「映画を文学へ近づけたい」ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督、新作「読まれなかった小説」での試み
2019年12月1日 09:00

第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された、トルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の最新作「読まれなかった小説」が公開された。知人の父子の物語に魅了されたジェイラン監督が、自身の人生も反映させながら完成させた作品で、1冊の本をめぐって繰り広げられる父と息子の軋轢と邂逅を、膨大なセリフと美しい映像で描いた。ジェイラン監督が映画という媒体を用いて文学的表現に挑戦した試みを語った。
本作は、作家であり、私の甥でもある共同脚本のアキン・アクスの自伝的な物語です。彼は本作に俳優としても参加し、シナンが議論をするイマーム(イスラム教の指導者)の1人を演じています。きっかけは、私が幼少期を過ごしたトロイ遺跡近くの海辺の村の別荘に滞在していたときに、私の親戚でもある教師に会ったときのことです。彼はとても個性的な人で、私の父とどこか似ているところがありました。彼は農業技術者で、熱心な読書家でしたが、地元の人々は誰も彼の話に耳を傾けなかった。友人が少なく、とても寂しがっていました。地元の新聞社で働く彼の息子アキン・アクスもまた父親同様に熱心な読者家で、その父子に同じ印象を受けました。アキンは常に控えめで口数の少ない人で、私は彼のことが本当に好きでした。何の本の話をしてもアキンはすべて知っていました。アキンの話を聞くうちに、アキンについての映画を作ろうという考えがどんどん大きくなっていきました。
アキンとは、彼の父親の孤独について語り合いました。そして、父への感情や子供時代の思い出、家族の関係性について描く許可を求めましたが、しばらく何の返事もありませんでした。3カ月後、私は80ページにわたる文章のメールを受け取り、それを読んで感動しました。そこに真実の輪があったのです。彼の物語は何かを差し引くことも、自分を英雄として誇示することもありませんでした。そこで、私は自分の家族についての自伝的なプロジェクトを一旦保留して本作を作ろうと決意し、アキンに脚本の執筆を依頼しました。
始めからほとんどのセリフが書かれていました。これはプロでない俳優には難しい量です。このセリフ量は問題の1つでしたが、私は映画出演経験が浅い俳優アイドゥン・ドウ・デミルコルを主演に選びました。私は彼がコメディ番組に出演している動画をFacebookで見つけ、彼で試したいと思ったのです。オーディションした俳優のなかで彼は一番セリフを暗記していました。オーディションでは即興で演じることもできました。3時間以上の映画で対話のシークエンスを耐えるだけの能力があるのです。私が望んでいるものを正確に理解する、その演技力にも感銘を受けました。それからすぐに脚本を送り、セリフを覚えてもらいました。彼は私が今まで会ったなかで最も賢い俳優だと思います。また、父親役を演じたムラト・ジェムジルはプロの俳優で、彼もまたコメディに精通した人です。
このシーンは本作の中で最長のシーンです。宗教はトルコで暮らす人々の生活において最も重要なもののひとつですが、自身の宗教観を率直に話すのは簡単なことではありません。多くの人は直接的ではなく、メタファーを用いながら話すでしょう。シナンのように作家を目指す若者であれば、すべてのことについて自由に話したいが、それはトルコでは簡単なことではない。だからこそ、私はこのシーンを本作に入れました。
それは、父イドリスではなく、息子シナンの想像の世界です。人生が思うように行かず、夢が果てしなく遠いものに見えるとき、人は現実から目をそらしてしまうことがあるでしょう。夢の世界はそれを象徴しています。
間違いなくそうですね。それは私たちが意図したものです。アートは必ずしもすべての人に好かれるべきではないと思います。制作者は観客に好かれていると感じたら、その好感度を守ろうとする傾向があると思います。観客が期待する映画やアートワークを作り始め、最終的にはリスクの少ない作品を制作する。状況にもよりますが、アーティストは自身の道を貫くべきだと思います。
アキンが書いた短編小説「The Loneliness of the Wild Pear Tree(野生の梨の木の孤独)」を基にしました。野生の梨の木はかなり醜く、非常に苦い実を結ぶ。野生で成長するため、あまり水を必要としません。そして乾燥した土地で成長します。人々が村の近くで野生の梨を見つけたら、地元の人々は普通の梨にするためにそれを移植するでしょう。脚本の中に私がカットしたプロローグがあります。若い頃、父が村で教えていたときに、彼自身の孤独の隠喩として、生徒に梨の木の話をするくだりがありました。それが後に彼の息子の孤独となっていくのです。そしてそれは、田舎の村では珍しく、地元の喫茶店のテーブルにひとりで座っているのを見ている彼の祖父の姿からわかるように、彼の祖父から引き継いだことなのです。
私は写真家だったので、映画という媒体を選ぶのがスムーズだと感じました。私はまず自分が驚き感心した人間の性質について考究するのですが、私の作品はそれについて断言するのではなく、観客に問いを投げかけ、また、ときにはある告白をします。ですが、私が影響を受けたのは、映画ではなく文学。特にチェーホフは私の映画制作に最も大きな影響を与え、私に人生の見方を教えてくれました。彼のすべての小説を何度も読んだほどです。文学はどんなに厚い本になってもいい。自由に長さを決められる。でも映画は90分や100分の制約がある。私は映画を文学へ近づけたいと思っています。
私は、映画が持つ力より文学が持つ力の方がまだ強いのではないかと思っています。例えば、ドストエフスキーの世界観を映画が作れるとはまだ思っていません。映画はあまりにもリアルで、観客の想像力を殺してしまうこともある。なので、映画製作者は、映画をもっと明確に定義したり、あるいは想像の余地を十分に残したりする必要があると思います。観客もまた、「想像」と「創造」のプロセスに関わらなければ、その作品は十分に深い理解をされたとは言えないでしょう。
(C)2018 Zeyno Film, Memento Films Production, RFF International, 2006 Production, Detail Film,Sisters and Brother Mitevski, FilmiVast, Chimney, NBC Film
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