予算と労力をかけたセットが全カット!?「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」撮影現場に潜入

2019年9月2日 13:00

撮影中のクエンティン・タランティーノ監督
撮影中のクエンティン・タランティーノ監督

[映画.com ニュース] 2018年の夏から秋にかけて、米ロサンゼルスは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の話題で持ちきりだった。クエンティン・タランティーノが1969年のハリウッドにフォーカスしたこの映画の撮影は、どうしたって目立つ。道に100台を超すクラシックカーがあふれ、カメラ前の車に乗っているのがレオナルド・ディカプリオブラッド・ピットだったら、人々は興奮を抑えることなんてできない。スマホで写真を撮って、SNSに即アップ。撮影場所はすぐにSNSで拡散され、あふれる野次馬にパブリシストもお手上げだ。(取材・文/若林ゆり)

7月にハリウッド大通りを2日間車両通行止めにしたときは、大ニュースになった。この通りの2ブロックとその周辺をまるごと、50年前にタイムスリップさせたのだ。CGの合成を徹底的に嫌うタランティーノはプロダクション・デザイナーに命じ、いまも残る古い建物の看板やエントランスを昔の姿に作り替えたのである。

それから3カ月経った10月の某日、筆者はやっとタランティーノに呼ばれてセット・ビジットをすることができた。ジャーナリストが正式な形で現場に入るのはこれが初めてという。この日の現場は、スタジオシティにほど近いリバーサイド・ドライブ。行ってみて驚いた。ここもハリウッド大通り同様、数ブロックが50年前の姿になっている。

1969年が再現されたハリウッド大通り
1969年が再現されたハリウッド大通り

「やあやあ、またセットに来てもらえて嬉しいよ!」と、タランティーノが挨拶に来てくれる。「この通りはいま、1969年の頃みたいに姿を変えているんだよ。だいたいこんな感じだった。で、奇妙なことに1982年になってもほとんどこのままだったんだ。俺はその頃、このすぐ近くに住んでいた。だからここは、俺が覚えている懐かしいリバーサイド・ドライブなんだ」

懐かしい店の出現に、はしゃいでいる近所の住民も。ロサンゼルス生まれのプロダクション・デザイナー、バーバラ・リンの仕事だ。撮影監督、ロバート・リチャードソンの乗ったクレーンの前には、クリーム色のキャデラックが走っていて、運転しているのは黄色いアロハシャツを着たクリフ・ブース役のピット。ヒッピー娘が彼に近づき、車窓越しにコカイン入りのタバコを売るというシーンだ。ヒッピー娘を演じているのはブルース・ウィリスデミ・ムーアの娘、マーラー・ウィリス。「カーット、ハハハハハ!」と、タランティーノの声がこだまする。

街並みが撮れず、パームツリーでご勘弁を
街並みが撮れず、パームツリーでご勘弁を

この現場には、小さな訪問者がいた。テレビ番組「対決ランサー牧場」でリック(ディカプリオ)と共演する8歳の“役者”、トゥルーディを演じるジュリア・バターズだ。「レオとの共演は、素晴らしかったわ。でも私たちは撮影のとき、お互いのキャラクターについてはあえて話さないようにしていたの。だってトゥルーディはそのとき、リックについてほとんど知らないはずだからよ」。トゥルーディ同様、プロ意識の高い“役者”っぷり、キュートさに脱帽だ。

その後、ドライビング・シーンを数カット撮って、撮影現場はこの通りのレコード店「ホット・ワックス(HOT WAXX)」へ。ブティックから変身したこの店は、クリフがプッシー・キャットを連れて、8トラック(65年に発売されたカートリッジ式テープ)を買いに来るというシーンだ。現場で働くハンサムな青年は、ティム・ロスの息子ハンター。この現場には、クエンティン組の家族が大勢、働いている。

レコード店内の商品や壁のサイケなポスターを買い付けしたバイヤー、ナショーン・ペトルーシュキンの話。「店にあるレコードは、ほとんどが1968年のビルボード・トップ200に入ったもの。バーバンクにある中古レコード店にキュレートしてもらって集めたんだ。ポスターやチラシは音楽プロモーターのビル・グラハムのもので、すべて光らない加工が施されたレプリカだよ。8トラックはイーベイで買ったんだけど、カートリッジがモノクロのものが多かったからカラーで作り直している」

カサ・ベガでレオ&ブラピを撮るクエンティン
カサ・ベガでレオ&ブラピを撮るクエンティン

同所での撮影も順調に終了し、タランティーノによればクルーは好きなレコードを数枚ずつ持ち帰った。「ブラッドはグレン・キャンベルのアルバムを4枚くらい持って帰っていたよ」。翌日は夜の撮影なので、午後5時に集合。現場はサン・フェルナンド・バレーのシャーマン・オークスにある老舗メキシカンレストラン「カサ・ベガ」。

ここではリック&クリフが食事をしながら話す、2つのシーンが撮影される。1つは、マカロニ・ウエスタンの撮影でスペインに滞在中のリックをクリフが訪ねてきたとき。そして帰国した2人が過ごす、“事件”直前のシーンだ。クエンティンが解説してくれる。

「これは彼らにとって、一緒に過ごす最後のときの1つになるだろう。2人はそう感じている。ずーっと一緒にやってきた彼らは酔っ払って、自分たちの歴史を見直しているんだ」

酔った2人はディナーの後も飲み続けてふざけ合い、やがて“「ウエスタンの監督でイケてるのは誰か?」ゲーム”を始める。R・G・スプリングスティーンウィリアム・ウィットニーらの名前が次々と出され、アドリブも入れている模様。「おいおい、その名前がそんなに褒められたのは初めて聞くぜ! ハハハハハハ!」。カットがかかる度にタランティーノが爆笑し、チャチャを入れたりコメントしたり。そのシーンを撮影中に2人が座ったブースのすぐ隣の席へ案内され、目と鼻の先で演技を堪能することができて大興奮!

カサ・ベガの前にはリックのクリーム色の キャデラックが
カサ・ベガの前にはリックのクリーム色の キャデラックが

「2人の化学反応はすごいだろ?」とタランティーノ。「まるでブッチとサンダンス(『明日に向かって撃て!』のポール・ニューマンロバート・レッドフォード)のクオリティだよね。2人はまったく違う種類のエネルギーを持っていて、それが2人の間に面白い相乗効果を生んでいるんだよ」

撮影終了は0時過ぎ。「来てくれてすごくハッピーだった。映画ができたら東京へ行くから、また会えるね。楽しみにしていてくれよな!」と、大きなハグをくれたタランティーノは愛車に乗って夜の闇へと消えていった。

そして約1年後。筆者は完成した映画を見て大感激すると同時に驚いた。完成した映画には、リバーサイド・ドライブの街並みが(あのレコード店も)映っていない! リックとクリフの“ゲーム”もカットだ。来日前のロサンゼルスで再会したタランティーノにそのことを聞くと、「そうなんだ! せっかく撮ったのに使えなかったんだよ」と残念がる。「アクエリアス・シアター(サンセット通りにミュージカル『ヘアー』上演時のド派手な姿を再現した劇場)もホット・ワックス・レコードの店内もそれほど惜しくはなかったけど、リバーサイド・ドライブを出さなかったのは惜しすぎてすごく後悔しているんだ。ガックリきたよ。いつかみんなに別の形で見てもらえるとは思うけどね!」

(映画.com速報)

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