行定勲監督、映画版「焼肉ドラゴン」は「未来に向けて放たれている」
2018年6月6日 09:00

[映画.com ニュース] 劇作家・演出家の鄭義信が長編映画初メガホンをとり、自身の人気戯曲を映画化した「焼肉ドラゴン」の試写会が6月5日、東京・ニッショーホールで開催。鄭監督と、かねてより親交のあった行定勲監督が、上映後のトークショーに登壇した。
「7~8年前、鄭さんに大作映画の脚本をお願いしました。脚本は完成したんですが、『これでいけるぞ!』という段階の1週間前に企画がポシャってしまった。素晴らしい脚本が残っているので諦めたわけじゃないです」と鄭監督との関係性を明かした行定監督。韓国・第19回全州国際映画祭のオープニング作品として上映された際に「とにかく、今、見るべき映画であることは確かだ」とコメントしており、トーク時には「2回見るととんでもないことになる」と語るほど、鄭監督の手腕を絶賛した。
「舞台版の感動を超えられるのだろうかと余計な心配をしていました」と振り返った行定監督は、「(映画版の)監督が鄭さんで良かった。他の監督が受けたら、その人は大丈夫かなと思うほど。僕にオファーが来たら『自信がない』とすぐに断る」と告白。さらに「映画は“過去”である記憶から生み出される。それを数年経って“今”作るんです。“今”撮るんだけど、優れた映画は“未来”に向けて放たれる」と本作に備わっている魅力を解説する。そして、話題は“在日”という要素を持った自作「GO(2001)」へと発展した。
「焼肉ドラゴン」に登場する末っ子・時生(大江晋平)の“いじめ”のエピソードを例に出し「小学校の頃の友達が、体操服に『キムチ』と書かれていた。彼は通名を使っていたんですが、朝鮮人だからといじめを受けていたんです。その友達は水難事故で亡くなってしまったんですが、『彼と自分たちは何が違う?』という疑問がずっと心にあって『GO』に繋がっていた。その時代に『彼のような人の支えになる映画があればいいな』という思いでやらせてもらったんです」と述懐。やがて日本に“韓流ブーム”が訪れると「通名だった僕の友達たちも、皆本名に変わっていった。そんな時代が来るとは思わなかった。僕はそれがすごく嬉しかったんです」と話していた。
「演劇の方なので、芝居が全部できたうえで撮っている点が明確」と評された鄭監督は、大泉洋とハン・ドンギュがマッコリの飲み比べで対決するシーンについて言及した。同シーンは長回しで撮影されているが「元々はカットを割る予定だったんです」と説明。「当初は『2杯で止めるからね』と言ったんですが、面白いからずっと回していた。撮影の山崎(裕)さんが『まだやるの?』と1回持ち場を離れた時があって、その時カメラが少し浮いているんです(笑)。劇中で使用しているのはリハーサルのもの。(本作には)ドキュメンタリーの要素がある。エモーショナルな部分はリテイクせずにやっています」と知られざる秘話を披露していた。
「焼肉ドラゴン」は、高度経済成長期真っただ中の日本を背景に、関西の地方都市の一角にある小さな焼肉店で、故郷を奪われた家族6人が時代の波に翻ろうされながらも力強く生きる姿を描く。6月22日から全国公開。
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