」の入江悠監督が詳細なリサーチの末に書き上げたオリジナル脚本。大沢と賀来も、そのスケールに魅了された。「こういう大きな規模のオリジナルは日本ではほぼない。日本映画として、これをどうやったらいいのかなと思いましたね」(大沢)、「想像の余地がすごくある本でした。日本映画というと、すごくリアリティーにあふれ現実的なものが多い中で、字面だけでは分からない世界。しかも、現実に起こりうる世界じゃないですか。早く現場に入りたいと思いました」(賀来)。
ハリウッドで映画化するなら、主役は同世代のクルーズではないか問うと、大沢は「でも残念ながら、ここは日本で、俳優は残念ながら僕」と笑って謙遜する。カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された主演アクションサスペンス「藁の楯 わらのたて」(三池崇史監督)と同様に、目指したのは和製ハリウッド映画ではなく、日本人の観客に向けた、日本ならではのアクションサスペンスだったという。
「見る人は当然、基本的には日本のお客さん。その入り口を大きく間違えてしまうと、ハリウッド風に頑張った日本映画になってしまう。そこは大事なところでした。ハリウッド風の日本映画なら、やらない方がいいと思うんです。日本映画ができるエンタテイメントじゃなきゃいけない。そう思った時に、スーパーヒーロー的な主人公という人物像は外して考えました。たまたま頭が良くて、AIのシステムを開発したというのはあるけれども、それ以外は普通。そんな人間が、トム・クルーズが巻き込まれる大きな出来事に直面したら、どうなるのか? それなら、ハリウッド風の日本映画ではなく、日本映画のエンタテイメント大作になるのかなと考えて、入りました」と明かす。
主人公の天才科学者・桐生浩介は、確かにスーパーヒーローではない。迫りくる敵をなぎ倒すこともない。むしろ必死に逃げる。それは、AIの暴走によって命の危機に瀕した国民、その中心には、AIの間近で囚われ状態となってしまった愛娘がいるからだ。「劇中では走っているだけで、誰とも戦っていない分言えるわけですけど、その姿が必死じゃなきゃいけないと思うんですよね。この人が必死に逃げない限り、面白くない。お客さんが『この人、大丈夫?』と思うような人でなければ、絶対に面白くならない。むしろ、みんなからみっともないと思われても、一生懸命、何とかしようとする人物がいい。アクションは、走るシーンがほとんどだったけれども、それは一貫して考えていました」と大沢。
大沢の走る姿は印象的だ。独特なフォームを見せる。「普段からトレーニングはしているのですが、(劇中での)走り方はかなり意識しています。最初に、ある短距離選手から教わりました。それから、どうしたら必死に走っているように見えるのかをビデオを研究し、崩していきました。最初にきれいなフォームを知ることが大事なことでした」。天才科学者が逃げる動機、描き方も監督、プロデューサーと何度も議論を重ねて、その出口を見つけていった。
そんな桐生の逃亡を陰ながらサポートするのが、AIを管理する会社の代表で、桐生の義弟、西村悟役の賀来だ。「撮影中も、どう仕上がるのだろうというワクワク感が常にあったので、今まで参加した作品とは違う楽しみがありました。(西村は)桐生さんのよりどころ、唯一の味方。『お兄さん』と呼んでいるぐらいですから、その近い距離感や安心感を見せたかった」と振り返る。
2人は本作が初共演。互いの印象はどうだったのか。「大沢さんと出会う前は、寡黙なイメージを持っていましたが、実際にお会いすると、真逆でした。どうコミュニケーションを取るかを考えて緊張していたんですが、大沢さんから積極的に話してくださったので、すごく楽しい現場になり、自然な距離感が出せたんじゃないかと思います。それは僕の中で大きかったです。大沢さんが現場にいらっしゃるときの安心感がすごかったんです。僕は悩みながらやっていると、すごく繊細に対応してくださり、芝居もいろいろ試せたことが嬉しかったです」と賀来。
一方の大沢も「もちろん、(賀来は)かっこよくて、スマートで、それ以上に俳優として高いものを持っていて、そこに誠実に向き合っている人。それは最初から最後まで変わらなかった。常に自分がどうしたらいいのかを考えていて、すごく信頼できる。自分としても、のびのびとさせてもらった」と感謝する。このふたりの掛け合い、絆といった人間ドラマは、近未来サスペンスの肝となっている。
最後に、映画の設定にちなみに、2030年の“未来予想図”について聞いた。「風に立つライオン」などでは企画者として関わりながら、50代俳優としてタイトルロールを張る大沢だが、「10年後は(俳優を)やっているかどうか、ちょっとわかんないですね。そこまではないかもしれないですよ。年々ハードルを上げてしまっているけども、いくらなんでも限界はある。それでも、いい仕事に出合えていることには感謝しています。僕も、賀来君みたいな幸せな人にあやかりたいです」。
一方、賀来は、大沢との現場に刺激を受けたようだ。「最近、一から皆さんと話し合って作るっていうのが、もの作りなんだ、ということを実感しました。現場でも、大沢さんからいろいろお話をうかがい、自分も作品を企画して、ゼロから作るということに興味を持ちました。そんなことが10年以内にできたら楽しいし、僕の人生に後悔がないだろうなと思いました」と真剣なまなざしを見せる。そんな2人がタッグを組む日も再びあるだろう。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。