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デビュー30周年、故郷・奈良が舞台「二階堂家物語」に主演した加藤雅也の思い

2019年1月24日 12:00

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取材に応じた加藤雅也
取材に応じた加藤雅也

[映画.com ニュース] デビュー30周年の大きな節目を迎えた奈良出身の国際派俳優・加藤雅也。女性監督イラン人女性アイダ・パナハンデ監督が奈良を舞台に跡継ぎ問題に悩む一家の姿を描いた「二階堂家物語」に主演した。海外作品にも出演する国際派俳優・加藤が故郷で撮った合作映画への思いを語った。(取材・撮影/平辻哲也)

1988年7月公開の映画「マリリンに逢いたい」でデビューし、俳優生活30周年。「二階堂家物語」は昨年9月、「なら国際映画祭2018」でワールドプレミアを迎えた。「不思議な縁ですね。28年目に撮っても、これは特別な映画でしょうけども、そういう意味ではメモリアルになりました。なら国際映画祭が10年目だったとか、そういうのが重なるのは何か不思議だな。他の町の映画祭には行っているのに、なんで自分の生まれた町に行かないのかというのもあって、もっと、なら国際映画祭に協力したいという気持ちがありました。故郷ということで、友達や母も映画を見に来てくれて、嬉しかったですね」

出演のきっかけは「なら国際映画祭」のディレクターで、本作のエグゼクティブ・プロデューサーを務める河瀬直美との出会いだった。俳優仲間である別所哲也が手がける映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア2017」で初対面を果たした。

「河瀬さんは奈良の監督さんと存じていましたし、ずっと仕事をしたいなと思っていました。作品を見ると奈良で撮っていて、自分は奈良の人間で、その人間が奈良を歩いているのが自然なことのはずだけど、『なんで一緒にやりましょう』と声がかからんのかな、と思っていたんです。絶対に会いたいなと思ったら、会いに行くしかないでしょう。そこで『オーディションがあるので、どう?』って声かけてもらったのがこの作品なんです」

映画は奈良・天理を舞台に一人息子を亡くし、跡取り問題に頭を悩ます名家の物語。代々続く家系が途絶える危機に頭を痛めている辰也(加藤)とその母ハル(白川和子)。息子を失い妻が出て行ってしまった辰也に対し、望まぬ相手との結婚を迫るハル。そして娘の由子(石橋静河)に婿養子を取るように過剰な期待をかける辰也。跡継ぎを巡り家族の中が緊迫し、繋がりが崩れだす……というストーリーだ。

極めて日本的な物語だが、監督は79年生まれのイラン女性アイダ・パナハンデ氏。中東の女性が直面する問題を描く長編デビュー作「NAHID(ナヒード)」で2015年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・期待すべき新人賞を受賞。さらに「なら国際映画祭2016」で最高賞の「ゴールデンSHIKA賞」を受賞し、奈良を舞台にした映画を製作する権利を獲得し、17年10月にロケを行った。

「今は宇宙へ出ていく時代ですが、自分たちのルーツに戻っていく動きも必要なのかなと思います。奈良は自分の故郷でもあるけど、ペルシャ文化が入ってきた場所でもあり、言ってみれば、日本の文化の発祥の地じゃないですか。そういうところに戻って見つめ直すのも大事なことなのかなと思います。海外に出ることがインターナショナルだけじゃないですから」

90年代にはブルック・シールズと共演した「セブンスフロア」をはじめ海外との合作に主演し、98年には「GODZILLA」にも出演した加藤だけに、その言葉にも重みがある。90年代に単身渡米した理由もこう話す。「ひとつには『日本人が世界に通用しない』と言われた理由を知りたいっていう部分がありました。世界の頂点であるハリウッドを見ずして、語れないだろう、と。日本人が世界で存在していくためにはどうすればいいんだろうか。そういうものを考えるきっかけになりました」と振り返る。

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帰国後は、北野武監督の「BROTHER」や三池崇史監督の「荒ぶる魂たち」などで見せたタフガイや狂気を孕んだ人物像で高い評価を得たが、本作では一転、自身の恋や親子関係に苦悶するという父親役を好演し、新境地を見せた。「これまで、あまりやっていなかった役ですね」と聞くと、「やらなかったんじゃなくて、オファーが来なかった。そこなんですよ」との答えが返ってきた。

「役者になった以上、最初はアクションだとか、アウトローなものには憧れますよね。どこの時点からか、これでいいのかなと考えるようになって、世の中にできたイメージをどう潰すかを考えていくけれども、そのときそのとき一生懸命作ったイメージはなかなか潰れないんです。今回の役も日本人の監督だったら、僕を100%呼ばないです」。

今の日本映画界には50代の俳優が主役を張れる大人の映画が少ないという。「香港やアメリカ映画では、50代が活躍する作品があるけれども、日本の壁ドン映画では、僕らはお父さん役しかないんです。そういう役もやっていかないと、(俳優の世界で)サバイバルすることができない。イメージを変えたいなと思います。俳優ですから、いろんなことをやってみたい」。

撮影現場では、イランの女性監督の異国でのチャレンジには共鳴する部分も大きく、同じく英語を話す監督と日本の俳優の架け橋にもなった。共同作業は苦労も多かったというが、その成果は映画にはっきり出ている。映画には外国人監督が撮った違和感はなく、日本人監督が撮った以上に日本映画らしい作品に仕上がっているのだ。

「僕はアメリカで暮らした経験がある中、異文化を理解することは不可能だと感じました。でも、いがみ合うだけだと戦争に向かうだけ、やっぱり相手をaccept(受け入れる)することがひとつの解決策なんです。その上で、彼女から『なぜだ』って聞かれたことで、いろんなことを考えるきっかけになったりもしました。俳優って基本的に納得しないことは演じられるはずがないんですよ。自分が納得したら、演じるということを心がけています」

脚本は17年3月にパナハンデ監督と夫で脚本家のアーサラン・アミリ氏がシナリオハンティングを経て、ペルシャ語で書き上げたものを、さらに英語から日本語に翻訳したもの。ペルシャ語の文法は主語述語の関係がはっきりしているが、それをそのまま日本語にすると、不自然になることもあった。

「監督は、僕らが現場で困っているのを違和感として、『何か変だ』と言ってくるんです。例えば、“I have to go”というセリフは、『行かなければならない』ということだけども、日本でそうは言わない。『行かなきゃ』『行かなくちゃ』となるけども、実際のところ、『いや、今日のところは…』で表現できてしまう。今考えれば、これでよかったんだなと思いますが、そういうやり取りがありました。もし2回目があれば、今回よりは楽でしょう」

大きな節目に通常演じられなかったキャラクターを演じられたことが収穫だという。「僕は今、起承転結の『転』と位置づけていて、今までとは違う転換を考えた年に、新しいキャラクターができた。もちろん、今までも小さい役ではやったりしているんですが、そういう冒険をさせてくれる作品はメジャーな映画じゃなかったりするから、たくさんの人が見てるわけじゃない。そういう意味で、メインで、ある程度の話題性を持った作品で演じられ、本当に恵まれたなと思います。『加藤さんはこういう役やれるんだね』っていう風になると、なんか面白い展開になるのかなとは思うんです」

1月からはNHK連続テレビ小説「まんぷく」でヒロイン福子(安藤サクラ)が働くパーラーの人情マスター役で出演中。若い頃は俳優を目指していたが、関西弁のこだわりが強すぎて、地元の大阪・池田に戻ってパーラーを始めたという設定。「青春家族」以来30年ぶりの朝ドラ出演で、こちらでも別の引き出しを見せている。

二階堂家物語」は1月25日から公開。

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