過激集団によるセット破壊、主演女優が懸賞首に… インド「パドマーワト」が直面した過酷な危機
2019年5月29日 12:00

[映画.com ニュース] “インド映画史上最大規模の製作費”(当時)という約3300万ドル(1ドル=110円換算で約36.3億円)を投じて創出された「パドマーワト 女神の誕生」が、6月7日から日本公開を迎える。インドでは誰もが知る伝記を、絢爛豪華な映像で現代に復活させる一大プロジェクトだったが、その製作は常に“インドならではの危機”にさらされていた。
16世紀に生み出された伝記を基に、数々の歴史ものや古典を映像化してきた巨匠サンジャイ・リーラ・バンサーリー監督が映画化。巨額の費用を投じられて撮影が始まったが、「インド古来の民族ラージプート族や、彼らが信仰するヒンドゥー教を侮辱する内容」「伝記では高貴な存在として描かれてきたパドマーワティ妃が、イスラム王アラーウッディーンに心を奪われる不貞描写がある」などの噂が飛び交い、一部の過激団体が撮影現場に押しかけセットや機材を破壊。その後も、同監督や主演女優ディーピカー・パードゥコーンに“懸賞金”をかける者がネット上に現れたほか、政治家がこれらの問題に言及し、ラージプート族の出身地であるラージャスターン州(インド北西部)と近辺の州では上映が認められないなど、騒動は拡大の一途をたどっていった。
当初、2017年12月1日の公開が予定されていたが、やむなく延期に。最終的に中央映画認証委員会(映倫にあたる組織)が、タイトルを「Padmavati」(ヒロインの名)から「Padmaavat」(伝記の題名)に変更することで上映が許可され、18年1月25日にようやく封切りの日を迎えた。
ところが公開後も騒動は収束しなかった。映画館が入るショッピングモールが襲撃されたほか、駐車場の車両が燃やされるなどの事件が頻発し、一部の州では反対派の報復を恐れ上映を中止する事態に陥った。火種となったラージプート族についてだが、劇中での侮辱描写はなく、むしろ高潔かつ勇猛な人々として描かれている。実際に映画を見た観客からの批判は少なく、争点が消滅したことから、公開後の暴動は次第に沈静化していった。
結果、今作は18年の国内興行収入第3位の大ヒットを記録。19年に入り、バンサーリー監督は当時の心境を「大勢の警官に囲まれて、2~3カ月間、ときに物理的に攻撃を受けながら映画を撮り続け、その上、無事公開されるかも分かりませんでした」「私はこの映画が美しいと思っているのに、なぜか人々の怒鳴り声が聞こえる」「観客が映画を見てくれて、抗議が全くなかったことが一番大きな心の支えとなりました。結果として、興行で最大の成功を収めたこと、こうした作品に対する愛が私を落ち着かせてくれました」と語っている。
(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions
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