大杉漣さんが死刑囚と向き合った最後の主演作「教誨師」佐向大監督に聞く
2018年10月5日 16:00
[映画.com ニュース]2月に急逝した俳優・大杉漣さんの初プロデュース作で、6人の死刑囚と対話する教誨師を演じた「教誨師」が10月6日公開する。大杉さん最後の主演作のメガホンをとった佐向大監督に話を聞いた。
独房で孤独に過ごす死刑囚にとって良き理解者であり、話し相手である死刑囚専門の教誨師である牧師・佐伯。佐伯は、自分の言葉が囚人たちに届いているのか、また、安らかな死に導くのは正しいことなのか苦悩する。そんな葛藤を通し、佐伯もまた自らの暗い過去と向き合う。ほぼ全編が教誨室での会話劇で構成され、佐伯と囚人たち、それぞれの人間らしい生き様が浮かび上がる物語。共演は光石研、烏丸せつこ、古舘寛治ら。
教誨師とは、受刑者に寄り添って心を救済し、改心できるよう導く存在。日本では仏教僧が多いが、今作の主人公の佐伯はプロテスタントの牧師だ。「日本の教誨師はお坊さんが全国で50パーセント以上だそうです。佐伯はスーツ姿で面会し、奥さんもいる。拘置所以外の場所を想像できるような設定にしたかったので、僧侶でも神父でもなく、牧師にしました。大杉さんとは5年程前からずっと、一緒に映画を作りたいという話をしていて、ほかの企画もありましたが、3年前にこの話で大杉さんにOKをいただき、1年をかけて脚本を書き進めました」
佐伯と死刑囚たちのキャラクター設定、会話のディテール、映画を見ている観客もその場に立ち会っているような臨場感を覚える。「脚本執筆時には6人の死刑囚の個性をいかに際立たせていくのか苦労したものの、それ以上に教誨師が死刑囚にどんな言葉をかけるべきか頭を悩ませました。実際に教誨師の方にお会いし、どのような気持ちで受刑者と向き合うのかを伺い、彼らの会話を想像しました。エピソードはすべて創作ですが、実際の事件をヒントにしたこともあります。もともと教誨師というのは、受刑者の道徳心を養い、社会に戻ってから全うな人生を送れるように導く人だと思っていたんです。しかし死刑囚は社会に戻ることはない。重要なのは、とにかく彼らの話を聞くことなんだと。あなたは社会では許されないことをしたけれど、確実に神には赦される。神はあなたを愛しているからだと。僕はクリスチャンでもありませんし、聖書を研究したわけではないのですが、とても衝撃を受けました。そういう話を伺って、どういう姿勢で教誨に臨むかということを参考にしました」
存続の是非が問われる死刑制度についても考えさせられる作品だ。「難しいですよね。死刑というシステムを隠そうとすることに違和感を感じます。死刑囚というと、みんな自分とは関係ないと思ってしまうものですが、同じ人間であるのは間違いないし、そんなに自分たちと変わらないキャラクターにしたいと思ったんです。一歩間違えればボクたちだって向こう側に回る可能性もある。そしてこれは死刑だけに言えることではないですが、自分と違うものだと思った途端、排除するという傾向には抗いたいです」
大杉さんからは、「佐伯よりも死刑囚を浮き立たせるように、だとか、教誨室という内側の世界と外側の世界を対比させるような風にしたらどうか」といった提案があったそう。「撮影前に何度かリハーサルを重ね、セリフはほとんど台本どおり。それでも現場でいざカメラを回すと、大杉さんから想定していたのとは全く違うものが出てくるんです。表情ひとつ、声の出し方、あらゆることがすさまじい。しかもそれぞれの死刑囚に全く異なるアプローチで向き合う。ひとつひとつの感情の流れが強烈に感じられ、毎回驚かされました」
また、大杉さんの俳優としての才能のみならず、映画人として学ぶことも多かったと振り返る。「この作品では主演で、プロデュースという立場。たくさんのセリフを覚えなければならず大変だったと思うのですが、食べきれないほどの差し入れを下さったり、ご自身でサラダをつくってくださったり、冗談を言いながらみんながおいしいものを食べてテンションを上げられるように、場の雰囲気をものすごく作られていたんです。とても見習いたいと思いました。仕事に厳しい方なので、以前は怒鳴ったりすることもあったようなのですが、今回の『教誨師』は、本当に穏やかで楽しい現場でした。ただ他人がどういうことを考えているか無頓着のようでちゃんと見ている方。だからある意味怖い部分もあって緊張しますし、相手がどうしたらリラックスするのか、そして何をしたら最大限の力を引き出せるのか、常にそういったことを考えられていた方でした」
「教誨師」は、10月6日から東京・有楽町スバル座、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開。
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