安藤政信×矢崎仁司監督、センセーショナルな題材を繊細かつ美しくつづる ふたりの品格

2018年7月20日 13:00


唯一無二の世界観を作り上げたふたり
唯一無二の世界観を作り上げたふたり

[映画.com ニュース]四方田犬彦氏の著書「映像要理」を基に、フランスの写真家アンリ・マッケローニとその被写体となった愛人の実話に着想を得て、矢崎仁司監督が安藤政信を主演に迎えて描いた映画「スティルライフオブメモリーズ」。女性器を撮る写真家というセンセーショナルなテーマでありながら、生と死、女性の持つ神秘性と強さに惹かれる男性という人類の根底にある真理を繊細かつ美しく表現した作品だ。

ふたりが共に仕事をするのは「ストロベリーショートケイクス」(2006)以来。08年から活躍の舞台を海外に広げていた安藤だが、「ずっと矢崎さんと再会したいと思っていた」と明かす。「ある日風の噂で、矢崎さんが僕と連絡を取りたがっていると聞いていて、ちょうど日本に帰ってきて事務所が決まったときに、矢崎さんの作品のオファーが来て、もうこれは自分の思いが引き寄せたのかなと。脚本も矢崎さんの繊細な世界観が出ているすごく素敵なものでした。自分のなかでとても大切な監督と再会でき、今回この作品に出ることに迷いはありませんでした」と12年ぶりの矢崎作品への出演の喜びをかみ締める。

矢崎監督は、長い間「映像要理」を映像化したいと願っていた伊藤彰彦プロデューサーと出会い、本企画を進行。「僕は『映像要理』もマッケローニも知りませんでしたが、1人の女性を撮り続けたその時間に興味を持った」といい、「2年間同じ女性の性器を撮り続けた、その時間やふたりの間に生まれる空気みたいなものを何とか映し撮りたかったのです。それは、安藤さんと永夏子さんが出会って、そこで生まれてくるものを撮れば間違いないという確信がありました。僕は演出なんかいっさいせず、いいものを見せてもらったという日々でした」と述懐する。

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写真家としても活動する安藤。「カメラマンの役はいつかやりたいと思っていましたが、まさか、大好きな監督の作品で演じられるとは」と感動を露わにするが、演じる上では「僕が普段撮る自分の写真の世界観は全部消して、役者として演じました」とプロに徹した。「カメラを持って自分を出すと、感情がどんどん止まらなくなってしまうし、撮り始めたらそっちに集中してしまうと思う。あとは、カメラの技術指導をしてくださる方と現場のスチルカメラマンへのデリカシーです。自分は本当に写真が好きで、敬意を持っているからこそ、今回の役が成立したような気がしました。言葉で『わかります』って言うのは安っぽくなってしまいますが、春馬のせりふやト書きの感覚が本当にすっと自分の中に入ってきました」と振り返る。

そして、「アトリエは自分が想像していたより、いいシーンになっていて驚きました」と、春馬と怜のセッションの場面を挙げる。「不思議な時間軸だったし、お世辞なく美しいシーンでした。しかもすごく物悲しくて……。矢崎監督すげえって思いました。ぶっ飛んでるし、ついていけないこともあるくらい強烈で。シャッター音だけが現実に戻してくれて、死んでるのか生きているのかわからないところに持っていかれましたね。生まれる前、子宮にいる感じとでも言うのでしょうか、動いているけど、この世には存在していないような。すごく美しいけれど、怖さもあって。性器を撮る話ですが、ゲスには見えないことが、矢崎さんの品格というか、感性、気持ちの美しさだと思います。本当にきれいに映していただきました」

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その言葉を受けた矢崎監督は「それは、安藤さんが持っている品が映るんです。これが成立したのは、安藤さんのおかげ」と俳優の存在を褒め称える。「日本映画というくくりでは考えていませんが、湖に石を投げるような、こういう映画がたまにあってもいいなと思っていました。自分の作品そのものに自信があるわけではないですが、この安藤さんを映し、僕が見たいものが映っているので、人に何を言われてもいいのです」と確信を見せる。俳優への演出をほとんどしない理由については「出演をお願いして、その人と出会って、その人の今を撮りたいのです。いつも進行中の死を生きているつもりで撮影しています。僕が机の上で考えたことを、出会った人たちがふっ飛ばしてくれる、その瞬間が見たいのです」と自身の哲学を語った。

スティルライフオブメモリーズ」は、7月21日から東京・新宿K's cinemaで公開。

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