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【国立映画アーカイブコラム】映画を「活かす。」――映画にも“オリジナルの表現”がある

2019年7月27日 06:00

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当館2階にある長瀬記念ホール OZU 映写室からの眺め
当館2階にある長瀬記念ホール OZU 映写室からの眺め

映画館、DVD・BD、そしてインターネットを通じて、私たちは新作だけでなく昔の映画も手軽に楽しめるようになりました。それは、その映画が今も「残されている」からだと考えたことはありますか? 誰かが適切な方法で残さなければ、現代の映画も10年、20年後には見られなくなるかもしれないのです。国立映画アーカイブは、「映画を残す、映画を活かす。」を信条として、日々さまざまな側面からその課題に取り組んでいます。広報担当が、職員の“生”の声を通して、国立映画アーカイブの仕事の内側をご案内します。ようこそ、めくるめく「フィルムアーカイブ」の世界へ!

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映画保存と並んで大切なのが、映画を「活(い)かす」――公開することです。当館では、館内にある2つの上映ホールや展示室、図書室で、所蔵フィルムや映画関連資料の公開を行っています。

館内での公開以外にも、全国の巡回上映や国内外への所蔵フィルム貸出、近年では「日本アニメーション映画クラシックス」「映像でみる明治の日本」といったWEBサイトを立ち上げ、インターネットでの配信にも力を入れています。テレビ番組などへの映像提供も増加していますので、クレジットで当館の名前をご覧になることも多いかもしれません。

このように、所蔵フィルムや資料を傷つけないよう細心の注意をはらいつつ、さまざまな「活かす」活動を試みているのです。

上映展示室のデスクはいつも企画の検討資料で埋もれています
上映展示室のデスクはいつも企画の検討資料で埋もれています

その最たるものは、館内での映画上映です。

時間や場所に縛られることなく映画を見られる今、わざわざ映画館で見なくてもいいと思っている方もいるでしょう。しかし、映画館で全身を包まれて体感する音とヘッドホンで聴く音では音質も効果も全く違いますよね。また、例えば雪国の冷え冷えとした寒さや、無重力の宇宙空間といった、その場にいるかのような臨場感や、画面が大きいからこそ見える細部も、小さな画面だと弱まってしまうでしょう。映画館の大きなスクリーンで見ることを前提にしている映画は、画から音に至るまで、それを意識して作られています。

そして、フィルムからデジタルにメディアを変換すると、画の特質も変化してしまいます。

だからこそ国立映画アーカイブは、映像も音も公開当時に可能な限り近い、作り手が意図した「オリジナルの表現」で作品を鑑賞できる場であろうと、フィルムが上映できる映画館が年々減っていくなかでもフィルム上映にこだわっています。フィルム上映を前提とした映画はフィルムで、制作から上映までデジタルで作られた作品はデジタルで上映しています。

そこで重要なのが、上映素材です。

当館では、所蔵フィルムをもとにさまざまな上映企画を考え、公開しています。ただ、所蔵フィルム=上映ができる、というわけではありません。所蔵フィルムの状態が良好でない場合にはどうするのでしょうか? 2012年から上映の企画を担当している、上映展示室の主任研究員・大澤浄さんに話を聞いてみました。

映写室にずらりと並ぶ、「逝ける映画人を偲んで2017-2018」上映作品のフィルム缶
映写室にずらりと並ぶ、「逝ける映画人を偲んで2017-2018」上映作品のフィルム缶

「新しいフィルム=ニュープリントを作製します。権利や予算の問題で普段はなかなか着手できなくても、企画で上映する作品となれば、ニュープリントの作製に取りかかることが可能になるのです。また、“所蔵していないけれど、この企画にはどうしてもこの作品が必要”という場合には、ニュープリントの購入に動き、著作権者と相談します。上映を機に、100年先まで安心して保存できるプリントを作って、収蔵したい。上映展示室は企画を担当する部署ですが、“残す”という意識は常に強く持っています」

こうして作製されたニュープリントは、国立映画アーカイブの所蔵フィルムとして、相模原分館に保存されます。「活かす」が「残す」につながり、「残す」ことで、「活かす」ことができる。

当館の上映では、フィルム上映を良く知る世代から若い世代まで、たくさんの方から感想をいただきます。「フィルムならではのぬくもりを感じられた」「(デジタルの)クリアな映像だけが全てではないと実感した」「TVでは気づけなかった数々の演出に気づけ、より深く理解できた」など、オリジナル表現の魅力や、作品を受容する環境の大切さを実感した喜びの声をいただけるのは、とても嬉しいことです。

現在、国内で劇場用映画フィルムを現像できるのは、IMAGICA Lab.と東京現像所の2カ所のみ。完成したプリントは、厳正なチェック試写を行います。

オリジナルの映像に近づけるためにニュープリントの作製で最も重要となる工程は、「タイミング」と呼ばれる、監督やカメラマンが意図した色彩や濃度に近づけるための色調調整です。例え当時のタイミングのデータが残っていても、当時と同じ作業で現像すれば自然と同じプリントができるわけではありません。

フィルムを1コマずつ確認しながらタイミングを行う鈴木さんと小泉さん
フィルムを1コマずつ確認しながらタイミングを行う鈴木さんと小泉さん

東洋現像所(現IMAGICA Lab.)で300本以上の劇映画を手がけたタイミングマンで、現在は当館技術職員の鈴木美康さんは、次のように語ります。

「機材や現像液、フィルムの性質も当時と今では変わっています。(ニュープリントの作製は)当時のデータを参考にしながら、今のフィルムや機材を使って、オリジナルに近づけていくという作業なんです。そこでは、例えば色調などの、監督やカメラマンがこだわっていた部分が一番の指標になります」

製作当時のスタッフの協力を得ることもあります。現在開催中の企画上映「逝ける映画人を偲んで2017-2018」で上映する伊丹十三監督作「お葬式」再タイミング版(84)では、鈴木さんは同作の前田米造カメラマンとチーフ助手の福沢正典カメラマンとともに、ニュープリントのためのタイミング(=再タイミング)を行いました。当時同作のタイミングを担当していた鈴木さんは、その作業をこう振り返ります。

「皆で、映像を見ながら思い出していくんです。ここはこうだったね、ああだったね、と。そうやって詰めていって、当時の映像に近づけていきました。暗い部屋の場面が多いのですが、同じ暗さにならず、その場所の雰囲気が出るようにしました。大きくは、主人公のフェイストーンを基準にして他の人物の顔色のバランスを取りましたね。デジタルだと数値を調整して正確に同じ色にできるけれど、そうすると、顔色は合っても周りの雰囲気が違ってしまうんです。観客の感じ方が当時と今で同じになるように、抽象的な言い方ではありますが、“空気感”を総合的に近づけようとしています。今回、東京現像所の小泉洋子さんという現役のタイミングマンがオペレートを担当したのですが、非常に細かい微調整にも対応してくれました。おかげで空気感がピシッとハマった、良いプリントができました」

1本1本のフィルムを最良の状態で保存しながら活用するということが、「映画を活かす」うえで最も大切なことなのです。

「逝ける映画人を偲んで2017-2018」開催中の会場ロビー
「逝ける映画人を偲んで2017-2018」開催中の会場ロビー

当館はフィルムアーカイブとして、このようにオリジナル表現の再現を追求しています。ロビーでは企画ごとに上映作品のポスターを多数展示しているので、映画を見る前から、当時の空気を感じていただけますよ。

同じ作品も、上映素材や上映環境が異なれば全く違った見え方をする。この夏、「映画を見よう」と思ったときには、そうしたことも少し考えてみてはいかがでしょうか。

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