草なぎ剛の心の底から湧き出た言葉とは? お蔵入りの危機を乗り越えて思うこと

2019年9月7日 09:00

取材に応じた草なぎ剛
取材に応じた草なぎ剛

[映画.com ニュース]  草なぎ剛主演の「台風家族」(市井昌秀監督)が9月6日から3週間限定で公開される。映画は出演者の新井浩文氏が起こした事件によって、当初の6月公開から延期になっていた。銀行で2000万円を強奪したまま行方不明となっていた両親を持つ4人のきょうだいが、財産分与のために集まった夏のある1日の出来事を描く異色のホームドラマ。草なぎは密かに財産を独り占めしようとするクズな長男・小鉄役を演じた。お蔵入りの危機を乗り越え、ようやく公開となった今、草なぎの思いは?(取材・文/平辻哲也、写真/江藤海彦)

今年1月、新井氏が強制性交罪の疑いで逮捕され、一時はお蔵入りの危機もあった同作。騒動の最中、草なぎはどんな気持ちで過ごしていたのか。「スタッフもキャストもそうですけど、責任者の方も迷っていたと思います。でも、誰一人として公開して欲しくないという人はいなかったと思います。いずれはいい方向に進むんじゃないかなと思っていました。どうなるのかと、ずっと気になっていましたね」と複雑な心境を吐露する。公開を望む声はSNSを通して実感していた。「ファンの方々がすごくたくさん声を上げていただき、そういう方の後押しがあって公開にたどり着けました。難しいことはありましたけど、公開できたのは、この映画を楽しみにしてくださっている方の気持ちだけだと思うので、本当に感謝しています」と神妙な表情を浮かべた。

撮影は昨年7月から8月にかけて、気温35度以上の猛暑が続く栃木県栃木市藤岡町などでロケ。記者も7月11日に現地ロケを見学し、草なぎの熱い思いを聞いていた。「めちゃくちゃ暑い中で、本当にもう倒れちゃうんじゃないかなっていう状況でした。そういう人が1人もいなかったのは奇跡的だったと思います。民家を借りきって撮影しましたが、待っている場所もアスファルトの照り返しが強くて、みんな、氷で首を冷やしたり、助け合いながらやっていました。そのおかげで、(共演者と)友情が芽生えて、本当の家族になった感じがしました」と振り返る。

クライマックスシーンは森の中でのロケ。こちらはまったく違う環境だった。「今度はめちゃくちゃ寒くて、夏なのにストーブにあたるほどでした。(台風が上陸するという)設定なので仕方ないのですが、扇風機で風を起こしたり、雨を降らせたりと悪条件でしたね。だから、すごい会話をしているわけじゃないんだけど、心が通じ合えてセリフのキャッチボールができたという気がしますね」。

今回、タッグを組んだのは星野源主演の「箱入り息子の恋」で注目を集めた新鋭・市井昌秀監督。故郷の両親に思いを馳せ、構想10年の末に完成されたオリジナル脚本で、その熱い思いは草なぎにもひしひしと伝わってきた。「監督はすごく真面目な方なんですよ。何事も大切にする方でしたね。自分が書かれた本のセリフもそうだし、キャラクターもそう。それを演じる役者さんに対しても、すごく真面目に向き合う。オリジナルの作品なので、監督はキャラクターの心情をわかっているから、丁寧に演出していました。細部にわたって人を飽きさせないような本になっているし、そういう映像になっていると思います。でも、その分、プレッシャーもすごいあって、正直、そこまで真面目に来られてもなあと、僕は思っていました」と笑う。

草なぎと言えば、熱心に韓国語を学んだり、役作りでの肉体改造もいとわないストイックなイメージがあるが、「僕は結構、適当なんですよ」と言う。「基本的にはあんまり台本を読まない。読んでも、ほぼ自分のセリフだけ。芝居をやると、もう本当に疲れちゃうじゃないですか。暑いし、眠かったり、夜遅かったりとかしますから。でも、監督は容赦しないんですよ。最初は『監督、もういいじゃない、暑いから帰ろうよ』『リハーサルなんて、なしでいいじゃない』とプロデューサーさんに言ったんですけど、そういうわけにいかないということで、最初、僕は嫌々、現場に行っていたんですよ」と話す。

市井監督は「役の小鉄ではなく、草なぎさんが演じる小鉄を見たい」とリクエストした。それは草なぎの生身が見えるような人間を見せて欲しいという意味だった。「監督がクーラーも効いてない中で、そういうことを説明し出すわけです。ああ、また始まったみたいな(笑)。(監督の)目は血走っているし、面倒くせえなあって思ったんですけど(笑)、着ぐるみではない人間の姿を見たいという話で、言っていることは正しい。でも、それがすごく難しいんです」。

そんな言葉は、草なぎに気づきを与えた。「でも、こういうことはこれまでやってきたことだ、とも思いました。お芝居だけじゃなく、そこにその人の気持ちが実際に存在してないと、つまんないじゃないですか。泣いたり、笑ったりする瞬間は、自分自身が出ているんだと思う。途中から、監督は真面目で愛情をすごく感じ、自分がだんだんちっぽけに思えてきて、ちょっと真面目に取り組もうとなってきたんです。最後は監督を見るだけでも、結構グッときましたね。監督の何事も大切にする真面目さが僕の心をひっくり返しました。でも、監督と離れると、やっぱり早く帰りたいなと思って……。家には、(フレンチ・ブルドッグの愛犬)クルミちゃんが待っていますからね」。

2017年のSMAP解散後、ジャニーズ事務所から独立し、新プロジェクト「新しい地図」を立ち上げた草なぎにも大きな意味のある作品となった。「(主演の依頼を受けたのは)『新しい地図』を広げて2年目ぐらいなんですけど、そういった段階でお仕事もらった縁というか、新しい環境になって初めての主演映画でした。僕と監督は水と油の関係で、市井監督の真面目さは本当にウザかったし(笑)、僕にはない感じがありました。でも、これから新たにいろんな仕事をしていく上で、そういう真面目さをもう一度考え直さないといけないとは思いましたね。でも、自分のスタイルはあるから、それを崩すことないとも思います。まあ、答えはないんですけどね」。

完成した作品は試写で見た。「(物語は)1日の話で、昼はあんなに遺産をめぐって争っていた家族が夜には変わっていく。普遍的な要素があると思うし、人が持っている本能みたいなところも描かれている。好きな作品になりましたね。現場では監督が言わんとしたことが分からないこともあったけども、『なるほど、こういう撮っていたんだ』と思いました。ラストシーンの現場では、これで大丈夫かなとは思ったし、やけっぱちでやった部分もあるんですけど、映画を観ると、納得できた。市井マジックが起きたんだと思う。ラストシーンの家族の姿はとても微笑ましく、すげえ笑えるし、泣ける。すごく好きだなあ」。

撮影時の取材では「特別な作品になる予感がある」とも語っていたが、出来上がった今、どんな思いでいるのか。「最終的に監督の情熱が、僕の心を動かして、演技できたし、そういった面では本当にいろんな経験させてもらった。人と人の出会いって、そのときそのときの一期一会。何か奇跡が起こるんじゃないかなと思っています。去年の夏は、そこでしか起こり得ない気持ち、感情を注ぎ込むことができた。もちろん、ほかの作品でもそうしているんだけど、そんな思いがありますね」。紆余曲折を経て、ようやく公開を迎えた主演作。時折、サービス精神を発揮して笑わせてくれたが、その発言は心の底から湧き出た言葉だったのではないか。

(映画.com速報)

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