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「セクシュアリティの物語を社会が受け入れるようになった」「氷上の王、ジョン・カリー」監督に聞く

2019年5月31日 17:00

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ジェームズ・エルスキン監督
ジェームズ・エルスキン監督

アイススケートを芸術の域まで高めたと言われる、イギリスの男子フィギュアスケート選手でオリンピック金メダリスト、ジョン・カリーのドキュメンタリー「氷上の王、ジョン・カリー」が公開された。カリーのアスリートとしての姿だけでなく、栄光の裏にあった孤独や、病魔との闘いなど知られざる光と影を映したジェームズ・エルスキン監督が作品を語った。

--この映画を作る以前、監督はジョン・カリーについて、どの程度ご存知だったのですか?

イギリスで彼は有名人ではあるけれど、活躍していたのが1970年代から80年代にかけてだから、僕の中では子供の頃の遠い記憶に埋もれていた。当時、フィギュアスケートは人気があって母親もよくTVで見ていたから、ジョン・カリーロビン・カズンズの名前だけはうっすらと覚えていた。ある日、ガーディアン紙にジャーナリストのビル・ジョーンズによるジョン・カリーの伝記「Alone」の紹介記事が載っていて、ジョン・カリーがどれほど重要な人物か書いてあった。それで、すぐその本を読んで「すごい話だ」と思い、版元に電話をかけて映画化の権利について問い合わせた。それが始まりだった。ジョンの演技をネットで5分見ただけでも感動したから、映画にしてもっと長い演技映像とともに、彼の人生を描けば多くの人の心に響くんじゃないかと、彼をもっと広く知らしめることができるんじゃないかと思ったんだ。

--ガスコインとカリーの対比が面白いですね。本作を見ていると、カリーの私生活がかなり破天荒で、優雅で落ち着いたパフォーマンスとの対比が際立っています。それは天才と言われる人の共通点だといえますか?

画家のフランシス・ベーコンが美術批評家のデイビッド・シルベスターに語った、とても興味深い言葉がある。シルベスターがベーコンのアトリエを訪ねてインタビューした際、アトリエがあまりに散らかっていたので、「なぜ、片付けないんですか?」と聞いた。するとベーコンは「私はアーティストで、私の仕事は人間という無秩序なものから意味を見出すことだ。だから私はゴチャゴチャしたものに取り囲まれているんだ」と答えた。つまり、混沌とした状態を求めるのは、アーティストにとってもっともな発想なんじゃないかな。天才の考えていることは理解できないけどね。

--「ドナウ」のパフォーマンスに魅せられ、(「ドナウ」が使われている)映画「2001年宇宙の旅」を思い出しました。

ジョンはあの映画にすごく興味を持っていた。誰かに宛てた手紙の中で「2001年宇宙の旅」を観に行く話を書いていたし、彼はあの映画のことは意識していたはず。ジョンはよくデビッド・ボウイと比較された。ボウイに共通する審美眼を、たしかにジョンは持っていた。つまり、あのパフォーマンスには、「2001年宇宙の旅」と「スペイス・オディティ」(「2001年宇宙の旅」をモチーフにした1969年発売のボウイの2ndアルバム)の両方が混在している。だから、カリーは「美しく青きドナウ」を選んだんだ。「ドナウ」の映像を発見できたのは幸運だったよ。リハーサル風景を撮った古い素材で、この映画で初めて人の目に触れたんだ。

--現存するカリーのパフォーマンス映像が少なかったことが、彼が世の中から忘れ去られてしまった原因のひとつだと思いますか。

それは偉大な舞台俳優やパフォーマンスアーティスト全般に当てはまると思う。パフォーマンスアートの悲劇は、その場限りで消えてしまうことで、映像化されない限り、観た人の記憶にしか残らない。例えばドイツの大芸術家ヨーゼフ・ボイスは、“それこそがパフォーマンスアートの本質だ”と言うかもしれない。でも僕は、唯一無二の天才の偉業はドキュメンタリーにすることで人々が享受すべきだと思うし、パフォーマンスアート自体の発展にもつながると思う。

