「万引き家族」是枝裕和監督、片山萌美の存在が光るラストを述懐 “実母”のもとへ戻した理由とは
2019年2月9日 12:00
封切りから8カ月目を迎え、観客動員数は370万人、興行収入は45億円を突破した「万引き家族」。第91回アカデミー賞外国語映画賞へのノミネートを祝し、全国100館規模での凱旋上映がスタートしている。2月24日(現地時間)の授賞式に先駆け、各部門の候補者が一堂に会する昼食会に参加していた是枝監督は「今回は自分がタッチしてこなかったところに作品が転がっていって、あとから追いかけていっている感じなんです。本当に自分がいても良い場所なのかなと悩みながらも、レディー・ガガと写真を撮ったりしてね(笑)」と心境を吐露。「ノミネートされたことは、本当に光栄です。今回の経験をふまえて、次は何をやろうとか考えている最中。(昼食会の)会場にいらっしゃった役者さんたちと何かできたらいいなと、ちょっとずつ考え始めています」と振り返っていた。
観客の質問で特に多かったのは、クライマックスの展開に関してだ。「家族をフィーチャーした映画ならば、リリー・フランキーさんと城桧吏くんの“別れ”で終わるのが自然だったのかと思いますが、あえて佐々木みゆちゃんがひとりでいるシーンで終わらせた理由は?」と問われると、「祥太のなかに芽生えた倫理観が家族を内側から壊しますが、それは成長でもあるため、非常にビタースウィート。一方、“家族”のもとへ戻ったゆり、彼女には首を振るという意思が芽生えています。(ラストで)彼女が見ている風景は、映画の冒頭で隙間から見ているものよりも広い。前向きな終わりというと言い過ぎかもしれませんが『あの視界の先に私たちがいるかもしれない』ということをオープンにしたつもりなんです。仰る通り、少年の物語だけで終わってしまうと家族映画になる可能性があった」と答えていた。
さらに、ラストシーンにおけるみゆちゃんへの演出方法について話題が及ぶと「母親役の片山萌美さんがすごく良くて」と述懐。「良すぎるほど。朝、リハーサルの段階で怒る芝居をやってもらったら、みゆちゃんが『もうこのシーン、撮りたくない。怖い』と言い始めてしまって。午前中は撮れなかったんです。お母さんと散歩にでかけてもらったら、(気持ちが)リセットされた。片山さんは本当は優しいんだよと理解してもらえて、そこから作り直したんです。みゆちゃんは、状況によって『このシーン撮りたくない』『そこに行きたくない』と役柄と本人が混ざって出てくるんです。それを上手く受け止めつつ、役に誘導するということをやりました」と話した後、改めて「あそこはやはり片山さんが良かったんですよ」と絶賛していた。
「社会的な問題を問うという意識はある?」と聞かれると、「ちょっと違いますね。むしろ“私たちは彼らを見えていない”ということが中心にあるような気がする」と是枝監督。そして“貧困”という要素について「彼らは貧困だから万引きをするわけではないということを明確に出したつもりだったんです。あえて帰り道にコロッケを買わせているという展開から、貧困のために万引きをするわけではないんだという見方に入ってほしかったんです」と説明。「ではなぜ万引きをするのか? それを教えることで繋がっていく。親子の関係から、兄妹の関係へ――とても残酷なんですけど、繋がるために盗む。生活苦からやっているわけではないということはちりばめたつもりなんです」と語っていた。
海外の映画祭を回るなかで、印象的だった感想は「ヨーロッパでは、ゆりが実の母親のもとへ戻されるという展開に対して、一番驚いていた。虐待の事実がわかっているのに『なぜ帰す? 理解できない』と随分言われた」と告白。「色々な形があるとは思いますが、確実に親から切り離すという手段が普通だと感じるのでしょう。でもリサーチを進めるうちに、親のもとへ戻さざるを得ない状況というのは結構あったんです。養子縁組、里親制度が浸透していかないので、施設に留めておけなくなった時に(戻る場所が)実の親のもとしかなくなってしまう。そして結局虐待を受けて、施設に戻ってくるケースがすごく多い。この問題点があったものですから、(ラストの)実母のもとへ戻すという設定をとりました」と打ち明けていた。