「カンパイ!日本酒に恋した女たち」公開記念 食の編集者に聞く「今、日本酒が楽しい」理由
2019年4月24日 15:00
[映画.com ニュース] 長らく女人禁制と言われてきた日本酒の世界に飛びこみ、活躍する女性たちの姿を描いた日本酒ドキュメンタリー映画「カンパイ!日本酒に恋した女たち」が、4月27日から公開される。広島で100年以上続く酒蔵を継いだ杜氏(とうじ、酒造りの最高責任者)の今田美穂さん、大胆なフードペアリングで日本酒界に新たな旋風を巻き起こす日本酒バーのカリスマ店長・千葉麻里絵さん、そしてニュージーランド出身の日本酒コンサルタント、レベッカ・ウィルソンライさんに迫る物語。本作にも出演しており、食雑誌「dancyu」の元副編集長で、“食の編集者”として活動する神吉佳奈子さんに「今、日本酒が楽しい」理由と背景にある女性の活躍、そして日本酒を楽しむコツを聞いた。(取材・文・写真/編集部)
祖父が広島にある「賀茂鶴酒造株式会社」で働いていたので、日本酒の存在が日常の中にあったと語る神吉さん。食の編集者を目指して上京し、1999年にNHK出版でムック本「お酒の時間」の編集を手掛け、日本酒特集を企画したという。「NHK出版で『ERIO』という若い女性に向けた家庭実用雑誌を編集していました。チョコレート、ハーブ、チーズなど嗜好品を扱うワンテーママガジン。そこで私は食いしん坊の女性向けに、お酒の特集を提案したんです」。当時は女性向けと言うと、シュワシュワしたものや甘いものなど、かわいらしいお酒がイメージされることが多く、会議で上司から「女性ってそんなに日本酒に興味あるの?」という反応もあったそう。「酒飲みの女性って、おいしいお酒が飲みたいだけで、かわいいお酒が飲みたいわけじゃない。おいしいお酒に出合いたい、味覚の新しい体験をしたいという好奇心のある女性に、自分でお酒を選ぶ時の知識を紹介した雑誌でした」と振り返る。
日本酒業界で女性の活躍が顕著になってきたのは「10年くらい前」だという。「若手の蔵元、個性のあるお酒を造る蔵元が増えてきた。これまでは杜氏制度があって、お酒を造っている人と経営者は別だった。今は蔵元が『自分のお酒を造りたい』と考えて、酒造りが終わったら試飲会をやったりイベントをやったり……、自分のお酒のことを語る、伝える蔵元が増えてきました」。酒造りだけではなく、飲食店で日本酒を提供する人々にも変化があったそうで、「蔵元が表現する味の幅がバラエティ豊かになり、造り手側もサービスする側も、オープンになって(飲む人に情報を)シェアする空気があるので、楽しくなっている。昔は『希少なお酒をおいている』ということが売りになっていたけれど、今は提供する人が、飲み方や料理の提案でそのお酒の個性を伝える時代です」と分析する。さらに、そうした日本酒を取り巻く変化に敏感に反応したのは、発信力のある感度の高い女性たちだった。「日本酒の情報量が増えたことで、バラエティに富んだ日本酒から選べるという豊かさが生まれました」と、しみじみと語る。
神吉さんは、メガホンをとった小西未来監督に、劇中に登場する女性3人を紹介したという。日本酒にかける並々ならぬ情熱が印象的な女性たちについて、「時代を作った」「努力家」という言葉を挙げる。「美穂さんの前にも女性杜氏はいらっしゃるんですけど、言葉をもって酒造りを語るような女性杜氏として最初から日本酒業界で注目されていました。美穂さんは映画でも語っていないけど、絶対苦労があったはずだと思います。そういう部分を全く見せない強さが酒の味にも出ているし、新しい女性杜氏の姿形を見せたと思う。象徴的な存在です」「麻里絵ちゃんのような日本酒をサービスする女性の台頭っていうのは、長らくは割烹着の女将さんというイメージだったけど、(彼女は)Tシャツとエプロン姿で、ソムリエのように専門的な知識をもってお酒を注いでいます。すごく勉強している」「日本酒を愛している人は世界中にいて、輸入者だったり酒屋さんだったりするんですけど、レベッカの場合はコーディネーター、エデュケーターですよね。彼女の華やかさで日本酒が明るく、ゴージャスでエレガントになっている。日本酒を伝える言葉が豊かで、聞いているとうっとりします」と、それぞれの魅力を紐解く。「3人とも時代を作って、(女性としては)前例がない部分を切り開いてきた。(男性が多い業界で)自分のことを認めてもらおう、自分の仕事をやろうと思ったら、女性だからといって許されないという気迫があって、男性以上のことをしないと認めてもらえない」と改めてその功績を称えた。
「温度」「酒器」「一緒に飲む人」「気分」など、様々な条件によって味わいが微妙に変化する日本酒。神吉さんは「今、日本酒のフードペアリングが面白いんです。次々と登場する個性ある日本酒には醤油に刺身より、オリーブオイルに塩とレモンの方が合うものもあります。蔵元が表現する日本酒の個性を楽しんで、味わってほしいですね」と語る。そんな願いを胸に秘める神吉さんのおすすめは、今田さんと千葉さんが本作のためにプロデュースしたという、野菜に合う日本酒「KAMPAI×富久長 草 KUSA」(発売中)。「美穂さんは八反草(はったんそう)という在来種のお米を20年前に復活させたんです。一握りの籾から、農家さんと一緒に少しずつ(米を)作って、お酒を造っています。今回は麻里絵ちゃんのプロデュースで、その八反草100%で酒を造ることに。在来種なんだから、自然派ワインみたいにナチュラルな食事に合うのではないかと想定して、遂にそのお酒が完成したんですよ。これが『草』のイメージ通り野菜にぴったりで、ルッコラやハーブをかじりながら飲める、女性のテンションが上がるお酒」だという。緑のラベルが鮮やかな「草」には、「働く全ての女性に飲んでほしい」というコンセプトがあり、日本酒の一時代を築いた女性たちのエールがこめられているかのような1本となっている。
最後に、神吉さんに奥深い日本酒の世界に足を踏み入れようとしている人々へのアドバイスを聞いてみた。「好きな1本を見つければ、温度や器、フードペアリングで味わいの変化を楽しむことができます。新しい銘柄を次々に探そうと思わないで、好きなお酒を見つけたらとことん付き合う。いろんな味の幅を試してみて、自分のスタイルを見つけると、日本酒はもっと楽しくなる」と、軽やかにメッセージを残した。
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