--1984年に国立代々木競技場の体育館で開催された「シンフォニー・オン・アイス」の映像も含まれていましたが、過去映像の調査には相当、時間がかかったそうですね。

まず、彼の全パフォーマンスのリストを作ったんだ。彼のショーをプロデュースした、それこそ世界中の人たちに連絡した。日本、スイス、スカンジナビア、イギリス、アメリカ……。それと、ジョンの兄のアンドリューが、3000枚近くもある膨大な写真を貸してくれた。もう一つ、大きなカギになったのはジョンの手紙で、彼は偏執的なまでにほぼ毎日、誰かに宛てて手紙を書いていたんだ。彼の手書き文字を映像で使えたのと同時に、手紙は彼の声と心情を知る重要な情報源になった。

--この映画では、「スポーツにおける男らしさとは何か」ということも深く掘り下げられていますね。プロスポーツの世界で、ジェンダーの問題は今も曖昧な状態だと思いますか?

“曖昧”以上のものだと思うね。ホモフォビア(同性愛者に対する偏見)や性差別、人種差別は、スポーツ界では今も大きな問題だよ。その中でもホモフォビアは関心が高い。アートの世界では、多少人と違っていても大丈夫だけど、スポーツの世界では一般的な慣習に従うことを強いられる。それに、芸術的な才能というのは大人になってから芽生えることが多いけど、スポーツの分野では、幼い頃からその道に進む傾向にあって、セクシュアリティについては、大人になるにつれて気付くようになるからね。ジョンの興味深い点は、彼が社会に受容されるための旅路に出たことで、これは本作の大きなテーマでもある。そして、彼は受容された。金メダルを勝ち取り、メトロポリタン歌劇場では2万人の観客を得て、天才と呼ばれるようになった。でも、彼自身がどうしても自分のことを受け入れられなかったんだ。

--本作では、カリーが同性愛者であることがメディアによって公表されたことについても詳細に描いていますね。

たしかに彼のセクシュアリティはメディアによって公表された。ただ、ジョンの性格が自己破壊的なものであったかどうかとは別の問題だと思う。彼の人生を見ると、その傾向はあると思うけどね。彼はオリンピックで金メダルを取るために人生を捧げた。そして、自身のセクシュアリティについては、口を滑らせてしまったんだと思う。たしかに選手引退後のジョンは、ある時期にピークに達し、その後、自己破壊的になった。やろうと思えばもっと後にもメトロポリタン歌劇場で公演することもできたと思うけど、望まなかったんだ。

--監督は、個人のセクシュアリティについては、他人があまり関心を持つべきではないという考えでしょうか。メディアも一般人も有名人のプライバシーを守るために気を使うべきでしょうか?

当然そうするべきだと思う。もちろん、セクシュアリティについてはもっと議論されるべきだとは思うけど、諸刃の剣でもあるよね。つまり、私生活を語るサッカー選手がいなければ、具体的に例に出して議論することはできないけれども、最悪なのはSNSで気軽にカミングアウトした結果、ネットで総攻撃されることだ。

--日本でも映画「ボヘミアン・ラプソディ」(日本公開2018年11月)が大ヒットしましたが、カリーと同様にエイズで早逝したイギリスの同時代アーティストを描いた映画が、時をほぼ同じくして公開されたことについてどう思いますか?

セクシュアリティの物語を社会が受け入れるようなったんだと思う。ドキュメンタリーに限らず、ドラマでも多くなってきてるよね。実話への関心が高まっていることが、僕には興味深い。映画は、ニュースを見るだけではできない感情移入が可能になる。たとえ自分が主人公とまったく異なるアイデンティティーだったとしても、映画はその人の身になって感じることができる。

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