北極に不時着、マイナス30度、吹雪、飢え、絶望……マッツ・ミケルセンが体感した極限世界
2019年11月8日 14:15
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飛行機が墜落し、北極に取り残されてしまった男のサバイバルドラマ「残された者 北の極地」が、11月8日から公開となる。9月に来日した主演のマッツ・ミケルセンに、男がサバイバル状況で見出した“生きる意味”や過酷な撮影秘話、そして国際派俳優として名を馳せる自身のキャリアについて、話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)
第71回カンヌ国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門のミッドナイト・スクリーニングで上映された本作。北極地帯に不時着したパイロット・オヴァガード(ミケルセン)は、壊れた飛行機をシェルター代わりに、日々のルーティンをこなしながら救助を待つ日々を送っていた。しかし、ようやく救助に来たヘリコプターは強風のために墜落し、女性パイロット(マリア・テルマ・サルマドッティ)が大怪我を負ってしまう。瀕死の女性を救うため、オヴァガードは留まることをやめ、危険を承知で現状を脱しようと1歩を踏み出す。
You Tuber出身のジョー・ペナ監督がメガホンをとった長編映画デビュー作。ペナ監督はミケルセンと15分だけSkypeで話す機会を得て、「わずかな時間でも絶対に(出演してくれるよう)説得する」と息巻いていたが、オファーに興味を持ったミケルセンとの会話は、実際には3時間ほどにも及んだという。ミケルセンは、ペナ監督を「最初からラジカルなアプローチというのか、『少額の製作費でも絶対に作品を完成させる』というものすごいエネルギーを持っていた」と絶賛し、「僕にとっても素晴らしいサプライズをはらんだ脚本だった」と述懐。説明的なセリフや映像表現を削除することで、見る者をサバイバル状況に没入させるような体感型の物語に仕上げた作品の魅力を、以下のように紐解く。
「サバイバルを扱った作品のオファーは初めてというわけではないんですが、(多くが)そういう作品にありがちな罠にはまっている傾向があって。罠というのは、記憶やフラッシュバックが出てくること。この作品はそうした罠が一切無いクリーンな物語でありながら、読んでいて他の作品とは違った形でいろんな感情を喚起させられて、『すごく良いなあ』と思いました」
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演じるキャラクターの情報がほとんど示されない中での役づくり。ミケルセンは「バックストーリーは、もちろん自分なりに考えて臨みました。オヴァガードには、恐らく家族はいると思うんですよね。こういう状況になって、家族も彼も非常に辛い思いをして、『会いたい』という気持ちは当然持っていると思います。でも、あえて状況を見せる必要はなく、むしろちょっとしたジェスチャーでそれを感じさせられればと思いました。女性を強く抱きしめすぎている動作、水平線に向けた彼の視線で、感情を伝えたかった」と、独自のアプローチで撮影に挑んだと語る。
ルーティンを守り生活するオヴァガードは、女性の存在により「待つ」ことをやめ、「生きる」ために歩き出す。ミケルセンは心情の変化について、「『Survive』と『Alive』は全く違う」といい、女性が彼にもたらした影響を解説する。
「多くの意味で、彼女は彼を救う存在です。最初に彼1人を映し出すシーンでは、彼はルーティンをこなしているだけなんですよね。そこには希望もなく、未来もなく、夢もない。本当に生存本能だけで存在し、突き動かされている。しかし彼女の登場によって、突然人間性が彼に立ち戻ってくるわけなんです。彼女の存在なくしては、1週間、10年と同じ生活を繰り返して、彼はきっと死んでしまったと思います。だから、彼女は救世主のような存在。彼女が昏睡状態の時に、彼はずっと『大丈夫、1人じゃない』と語りかけていますが、もちろん自分自身に言い聞かせている言葉でもあるわけです」
平均気温マイナス30度という気候、吹雪、飢え、ホッキョクグマ、白い荒野に2人きりの孤独、無線は通じず誰も助けに来ない絶望――。ソリにのせた女性を引っ張り、一歩一歩大地を踏みしめるオヴァガードに、様々な困難が襲いかかる。刻々と変わりゆく天気の下、アイスランドで行われた撮影は、ミケルセンが「これまで経験した中で最も過酷な撮影だった」というほど難易度の高いものだったという。撮影2日前には50年間で最大の降雪が記録された同地で、天候の影響により30日間の予定だった撮影期間は19日に短縮され、脚本やスケジュールも変更を余儀なくされた。苦労が絶えない一方で、極限状態を体感したことによる精神面での発見もあったようだ。
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「自然の中に身を置くだけで、どれほど荒々しい場所なのか、肌で感じた。撮影中に体重も落ちてしまいました。1日15時間、16時間と撮影に臨んでいたわけで、食事の量に見合わないエネルギーを使って、バランスが崩れていたんです。メンタル的には、それほどまでに体力が弱っていると、非常に興味深いことが起こるんです。いろんな物事に対する感情が、皮膚のすぐそこに切迫してくる。本当にちょっとしたことでものすごい悲しくなったり、幸せになったり、奇妙な状態になるんですよね。感情をコントロールするだけのエネルギーが、自分の中に残っていないからだと思います」
「偽りなき者」で第65回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞に輝き、「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」「ドクター・ストレンジ」などのハリウッド大作にも出演し、デンマークを代表する名優としての地位を築いたミケルセン。キャリアをスタートさせた頃の思いを、「自分の大好きな映画の一部に関わりたい。願わくはデンマーク映画に、僕が好きなアメリカ映画的要素を取り込めないか、と思っていた」と振り返る。世界的に有名になり急激な環境の変化があったようで、「役者をやる上で、公園で人間観察をしたいんですけど、その方たちが自分に気付いてしまうので、できなくなってしまった(笑)。だから、顔バレしない国を見つけるしかないんですが、難しくなってきていますね」と笑い交じりに明かす。そして、「役者としての自分を突き動かしてくれるエネルギーは全然落ちなくて、逆に落ちる日を待っている感じ(笑)。すごく幸せです」と締めくくり、今後のキャリアへの変わらぬ情熱をにじませていた。
「残された者 北の極地」は、11月8日から新宿バルト9ほか全国で公開。
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